勇者くんと魔王さま
「勇者くんと魔王さま」
とある昼下がり。雲一つ無い清々しい空に浮かぶ太陽が何とも温かく感じられる今日この頃。
あ、初めまして。僕勇者です。言っときますけど名前じゃありませんよ?こういう役柄……ゲフンッ!種族なのです。ちゃんと『ロト』っていう親から貰った名があるんですから。……誰だ今宝くじ想像したの。
「あー……人類滅ぼしてー」
「イキナリ怖っ!?」
「勇者もそう思わない?」
「思いませんっ!」
そんな情景描写に全く似合わない台詞が僕の隣から聞こえてきました。言ったのは僕の隣でだらしなくエルフ族の営むカフェの椅子に座っている人……じゃない、魔王だ。魔王とは言っても年相応の女の子なんですけど。僕の1つ年上の幼なじみなんですけど。名前はルーシー。まぁ今後僕達の名前が出てくるかは分からないんですけどね。
僕達の住むこの“地球”という惑星には人間の他にも様々な生き物が生息しています。恥ずかしながら僕達もその他の部類。因みに“”内の読み方は『ちきゅう』では無く『ちたま』。これはその昔、頭にケツがあった緑の宇宙人がこの星に来た時にそう呼んでいたのが由来なんだそうです。
話を戻すと、今僕はそんな“ちたま”の中でもトップクラスの階級であるこの魔王さまの話し相手になっているんです。
「だってさーアイツらダルいじゃん?意味不明な位増えてるしさー」
「今じゃ60億人以上居ますね」
「60億って多くない?もういっそ7人とかまで減らしたら」
「何で7人!?少なっ!メチャ少なっ!!」
長い金の前髪を弄りながらおっそろしい事をさらっと言い放つ彼女。蒼い眼を細めて笑みを浮かべている。
「だって私7って数字好きだもん。ホラ、ラッキーセブンって言うっしょ?」
そういう考えなら選ばれた7人はリアルにラッキーセブンでしょうね。
「とにかくラッキーセブンでも何でもそういう事しちゃダメです!」
「えーなんでー?」
口を尖らせて文句を言うのは筋違いでは無いだろうか?
「そりゃ平和が一番ですからね」
「何時も腰に刀持ってるヤツが言う台詞じゃないだろそれ」
「うっ……し、仕方無いじゃないですか!僕ら勇者一族の掟なんですから!」
平和主義者の僕にとって何とも迷惑極まりない掟だ。でも守らないと怒られる。凄く怒られる。それが面倒なので渋々持ち歩いているだけ。道行く人々をばっさばっさと斬るなんて野蛮な行為はしないのでご安心を。
「この作品は残酷な描写が含まれています。ご注意下s」
「ねーよ!んな描写これっぽっちもありませんから書かせませんから!」
「タイトルは『人斬り勇者』……うん、良いんじゃない?」
「良い訳あるかぁっ!」
黒いカバーの手帳にメモをしているのを必死に止める僕。この人の手帳にはロクな事が書かれていない。
例えば……、
『正しい人間の滅ぼし方』
『正しい生物兵器の作り方』
『正しい猛毒の調合法』
『正しい──』
イヤイヤイヤイヤ正しいもクソもありゃしませんから。その思考がまず正しくないですから。
「じゃーどーしろっての人類?」
「温かい目で見守りましょうよ。新しい進化を遂げるかもしれませんし」
「あのね。私これでも魔王なんだよ?何か悪さしてナンボなんだよ?そもそも私、アイツら嫌いだし」
「最後の丸っきり本音じゃないですか」
「そうだよ悪い?」
人はそれを開き直りと言うんですよ魔王さま?
「でも魔王さま……どうしてそこまで人間嫌いなんです?」
「多いから。あ、でも私と交流のある奴は別だけど」
人間の皆様。これからは魔王さまのお友達になるよう全力で頑張って下さい。
「ってか今更なんですけど」
「何よ?」
「僕達も負けず劣らず結構居ますよね?数的に」
「…………」
人間以外の種族の総人口は約55億人なんだとか。
「5億の差ってデカイよ?」
「比率で言ったら11対12ですよ?然程変わりませんって」
「ぬぅ」
「じゃあこの話はこれでお終い!いやーこれで魔王さまの人間嫌いも無くなりましたね!」
「は?私人間嫌いじゃないし」
…………は?
「え、だって今さっき嫌いだって……」
「人間じゃなくて人類だよ」
「一緒じゃボケェェェ!!」
「違うよ。字が」
「意味は一緒じゃボケェェェ!!」
「お、そろそろ昼ドラ始まる時間だ。ほら帰るぞ勇者、会計頼む」
「…………」
「人間の演技力って私たちには無い、輝いたモンがある。うんうん、そういう所は見習わないとな♪」
「あのお客様お会計は……」
「あ、僕が払いますんで」
「勇者ぁー、ついでに小遣いくれー。ブルーレイ買うから」
「何のだよ!何のついでだよ!てか何でだよ!!」
「見るからに決まってんじゃん。バッカじゃないの?だから勇者なんだよ。レベル上げしか能が無いんだよ」
「ぐっ……人が気にしているコトを!」
「あのお会計……」
「あーハイハイ払いますよ払えば良いんでしょ!」
「ひぅっ!わ、私そんなつもりで言ったんじゃ……ふぇ」
「アナタはアナタで何泣いてんですか!」
「女の子泣かすなんてサイテーだな勇者」
「じゃかあしぃ!」
「ひぐっ……ぐすっ」
「え、あの……店員さん?ホラ周りの僕に向けられてる冷たい視線が痛々しいから泣き止んでくれると嬉しいんですけど」
「…………ふぇ」
更に泣き出しました。
「やーねーあの勇者」
「サイテー」
「死ねば良いのに」
「あぁっ……泣いてるエルフたん萌え〜」
「ちょっと待て誰だお前」
「とにかくサイテーに変わりは無いさ。良かったな」
「………………」
泣きたいのはコッチだよチクショーッ!!
「以上、とある昼下がりのよくある光景でした」
「ありませんからっ!!」
〜つづく?〜
いかがだったでしょうか?感想及び評価によっては連載も考えようかな、と思ってます。出来れば送って下さい、待ってますから〜笑