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暗躍してた私

すみません。1年半も放置していました。

完結まで毎日投稿します。

最後までお付き合いよろしくお願いします。


「ロニー君は不思議に思わなかったの。ロニー君の出発日が決まるとすぐにさ、オルトがそっくりな女の子連れてきたの」

「え、でも、あれは万屋ギルドで見つけたって」

「まあ、万屋ギルドで見つけたのは本当だけどさ、見つけたのは私だよ」


 私たちは宿の一階の食堂で三人の再会を祝していた。領都ということで、各地から様々な食材が集まってくるのかテーブルの上には多様な料理が並べられている。それと合わせるワインもまた格別である。


「お屋敷を追い出されちゃったでしょ。だからロニー君がエストリア領都にたどり着けるか不安だったんだよね。私のこともあったし、何かあれば子爵が手を引くこともあるのかなって。

 そうなったときに、一人でもエストリア領都にいけるようにできないかなと思っていろいろ考えていたんだけど、万屋ギルドでいい子を見つけていたのよ」

「あの後すぐにここに来たわけじゃなかったんですね」

「うん。っていうか、同じ馬車に乗ってたよ」

「は、はぁあああ!?」

「いやーリッセちゃんかわいかったなぁ」

「ちょ、ちょっと待ってください。だけど、え、でも、どこに?」

「リッセちゃん、乗合馬車に乗ったときって全然周り見てなかったでしょ。しかも、隣のおばちゃんにウザがらみされてたし」

「だったら助けてくださいよ」

「やだよ。面白かったもん」

「うぅうう」


 ロニー君の悔しそうな悲しそうな、そして恥ずかしそうな顔を見ているとにやにやが止まらなくなる。


「そりゃ周りを見てなかったのはわかりますけど、そんな風に雰囲気を変えられたら気付きませんよ。髪の毛はわかりますけど、目の色なんてどうやって変えているんです」

「よく気がついたわね」

「気がつきますよ。僕はアイカさんの黒い瞳好きだったんですから」

「あれっ、そうなの。ああ、でも、これは元に戻らないかも」


 いまの私の髪の毛や瞳の色は茶色をしている。

 それはウィッグでもないし、カラコンでもなく本当にそういう色になっているのだ。エズラ子爵家を出てすぐに、見た目を変える方法を考えた。

 髪の毛はウィッグを被ればどうにでもなるけれども、瞳の色を変える手段は私の知る限りなかった。しかし、ここは異世界で精霊術やらなにやらファンタジーのある世界だ。


「どういうことです」

「土の精霊術を使ったんだけどね」

「そ、そんなことができるんですか」

「アイカの精霊術だけもはや別物だな」


 素っ頓狂な声を上げるロニー君の横で、オルトはやれやれとため息をはく。

 オルトとは孤児院経由で早々に再会していたけども、彼にも瞳の色を掛けたからくりは話していなかった。

 

「簡単に言うとね、ロニー君やオルトの怪我の治療をしたのと真逆のことをしたんだ」


 オルトが火の精霊術のデモンストレーションをした時、火を大きくしたり小さくしたりしていた。それを土の精霊術に置き換えるなら、土の状態をよくすることも悪くすることも出来るということだ。

 つまり、土の精霊術で細胞の働きを活性化あるいは不活性化できるんじゃないかという風に想像していた。


 正直、この気づきは怖くもあった。

 だって、極端な話、心臓の細胞や脳細胞を弱らせることができるなら人を殺すこともできるってことになる。

 怪我の治療の際には白血球の働きを高めて、体の回復機能が高まるようにマナに想いを乗せていたわけだけど、体に入ってくる病原菌の力が弱まることを願わなかったと言ったらうそになる。

 それが効いていたのか定かではないけども、出来るだろうという確信めいたものはあった。

 髪の毛や瞳が黒いのはメラニン色素が多く含まれているからである。つまりはメラニン色素の働きを弱めてやれば色は薄くなって茶色になるだろうと思ったのだ。


「そんなことで」

「できたみたい。正直一か八かだったけどね。結果は見てのとおりよ」

「相変わらずすごいな」

「おかげで目立ちにくくなったのはいいんだけどね。動きにくくなったっていうのもあるんだよね」

「どういうことです」

「ロニー君が言ったみたいにね。すぐにこの街に来ることも考えてたの。私のプランだと子爵も公爵もロニー君も、それぞれが納得いくプランを立ててたでしょ。でも、あれって正直そこに子爵がいなくても成立するんだよね」

「それは……たしかに」

「だから子爵への腹いせに、子爵を除いて話を進めちゃおうかなって考えていたんだけど、私の最大の特徴をなくしたらどこの馬の骨だって話になるじゃない。そうなると話を通すなんて無理なのよ」


 公爵くらいの大貴族であれば、子爵が進めている新開発に黒目の女性が関わっていることくらい突きとめている可能性はある。もちろん、それはただの想像に過ぎないけれども、話を聞いてもらうきっかけくらいにはなると考えていた。でも、指名手配されてると……まあ、考えるまでもないよね。


「だからね。ここからの交渉はすべてロニー君に任せるわ」

「……はい。それはもちろん。元々僕の問題ですから。明日にでも紹介状を持って訪ねるつもりにしています」

「それに関してだが、俺からもいいですか」


 普段は聞き役のオルトが珍しく話を切り出した。


「あの後、俺も計画通りに動いたんだが、作戦は成功している」

「それじゃあアルバートを」

「ああ、捕まえた」

「そっか、殺さなかったんだ」


 ほっとして私はつぶやいた。ケガが治るのを待たずに私たちの元を飛び出していったときの彼の背中は憎しみに染まっていた。作戦を伝えたときの彼は冷静だったけど、それでも自制できない可能性は決して低くないと見積もっていた。


「今でも殺したい気持ちは微塵も変わらないさ。だが、どうせ奴は死ぬ」

「ありがとうございます」

「ロニー様のためというわけでもありません」


 申し訳なさそうに首を左右に振ったオルトが続ける。


「アルバートの身柄は今は子爵様の兵が押さえています。彼らが公爵へ面会を取れたのは三日後になります」

「そこに入り込むってことですか」

「ああ、だからこそ俺はここに来たんだ。そんなわけでまずは連中と合流するのがいいと思う」

「そうね。それで一緒に公爵邸に向かって、何だったら捕まえたのもロニー君の手柄にしちゃえばいいし」

「いや、それは、さすがにちょっと」

「いいのよ。部下の手柄を横取りするのが貴族の嗜みでしょ」

「そんな嗜みはありませんよ。もう、どんな偏見ですか。そういうのがいないとは言えませんけど」

「いるんじゃない」


 私は呆れたように半眼を向ける。この世界でかかわりを持った貴族は、多くないけれども最初に遭遇したのがクズ男爵だったせいもあって貴族への先入観が中々ぬぐえずにいる。

 エズラ子爵だって、私のことを利用するだけして捨てたところを見れば、善人とは言い難い。それなりのお金を持たせてくれたところに多少の義理堅さはあると思うけど。


「とにかく。それじゃあ、これからどうします。三日後の時間はわかっているんですか」

「夕刻3の鐘が鳴るころと聞いています。ただ、俺が直接話を聞いたわけじゃないので、連中が嘘を付いている可能性もあるかと」

「宿はわかっているのよね」

「もちろんだ」

「じゃあ、まずはそこに行きましょうか。見張る意味もあるけど、私としては先に話がしたい。引き渡されると接触できない可能性もあるでしょ」

「いや、しかし、それは……」

「ああ、オルトは知らないよね。うん。もう大丈夫だよ」

「大丈夫?」


 正直、怖くないかと言われればウソになる。あれ以来ドンちゃんの姿は見えないけど、精霊らしきものが簡単に死ぬとも思えない。


「うん。原因らしきものは取り除いたから。でも、何が起きるかわからないから、一応対策は打っておこうか」

「取り除いた?」

「そうなんですよ。ものすごく大変だったんですから」

「その節はお世話になりました」

「ええ、本当です」


 言葉の通じなくなった私を支えてくれたのは言うまでもなくロニー君だ。あの大変な時期にあったことを思い出して盛り上がる私たちを横目にオルトが料理をがっついていた。どうやら疎外感を感じたらしいオルトの態度が可愛らしく私はちょっとニヤニヤする。


「ちゃんと説明するとね――」


 と、私はオルトのいない間に起きた出来事を説明した。

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