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賢人会+2(5)

 めっちゃ可愛い。

 え、どういうこと? ここにいるのって各組織の長だよね。幼女に見えるけど、幼女じゃないとか。あ、ファンタジーの定番のエルフ的な存在かな? 耳は普通の長さだけど。

 いや、長さは普通だけど、普通じゃない。

 いろいろと違う。


「じろじろ見るにゃ」

「ご、ごめんなさい」


 いや、見るでしょ。

 だって、人じゃない? この言い方はよくないか。エルフとかドワーフはいないし、獣人的なものもいないって聞いていた。でも、この子は小さな角が生えている。でも、尖がってなくてキリンの角みたいで可愛らしいやつ。

 角だけじゃなくて髪の毛も肌の感じもちょっと違う。髪は植物のつるみたいだし、肌は血管というより葉脈が浮いてるようで少し緑がかってる。

 瞳もなんか違う。

 瞳孔と虹彩以外の外輪がもう二つある。


「思い出して。賢人会の始まりを」

「始まり? それは大陸に避難してきたときの話か。だが、それはさっき嬢ちゃんが言った通り、妖獣どもの反乱を抑えきれず、滅びから人類を守るため君たち森の民に助けられこの地へ移住した」


 森の民ってこの大陸の先住民だったんだ。確かに、商人とか国王とかと比べると賢人会のメンバーとして謎だったけど、そういう事だったのね。先住民を迫害しなかったのは素晴らしい。


「妖獣とても強い。でも、人間も強かった」

「ああ、そうやな。だが、勝てへんかった。それは歴史が証明してる」

「歴史だけじゃなない。今でもそうだ。最近は卿のところに現れたゼロスの手によって町が一つ滅んだ」

「そうね。二尾や三尾はさほど恐れる必要はないわ。けど、四尾以上は危険すぎるもの」

「だが、決定的だったのは七尾の存在だと聞く」


 オルトから聞いた話だと、討伐にはそれぞれ二尾は小隊、三尾は大隊、四尾に連隊で五尾には師団相当が必要になるらしい。六尾ともなると領兵すべてをぶつける必要があるとか。それより上って何? そもそも、オルトから聞いたのは六尾までだった。


「ま、待ってください。まさか、黒が訪れてるっていうのは七尾を言っているんですか。そ、そ、そんなわけあるはずがないですよ」

「七尾が記録にある通りの存在であれば、すでに落とされた都市があってもおかしくはないな」

「ですが、七尾は闇を纏った人型の――」

「黒ですか」

「七尾の闇はすべてを飲み込むという話。結界すら飲み込む力があるのかも知れない」

「そんな力があるのなら、とっくに結界を破られているでしょ」

「せや。それに記録によれば七尾はコントロール下にあったはずや。もしも、コントロールが外れたとしてもわずか二匹のみ。それが番になったとしてもこの時代まで生きているとは思えんやろ」


 化け物を召喚したって話は完全なる作り話だったわけじゃないのか。嘘を付くときは真実を混ぜるといいとはいうけど、そういうことらしい。

 彼らの言うこともわかる。

 創世記に出てくる神々とか兄弟で家族を作ることもあるけど、実際に近親婚を繰り返せば血が濃くなりすぎて弱い個体しか生まれなくなる。八百年も続くとは思えないか。

 森の民の発言で方向性が変わったけど、着地点が見えない。


「けども。『穂が落ちる』とは何だ?」

「だからそれは実が熟したってことじゃ」

「いや、場合によっては病気なんかで熟す前に実が落ちることはあるし、種類によっては熟し過ぎってこともある」

「それが正解」

「病気?」

「それは、誰が?」

「主ら……はぁ」


 幼女がやれやれと肩をすくめて大きくため息をついた。老獪めいた仕草なのに、顔と声のせいで可愛く見えてしまう。


「『礎』とはなんだ?」

「それは結界をつくるために基礎となった――」

「『聖樹』か」

「ま、まかさ、『聖樹』が病気になったと」

「それ以外にあるまい?」

「えーっとすみませんが、『聖樹』ってなんです。あ、結界の『礎』っていうのはわかりますよ。そういう樹があるんですか。聖なる樹ってこと」

「ええ。聖女の力で結界は張られているけども、たった一人の力で結界を張ったわけではないわ。聖女の力は当時の混沌とした世界において常人を遥かに凌いでいたと聞きます。しかし、結界の維持にはマナが必要。大陸すべてを覆う結界のマナを人の力で供給し続けることなど不可能。

 それで結界のカギとなる『礎』を用意する方法を取ったの。いくつかの候補が上がったそうだけど、人工物の多くは時とともに風化する可能性が否定できなかった。そこで選ばれたのが『エナの樹』。

 聖光教会始まりの時より『聖樹』と呼ばれていたマナとの親和性の高い『エナの樹』は大地からマナを吸い上げ大気中に放っている。その作用を利用して『聖樹』から結界へとマナを供給し続けるような仕組みになっている」

「なら、その『聖樹』が枯れかかってるってこと」

「確かにそれなら『契りが破られる』、結界が破られる可能性もあるな」

「ああ、そういうことね。『黄が付いている』っていうのは土の精霊が付いているってことかしら。まだ間に合う。そういう話なのかもしれないわ」

「せやけど、どうするんや。『礎』はこの大陸の外やで」

「……」


 枢機卿の発言に場が鎮まる。

 っていうか、結構な衝撃発言じゃない。確かニーグスとかいう魔神教の異端は『礎』の破壊を先導してたんだよね。でも、そもそもこの大陸に無かったっていうオチ。すでに死んだ人だろうけど、ちょっと哀れ。

 自分たちの世界を守る大事なものを世界の外に設置するっていうのはどうなんだろう。ほかに方法がなかったのかもしれないけど、そんなものいつか破綻するのが目に見えてる。


「アルバートは『空渡り』を使えるんだろう。それなら結界外でも行けるだろう」

「せやけど、まだコントロールできとらん見たいやが」

「いや、そもそも、結界の外も人が暮らせるという話なら、聖樹が枯れても問題ないのでは」

「それを確認するためにも『空渡り』で外の世界を一度確認する必要があるのでは」

「こうなった以上『禁書』を解禁するしかあるまい。それぞれの識者を集めすぐに研究をさせよう」

「そうですね。しかし、すでに研究を大いに進めているアルバートからも『空渡り』の技術は聞き出したいところですね」

「聞き出せますか?」

「わ、私ですか」

「あほー、お前にはなんも期待しとらんわ。卿、どうでしょうか」

「アルバートの身柄は、アイカが抑えている」

「はぁ? 嬢ちゃんが?」

「ええ、私がここから戻ってこないときは、殺すように言ってあります。アルバートの持っている情報が必要なら猶の事、人質として価値がありそうですね。もちろん、引き渡しは可能ですけど一つ条件があります」

「なんや? 言うてみい」

「アルバートの持っている情報がどれだけ有用であったとしても、彼との取引をしないでください」

「ん? どういうことや」

「アルバートは死罪でしょう。それに対する恩赦を認めてほしくないということです」

「くっくっく。まあ、ええんやないの? 『聖樹』の不調がアルバートと関係あるかわからんが、少なくとも王都で暴れたんは事実やし、結界に亀裂を生じさせたせいで卿のところに五尾を引き込むことになったんや。死罪は覆らんやろ」

「その言葉を聞けて安心しました。まあ、無罪放免をちらつかせるとか、最期に彼の家族に会わせてあげるとか、そこはお任せします。ついでに私に関しても無罪ってことでいいですよね」


 私は賭けにかったのだ。



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