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飛蝶、燃ゆ。

作者: さなゆき

  ざっ……ざあっ……!

  木と木の間を高速で通り抜ける影が一つ。月明かりを後ろにし、先を急いでいる。

  その様は夜闇に紛れる蝙蝠(こうもり)かむささびの如く、実に軽快にして隙が無い。

  だが――。


  ピイーッ! ピイーッ!


  影の落とした木の葉一片。

  それが地上に張り巡らされたレーダーに引っかかり、警告音が森中響き渡る。

  ちっ。と影が舌打ちすると、一斉に森を照らす明かりがつく。

  明かりは影の姿を追う。

  いくら影が早かろうと、明かりはその姿を捉えて離さない。

  見ればその容姿、可憐(かれん)にして妖艶(ようえん)

  見目麗(みめうるわ)しき二十歳手前頃の女である。

  均整の取れた肢体(したい)は黒いぴたりとした衣装のせいもあり、余計に色気を(かも)し出している。

  髪は頭の上で束ね、巻いてはいるが艶々(つやつや)とした黒髪。凛とした切れ長の目は、右の涙袋に一つ黒子がある。

  どれを取っても一級品の美女なのだが、左目と右足脹脛(ふくらはぎ)から下が鉄独特のぬめるような光沢を放っている。

  義眼と義足である。

  そんなものはこの時代には珍しくは無い。


  二一××年――時は近未来。


  時代錯誤(じだいさくご)の『忍』が暗躍する『情報戦国時代』。

  影の名は飛蝶(ひちょう)。日本国が抱える『くの一』が一人である。


         ●


  飛蝶は急ぎ、(ふところ)のマイクロチップを『里』と呼ばれる情報機関に届ける任務を負っている。

  こんな所で足止めなど食う暇は無い。

  なぜ自分が駆り出されたか、それは彼女には重々分かっている。

  この時代、大切な情報ほどネットワークを経由して送ってはならない。なぜならネットワークを通した時点でどこかのハッカーがコピー或いはデータを盗難してしまうからだ。

  もはやネットワーク上の戦場はコンマ数秒単位のいたちごっこ。一刻を争う情報戦では逆に時間がかかってしまう。故に迅速迅速(じんそく)()つ確実に自分達が届けねば。

  任務のためならば命をも賭す覚悟で――。


  ちゅいいい……。


  レーザーが飛蝶を狙う音がする。飛蝶は咄嗟咄嗟(とっさ)に身を捩り、照準をかわす。


  ぴしゅっ!


  それと同時にレーザーが放たれたが、飛蝶の髪留めを掠るのみに止まる。

  すると飛蝶は義足に備えてあったリップスティック様の光線クナイを数本投擲(とうてき)する。


  かかかっ。


  光線クナイは狙いを過たず、レーザーと照準機に命中する。左目の義眼が照準を補正する役目を担っているのだ。

  小規模の爆発が起き、一時森が明るくなる。

  それを皮切りに飛蝶にレーザーの嵐が降り注ぐ!

  流石にこれはかわせまいと監視カメラ越しに警備員がにやりとほくそ笑む。

  数秒後に予想したのは、哀れ飛蝶の無残な姿。

  しかし、レーザーは飛蝶の手前で次々と屈折し、狙いを()らしてゆくではないか!

  これにはさしもの警備員も開いた口がふさがらず、モニターを凝視する。

  そこには両腕を頭上で組み、腕に装着した半透明の盾で全身を覆う飛蝶の姿があった。

  にい、と笑う妖艶な飛蝶の笑みを映すモニターの前。

  警備員たちはぞくりと体を震わせる。


  なんと美しいが冷たい笑みだろうか!

  見るもの全てが凍りつくような錯覚すら覚える。


  飛蝶は腰から円筒状のものを取り出すと、かちり、とスイッチを入れた。

 

  ブゥウウゥン……。


  静かに唸りを上げるそれは、プラズマを放つ短刀。

  飛蝶は短刀を逆手に持ち、木の上から『たん』、と軽い音を立て飛び降りる。

  その間にもレーザーは、二度目の一斉正射を飛蝶に向けようとしている所である。

  飛蝶はさせじと疾風の如くレーザー群の間を駆け抜け、一気にプラズマ短刀でばっさばっさと斬って行く。


  斬っ!


  全て斬り終えブレーキを掛ける様に飛蝶が止まると、その後ろではレーザー群が次々と爆破していく。

  それを確認すると飛蝶は一息をつき、また森の中を駆け抜けようとした、が……。


  ど……っ。


  胸を貫く鈍い音。


  振り返ると、まだ一機残っていた。

  ぎり……と歯噛みしながら飛蝶は光線クナイで残った一機を行動不能にする。

  そしてすぐさまひゅっと口笛を吹くと、何処に潜んでいたのであろうか、飛蝶に瓜二つ――いや、全く同じ姿のくの一が姿を現したではないか!

  飛蝶は残りの力を振り絞りマイクロチップをくの一に投げると、受け取った彼女はすぐさま闇の中に消えた。

  その飛蝶の後ろには、仲間の仇を取らんとばかりに新規のレーザー群が大挙している。

  飛蝶は振り向き、モニターの方に顔を向け、微笑んだ。

  次の瞬間――。


  どおぉぉおん!!


  大爆音と共に、森が消失する。

  飛蝶には心停止と共に自爆する高性能の爆弾が義眼に搭載されてあったのだ!

  哀れうら若きくの一・飛蝶は闇の中に燃えた。


        ●


「――長、マイクロチップの回収成功いたしました」

「うむ」

  くの一が帰還し、研究所の長がマイクロチップを受け取る。

  その後ろでは液体で満たされたほの白く光るポッドの列。

  見るとその中には――。


  飛蝶と寸分たがわぬ姿の裸体の女性たちが浮かんでいる。


「流石はわが最高傑作『諜報(ちょうほう)・暗殺型Sinobi-飛蝶タイプ』。今の所任務遂行率はほぼ百パーセント……」

  なんと飛蝶は量産型のアンドロイドであったのだ!

「しかし、高確率で自爆するのも考え物よ。 コストがかかりすぎる。もう少し性能を向上させ――」


                             終

山田風太郎先生のような色気のある忍法帳が書いてみたいのですが、なかなかうまくいきません。(泣)

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