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傷ついた少年

 オルトともに路地に横たわる少年のもとに急ぐ。顔や体に打撲のような跡がついていて力なく横たわる彼は、昨日私たちがリンゴとかを渡した孤児院の少年だった。


「大丈夫? ってそんなわけないうよね」

「オルト、何でもいいから食べ物買ってきて。出来ればスープとかお腹に優しいものがいい。それときれいな水も欲しい、――って井戸があそこにあるわね。そっちは私が行くわ」

「わかった」


 走り去るオルトを横目に、少年に向き直る。


「ごめんね、ちょっと待ってて」


 素早く街の公共井戸で水をくみ上げて、ハンカチ代わりのタオルを濡らして戻ってくる。


「何があったの」

「昨日のお姉ちゃん……」


 声にも力がない。弱弱しい目が私をどうにか捉えているけども、気を抜くと気絶してしまいそうなほどだ。昨日だってお腹を空かせていまにも餓死しそうって感じだったのに、今日はもっとひどい。


「大丈夫よ。すぐにさっきの彼が何か買ってくるから」


 オルトを待つ間に、濡らしたタオルで汚れた身体を拭きつつ怪我の具合をチェックしていく。薄汚れているせいで打撲の跡を見逃しかねないから、ゆっくりと丁寧に作業をしていく。水の精霊石がないから、汚れたらもう一度井戸まで走ったりした。少年は靴を履いていないから足は土でかなり汚れていた。

 そういう汚れを拭っていると、オルトはすぐに戻ってきた。

 屋台のご飯というのは注文を受けてから作るわけじゃないから提供は早いのだろう。


「ほら、食べて」


 少年に渡しても食べれそうになかったから、幼児に食べさせるようにして少年にスープを飲ませてみる。すると、コクリと喉を鳴らして飲み込んでくれた。

 うん、まだ大丈夫だ。


「私の見立てだと大丈夫だと、オルトも確認してくれる」

「任せろ」


 私が少年にスープを飲ませている間に、オルトに触診をしてもらう。白衣の天使になる予定の私だったけど、予定は予定でずぶの素人だ。引き換えオルトは兵士であったのなら、怪我には私よりも詳しいだろう。


「骨折はなさそうだ。ただの打撲だけだが酷いな」

「本当にね。子供にこんなことするなんて信じられない。ゆっくり食べていいからね」


 ちょっとずつ元気を取り戻していった少年は私から器を受け取ると、自力で食べ始めていた。ここまで回復すればちょっと安心できる。


「良かったら何があったか聞かせてくれる」

「……ごめんなさい」

「なんで謝るの? 謝ることなんて何もないんだよ。ああ、そうだ。私はアイカ、そしてこっちがオルトっていうの。名前を教えてくれないかしら」

「テッド」

「テッド。誰に殴られたのか教えてくれないかな」

「……神父様」

 

 なんだそれは。神父が子供殴るとかクソじゃん。この世界にまともな大人っていないの。


「一応聞くけど、理由は?」


 どんな理由があろうと許せる行為ではないけど聞いてみた。テッドは私の顔を伺うようにチラチラと見ると、なぜか唇を噛みしめた。日常的に虐待を受けていると大人の顔色を見るというけど、これはそういうアレなのだろうか。


「心配しなくても大丈夫だよ。どんな理由であれ、子供を殴っていいことにはならないから。私が知りたいのはね、その神父がどのくらい最低なのか知りたいだけだから」


 少年が悪いことをしたというのなら、神父のことは半殺しで許してもいい。でも、少年に非がないなら生きていることを後悔させてやる。理由を聞いたのなんてその程度のこと。


「テッド。素直に話していいぞ。このお姉ちゃんは、ちょっとばかし歪んでいるが悪い人間じゃないから」

「オルト?」


 ちょいとオルトさん? 昨日のアレをまだ根に持っているの。いいじゃない、住民の血税だけどいいことに使ったんだからさ。別にクズ男爵みたいに私利私欲を満たしたわけじゃないだよ。まあ、この先も自分のために使わないとは言わないけど。


「……ごめんなさい。お姉ちゃんがくれたお金取られちゃった」

「え?」

「どういうことだ」

「せっかく僕たちにくれたのに、無駄にしてごめんなさい」

「待って待って。なんで謝るの。っていうか、誰にとられた」

「なんでこんな大金をもっているだって。盗んだんだろうって」

「つまり神父が」

「……うん」

「ごめん」


 私は少年を抱きしめた。


「ごめんね。私が浅はかだった。孤児院までついて行くべきだったね。それに銀貨じゃなくて銅貨の方が良かったのかもしれないね。私が何も考えずにお金をあげたりしたから、テッドがこんな目にあったんだよね。本当にごめん。

 孤児院の友達のために、テッドは戻ったんだもんね。自分だけじゃなくてみんなが食べられるようにって。だから、お金持ってるのみつかっちゃんだもんね。全部悪いのは私だ。今日だってこんなに傷だらけでここにいるのってみんなのためなんでしょ」


 私があげたお金を無駄にしたと、テッドは謝った。

 すべては奪い取った神父が悪いのに。

 殺す。

 神父、殺す。


「お姉ちゃん、痛いよ」

「ご、ごめん」


 気持ちが高ぶって思わずテッドを力強く抱きしめてしまった。慌てて手を放してオルトを振り返る。


「あのさ、ちょっと急用ができたんだけど、情報収集は後回しでいいかな」

「断るわけないだろ」


 私でもキレそうなのに、オルトが激怒しないわけないか。

 とはいえどうしようか。

 相手は神父。孤児院で一番偉い人なら簡単に排除できるはずもないし、テッドたちの住むところを奪うわけにはいかない。


「ねえ、テッド。孤児院について色々教えてもらってもいいかな」

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