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公爵会議(1)

 マランドン王国における公爵家は全部で八つ。現役の公爵は8人しかいない。そのはずだが、公爵会議が行われる長テーブルには20もの椅子が備え付けられていた。

 テーブルもその分大きい。

 部屋の奥にあたる上座に座るのは唯一王位を継承することのないサウザンドレイク。右手前にノーブレン、一つ開けてエストリア、左側にウェステリア、マーガレス、テルヘラ、ポルトガと続く。

 同じ公爵と言っても、年齢層にかなり開きがある。最高齢はサウザンドレイクで、一番若いのはテルヘラ。もっとも、最年少はすぐに更新されることになる。


「皆の者、息災か」


 サウザンドレイク卿の声を皮切りに会議が始まる。


「イーレンハイツのは残念だったな。あいつはまだ40を過ぎたくらいじゃなかったか」

「ええ、私と一つしか違いませんから」

 

 答えたのはこの中では若手に数えられる赤髪細目のマーガレス。マランドン王国南西に領地を持っている。平地が多く広大な穀倉地帯を有し、王国の食糧を担っている。


「病気ですか」

「亡くなる少し前にお会いしたときは元気でしたけどね」

「突然だったそうだ。熱病にやられたらしい」

「なんとも……」

「ワシらも油断は出来んな」

「気にするならその太った体をどうにかしろよ」

「わ、わかってますよ」


 ぼっちゃりとしたノーブレンに筋骨隆々としたウェストリアがツッコミを入れる。50代で年齢も近く公爵の中では中のいい二人。ここにいれば現国王などという肩書は微塵も意味をなさない。足の引っ張り合いが普通ともいえる貴族において公爵家は交代制の王位という関係からか仲は悪くない。


「本当に残念だったが。今回の議題はそれに関することだ」

「次期公爵ですね」

「ですけど、イーレンハイツのとこはまだ子供じゃなかったか」

「兄のカルトラッセが19、弟のロニトリッセが14と二人ともまだ若いな」

「弟の方が継承権は上だったよな」

「ですが、確か行方不明という話じゃなかったか」

「それは問題ない。私の所におる」


 答えるはエストリア。


「おお、エストリアの。隣領とはいえ付き合いがあったのだな」

「たまたまだ。今回助けを求められてな」

「助け」

「ああ、兄のカルトラッセに命を狙われているというものだ。皆も聞き及んでおるだろう。ユーデンハイムでのゴレイヌ討伐戦、そこへ成人の儀として兵の指揮にロニトリッセは派遣されていた。

 しかし、突然のゲナハド出現により兵に死傷者が出た」

「ああ、痛ましい事故だった、うちからも兵を派遣していたからな」

「新人の研修として最適と考えて新兵ばかり派遣したのが裏目に出たな」

「ああ、ワシの所も同じよ」


 それぞれの公爵領において被害の程度は似たり寄ったりだった。ノーブレンが口にしたように、新兵を派遣して戦闘経験を積ませる格好のイベントであるために、被害が拡大してしまったのだ。

 皆が自分の所の兵士の死をひとしきり悼んだのを見届けるとエストリア公爵は爆弾を投下する。


「そのゲナハドの出現に関してだが、人為的なものの可能性がある」

「人為的?」

「まさか、妖獣をコントロールできるはずもないだろう」

「いや、そうでもないらしいが……」


 賢人会でそれらしい情報を得ているノーブレンがもごもごと口にする。もっともその発言は小さすぎて誰にも届いていなかった。


「アルバート。この名前に覚えはあるだろう」

「禁書を持ち出したバカのことだな」

「ああ、どこぞのアホの部下だったらしいな」


 丸顔に玉のような汗が浮かぶ。


「過ぎたことを蒸し返すな」


 サウザンドレイクの一喝に場が一気に引き締まる。


「あれが盗んだのは召喚術に関するもの。この場の者ならみな知っているだろう。召喚術にはそもそも召喚獣を支配する術式が刻まれているはずだ。そして、ルーデンハイムで突然現れた三尾はアルバートが仕掛けたものとロニトリッセは言っていた」

「証拠は?」

「ない」

「だろうな」

「だが、アルバートがなぜカルトラッセと組む? その狙いは何だ?」

「ロニトリッセの話では、アルバートはいまだ禁書庫に用事があるらしい。そのため、次期国王となるカルトラッセに協力するために、妖獣を召喚させ暗殺に手を貸したと推測している」

「筋は通るな。妖獣による暗殺であれば、事故で処理される可能性が著しく高い。言われるまであれは不幸な事故だったと思っていたからな。事実だとすればかなり頭の切れる男だな。カルトラッセは」


 エストリア公爵が言ったように、暗殺を仕掛けたことに驚くものはこの場には一人もいない。それどころか暗殺に用いられた手段に対して好意的な雰囲気すら醸し出している。


「アルバートが妖獣を操れるという話はワシの所にもある」

「本当ですか」

「卿の情報網なら本物でしょう。本来、召喚術には対象を縛る術も付随していると聞きますから、襲撃をコントロールするのも簡単でしょう」

「しかし、その話はどこから出てきたのです。ロニトリッセがアルバートから襲われたと証言しているんですか。妖獣を嗾けるのに本人が顔を出すとは思えませんが」

「襲われたという証言だけではない。ロニトリッセはアルバートを返り討ちにして捕縛して私の所に現れた」

「「「「………………はっ?」」」」


 想定外の答えに一瞬どころか長い間を開けて、異口同音の「は」が無駄に広い会議室に響く。


「いやいやいや、そんな話聞いていませんよ」

「ああ、いま言ったし、そもそもロニトリッセが私の所に来たのは二週間ほど前のことだ」

「精霊通信があるでしょうよ」

「だが、俺が聞いた話でエンロと共闘したという話だったぞ。そっち経由での連絡はなかったのか」

「は? それはどういう……なぜ公爵位も持たぬものがエンロを知ってるんです?」

「さて。それもまたロニトリッセの力と言うことだろう」

「エンロってのは何です」

「ああ、マーガレスは知らんか。いまはまだ知る必要のないことだ」

「それは……まあ、いいでしょう。今はまだということはいずれ知ることになるという事でしょうから」


 しぶしぶという感じでマーガレスは頷く。エンロという言葉に反応したのは二人。それが王位の経験者となれば、王位につくことが「いずれ」ということなのだろうと納得できたから。


「かはっ、しっかし、ノーブレン。お前の所の追跡部隊は何してんだよ。一度も遭遇できなかったって話じゃなかった」

「そうですよ。あの男は神出鬼没でどうにもならなかったんです」

「ってことは、ロニトリッセに捕まえることが出来たということは逆説的に言えば、狙われていたからこそともいえるわけか」

「それは……確かに。そしてアルバートそのものに動機があるというより、カルトラッセと組んでいると考える方が自然ってことですね」

「面白いな。どんな手を使ったが知らんが、妖獣を従えるアルバートを返り討ちにできたロニトリッセ。それだけの人脈を作るとは、ただの14才ってわけではなさそうだな」

「兄のカルトラッセの噂もよく聞くな。あれが始めたという廃鉱山で熟成されたワインには毎晩楽しまさせてもらってる」

「ああ、あれはうまい。それにカーカランドの蝗害も見事に収めたらしいな」

「母親の爵位が低いゆえに長男ながら継承権は二位となっているが、公爵を継ぐのに十分な資質があると言えるな」

「し、しかし、あいつはアルバートと結託して、禁術に手を出したんです」

「っくく、ノーブレンのはアルバート憎けりゃカルトラッセも憎いか」

「そ、そういうわけでは……」

「いや、しかし、資質はあれど禁術に手を出すようなものを容認するわけにはいくまい」

「卿らしいというか」

「堅いか……だが、法を作る側の我々が守らねば、示しがつくまい」


 想定通りノーブレンとサウザンドレイクの二人はこちら側につくか。

 エストリア公爵は会議の流れを見ながら、次の手を開示するタイミングを検討する。ロニトリッセと約束した以上、説得は行う。あと一人、こちら側に引き込めばそれで契約は完了だ。


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