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隠し金庫

「仕事なんてしてなさそうな割に立派な執務室ね」


 豪奢な絨毯に重厚そうなデスク、どっしりと座ることのできる大きな椅子。壁には資料や本がびっしりと収まっている。こういう時は男爵の目線で考えるのが基本だと思うから、まずは机へと向かう。

 さぞかし座り心地の良さそうな椅子だけど、重厚そうな見た目通り重くて動かないから私は机と椅子の間に身体を滑り込ませるようにして座ってみた。

 革張りの椅子は身体をすっぽり包み込んでくれる。


 デスクの上にはガラスペンにインク、ペーパーナイフがあるけれど書類の類はない。それどころか高級そうなお酒の瓶とグラスが置いてあった。

 やっぱり、仕事をする場所とは思えない。


「まずは、この辺からかしら」


 手を伸ばして机の引き出しを一つずつ開けていく。

 見た目と空間に違和感はなく、二重底になっているとは思えない。

 奥行だってデスクの大きさとぴったり一致しているし、嵩張るだろう銅貨や銀貨といった硬貨が隠されているとは思えない。元の世界のようにお札があるのならともかく、硬貨を隠すならそれなりの空間が必要だと思うのだ。

 

「そんな簡単には見つからないさ」

「うーん。そうなんだけどね。ああいうお金に執着した人間って、いつでも手に取れるところに置いてると思うんだよね。だから、執務室が一番怪しいと思ったんだけど」

「いつでも手に取れるならそれこそ簡単に持ち出せるんじゃないか」

「男爵としての本来の資金の方はね。それこそ部下にも手が出せる位置にあると思うのよ。でも、隠し財産は部下も場所は知らないと思うんだよね」


 机の周りの捜索は空振りに終わったので、今度は本棚を確認してみる。本をパラパラと捲って中が刳り貫かれていないか確認したり、本の後ろに何かがないかと探ったりしたけども何にも出で来ない。漫画なんかで見るように本棚が動かないかと探ってみたりしたけど、やっぱりそう簡単には見つかってはくれない。

 まあ、そんな簡単に見つかるなら住民がとっくに見つけていると思う。


「お風呂みたいにマナを流して動かすようなギミックってないのかな」

「余り詳しいわけじゃないが、見る限りスイッチらしきものは見当たらないな」

「んーーー。この部屋じゃないとなると寝室かなー。でも、この部屋なーんか気になるんだよね」


 この部屋で探し始めてからどうにも違和感がぬぐえないのだ。

 本棚の次はと壁をコツコツ叩いたり、足元を踏み鳴らしてみたり、空間がないかと探ってみても答えは何も出てこない。

 ん-、何を見落としているんだろう。


「住民が押し掛けたとき、男爵ってどこにいたのかな。よく考えたらそれを確認しないとダメだったわ。もしも、ここで作業中だったなら持ち出してるだろうし」

「確か屋敷で働いていた連中はどこかに集められてるみたいだぞ」

「聞きに行ってみますか」


 執務室を出た私たちは、馬鹿でかいテーブルのある食堂で屋敷で働いていた人達と会うことができた。彼らに聞くと、男爵はそのとき食堂で豪勢な夕食を食べていたらしい。というか、その残骸がいまもテーブルの上に残っている。昼間あんなことがあったというのに暢気なものだ。

 まあ、こんなことになるとは微塵も思わなかったんだろうけど呆れてものも言えないよ。

 

 となると、やっぱり執務室か寝室が怪しいのは変わらない。

 けど、話を聞くと男爵は一人で寝ることはないらしい。さみしがり屋だったのかしらなんてうぶなことを言うつもりはないから、そういうことなのだろう。でも、信用できない人間を連れ込む寝室に大事なものを保管しているとは考えにくく、一人になることの多い執務室が一番怪しいというものだ。


 そんなわけで戻ってきたんだけど、隠しているのだから簡単には見つからない。

 もう一度、男爵が座っている大きな椅子に座ってデスク周りを再び確認する。机の引き出しはもちろん、二重底になっていないか、裏面に何かないかという基本からもう一度確認してみるけども空振りである。

 あの男爵の性格からして、この椅子に座りながらニヤニヤして眺められる場所にあると思うんだけどなぁ。椅子の背もたれに体重を預けながら天井を眺めようとしてあることに気がついた。


「私はこの世界のことがまだよくわかってないんだけど、お金って硬貨以外にもあるの」


 オルトに教わったのは10エード硬貨である銅貨、それ十枚分の小銀貨、さらに十倍の大銀貨、小金貨、大金貨と続く。実際には金貨とかは純金ではないらしい。純金は柔らかいから当然と言えば当然だ。だから、小金貨10枚で大金貨1枚だけど大きさも10倍ってわけじゃない。金の含有率は国家機密らしいけど、今問題なのはそこじゃない。


「嵩張る金貨の代わりに宝石を使うことはあると聞くが、まさか見つかったのか」

「この街でかき集めていた血税っていうのは銀貨や銅貨ってところでしょ。定期的に換金していたとは思うけど、宝石にしたのなら身につけるのが一番だと思う。でも、換金前のお金はやっぱりどこかに溜め込んでいると思うのよ。ちなみに私の世界では硬貨だけでなく『紙幣』というものがあるんだけどね」

「『しへい』」

「簡単に言うと、例えば1万エードって書いた紙があるとするでしょ、それはそのまま1万エードの価値があるの。偽造防止の技術があるからこそ成りたつ信用紙幣ってところね」

「なるほどね、空飛ぶ乗り物があるような世界ならではか」

「……まだ、気にしてたのね。と、とにかく、紙幣があるなら隠し場所も変わると思ってね。でも、そうね。ところでオルトは大金持ちになったらやってみたいことってあるかしら」

「また、話が飛んだな。金持ちに? いや、考えたこともないな」

「夢のない男ね。この世界じゃ、一攫千金なんて考えたりしないのかしら。まあいいわ。そういう質問をすると、こう答える人がいるのを”札束のベッドで寝てみたい”って」

「どういう――」

「つまりこういうこと」


 私は立ち上がるとデスクの上にあったペーパーナイフを椅子の座面に深々と突き刺した。柔らかい布を切り裂いて綿を突き抜けた先で堅いものに突きあたる。そこから一気に引き裂いた。


「まさか」


 オルトが椅子を覗き込む。

 そこにあったのはぎちぎちに詰め込まれた銅貨、銀貨だ。村で手に入れた巾着袋何個分だろうか、文字通り住民の血税の上で胡坐を掻いていたのだあの屑は。

 太くしっかりとした木製の骨組みに革張りの立派な椅子。

 どっしりとした重厚感のあるそれは、私の細腕じゃ動かすのは難しい。

 だからって木製らしきその椅子が全く動かせないはずはない。

 この椅子は引くこともできないほどに重たかった。背中に思い切り体重を預けても傾かないなんていうのは流石にあり得ない。

 地面に縫い付けてもないのなら単純に重たいのだ。

 まあ、よくある隠し場所といえばよくある話よね。


「アイカ。まさか、それ全部持っていく気じゃないよな」

「何言ってるのよ。これは住民の血税なのよ。早くこのことをみんなに教えてあげて」

「あ、ああ。わかった」


 オルトは心底ほっとしたような顔を見せると、踵を帰して部屋を飛び出していった。私はこれからもオルトと一緒に旅を続けるのだ。こんなクズがはびこる世界じゃ、鬼獣や妖獣に限らず命の危険はあると思う。きっとこれからもオルトに救われる機会はあるだろう。そんな彼の信頼を裏切ることはできないもの。

 

 だから、少しだけにしておこうと思う。


 えっ、結局取るのかって。

 いや、だって、見つけたの私じゃん。

 日本だってお金拾ったらお礼に一割貰えるっていうし、これは犯罪じゃないと思う。オルトが戻ってくるまでそんなに時間はないと思う。だから、私は手早くやるべきことをやったった。

拙作にお付き合いくださりありがとうございます。


主人公とは思えぬ火事場泥棒にて第一章おわりです。

次回から第二章が始まる予定です。

第二章ではいい事しようと思います。


読者の反応がよくなくてモチベーションが駄々下がりしてます。

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作者は泣いて喜びます。

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