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公爵会議(4)

 ロニトリッセとカルトラッセの二人は礼をして会議場を後にした。

 それから簡単な休憩をはさむと、七人の公爵が再び議論を開始した。


「さて、カルトラッセの持ってきた遺言書だが、さきほど筆跡鑑定を追えたそうだ」


 サウザンドレイク公爵の元には一通の手紙が握られている。休憩に入る前に筆跡鑑定を依頼していたのだ。公爵会議で行われた様々な議決、あるいは新法の制定時には各公爵の直筆のサインが残されている。

 そのほかにも様々な形で本人直筆の文書は残っているのだ。それらと比較がなされ、先ほど戻ってきた。


「本人の可能性は81%」

「ほう。まずまずか」

「そうか。81%は微妙な線ではないか。本物なら通常95%以上は断言するだろう」

「そこはあれじゃないですか。カルトラッセの話では当人は熱病に浮かされていた時に作成したというではありませんか。多少筆跡が乱れてもおかしくはないと私は思いますが」

「然り然り、一理あるな」

「だが、筆跡を似せた偽物でも80%前後は出せるだろう。だからこそ90%以上が正否の判断とするのが通例ではなかったかと」


 思いもよらぬ遺言書の存在。それによりカルトラッセ側に傾きそうになった流れを引き戻すためエストリア公爵は偽物の線を押す。

 本物かどうかは関係ないのだ。

 ロニトリッセ側に立つという契約をしているし、そのための対価についても話は済んでいるのだ。その前提条件がなければ、カルトラッセ側についているだろうと、思っている。

 すでに実績のある19歳とまるで経験のない14歳。本人たちの答弁からしても優劣は明らかだった。

 だが、契約は契約。

 カルトラッセが公爵になるより、ロニトリッセが公爵になった方が利益がある。味方につくのにそれ以上の理由はない。


「とはいえ、マーガレスの言うように、病床という点を踏まえれば本物の可能性も捨てきれまい」

「だが、どちらにしろ可能性でしかないわけじゃな。であれば、この件は忘れよう。本物とも偽物ともつかないのであれば、判断基準とは出来ない」

「卿がおっしゃるなら、そうですね」

「まあ、私としたら先ほどの二人の姿を見ればカルトラッセしかないと思いましたがね。短いながらも簡潔、器の大きさも垣間見えました」

「然り然り。すでに公爵を名乗っていてもおかしくないくらいではなかったか」

「かかっ、ノーブレンより遥かに堂々としておったな」

「な、そ、それは言い過ぎでは」


 額に汗を掻き、どもる様子を見て周囲から失笑が漏れる。


「あれは経験のなせる業であろう。それを評価基準にしては本来の継承権一位であるロニトリッセが酷であろう。まだ14歳なのだから」

「だが、そうはいってもノーブレンの後にはイーレンハイツが国王となるのだぞ。マランドン王国において国王の力は大きくはない。だからと言って、あれでは諸外国に示しがたたぬであろう」

「そこらは我々がサポートすれば問題ないだろう」

「あるいは一度、国王の順番を飛ばしてしまうのもありじゃろ」

「しかし、それではカルトラッセの立場がないのでは。命を狙われたと主張するロニトリッセが公爵位を継げばカルトラッセを処刑、よくて追放処分と言ったところだろう。カルトラッセはすでにいくつもの施策に関わっている。領民の間にも名が広がっているようだ。このままでは領内があれるのでは?」

「領内が荒れれば隣り合うノーブレンやエストリアにも影響は出るだろう」

「私の所は構わんさ。そもそも、よその領地の問題が持ち込まれて混乱するような温い経営はしとらん。むしろ、私がロニトリッセの後ろ盾となってやっても良いと考えている」

「かかっ、すでに頼られているようだしな」

「そういうウェステリアこそカルトラッセと通じているように思えるが?」


 さっきから話を聞いていれば、カルトラッセ側についていることは見て取れる。自分自身ロニトリッセと契約している以上、同じような手を使ってないと考えるほど愚かではない。

 そもそも、カルトラッセは領都を抑えていたのだから、精霊通信を利用して各領主と秘密裏に話をすることは可能だった。エストリア公爵の所には一度も連絡はなかったが、それだけで裏工作をしていないと断じることは出来ない。

 各人の意見を耳にしていれば、現在の票はある程度読める。

 当初の予定通りエストリア、ノーブレン、サウザンドレイクはロニトリッセ側、そしておそらくはポルトガも。ウェステリアとマーガレスはカルトラッセと密約が交わされてそうな雰囲気がある。読めないのはテルヘラ。

 彼はまだ若く、公爵位を継いだのも3年前と経験は浅い。発言も少なくどっちにも流れる可能性はあるが、彼を引き込むための方策はない。

 おそらくは大丈夫だろうというところ。


「さて、議論は十分出尽くしたのではないだろうか」


 サウザンドレイク公爵が場を鎮めようとそんな言葉を口にする。普段であれば前公爵の直接の指名により決まる公爵継承のため、満場一致が常だった。しかし、本来は過半数の賛成を得たものが次期公爵となる。

 議論を交わす必要はあれども、意見を一つにまとめる必要はないのだ。


「これ以上議論を続けても意味はあるまい。私もすでにこころを決めておる」

「然り然り」

「確かにな。これ以上は不毛だろう」

「ですね」


 後は流れに身を任せるか。

 エストリア公爵もまた頷きをもって答える。


「さて、では、議論はこれで終わりとする。では、カルトラッセ、ロニトリッセどちらが次の公爵にふさわしいか、決を採ろう。イーレンハイツ。お主はどうする」

「わ、私からですか。私はロニトリッセを推しますよ。少なくともアルバートと組んでるカルトラッセを許すわけにはいきませんから」

「私はロニトリッセを推す。匿っている私がわざわざ宣言するまでもないだろうが」

「かかっ、そりゃそうだ。まあ、俺はカルトラッセを推すぜ。どう考えても彼の方が公爵にふさわしいと思うがね。お前らも良ーく考えろよ」

「然り然り、私もカルトラッセを推させてもらうよ」


 ウェステリアとマーガレスは予想通りカルトラッセに回り、現状は二対二。


「えーっと、私はロニトリッセを推したいと。正直どちらも犯罪者を手元に抱えているっていうのはどうかと思うんですけどね。とはいえ、ロニトリッセ君のところの子は今一つ犯罪があいまいですからね。

 14歳という年齢は気になりますけど、エストリア公爵が後ろ盾につくという事であれば問題ないでしょう」


 一番読みにくいテルヘラがついたことで三対二。一歩優勢になった。


「正直難しいな。ロニトリッセの協力者の持つ知識は魅力だ。領地経営とは違うだろうが、領内を発展させる可能性はあるだろう。だが、未知数であることは否めない。そう考えれば、実績を積んでいるカルトラッセは信頼に値する。よって、私はカルトラッセを推させてもらう」

「ふむ。現状三対三か。ならばワシの意見で決まるという事じゃな。ワシは――」

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