その5
「この森を越えた先が魔王城ですか……」
「長かったね」
あれからなんやかんやあってついに魔王城までもう一息のところまできた。
広大に木々が生い茂るこの森を抜けた先に魔王城があるらしい。
これまで出会った人たちのためにも絶対に負けられない。
「GO!」
「イエッサー!」
とりあえず俺たちは突撃した。
ひたすらダンジョンを駆け抜けていく。
「魔物が後ろから追ってきています!」
「足を止めるなぁぁぁーーー!!!」
気が付けば周りに魔物の軍勢がいた。
猛スピードで追ってくるが、それに目もくれず俺たちは駆け抜ける。
止まらないかぎり……道は……続く!
「……! おっさん! ま―――」
「え」
だが、その時だった。
黒い炎が俺を覆い尽くしたのは。
「いわぁぁぁぁぁぁっくっ!?」
「おっさーーーん!」
熱い。
体が燃えていく。
全身がやけどで痛い。
このまま死ぬのか……。
「消火ァァァァ!!!」
「のおおおおお!?」
なんかいきなり白い霧を吹きつけられた。
「あぶないところでしたね……」
どうやらシスタがどこからか取り出した消火器で助けてくれたようだ。
「ありがとうございました。助かりました」
俺はアーイッ! なチンパンジーな心を改め、シスタに感謝を述べた。
「真の仲間ですから……それより、いったい何が……」
「我の攻撃を防ぐとは……うぬらも中々の実力と見える」
森の中に低い男性の声が響いた。
「誰だ!」
「我は魔王四天王が一人、焔のホームラ。うぬらの命もらい受ける」
「魔王四天王だって!」
「おっさん……あいつは闇と火、二つのオーラを感じます……!」
四天王と名乗ったやつはただ者じゃない雰囲気を纏っていた。
これが魔王じゃなくて、その部下だって……?
「イクゾ! イクゾ!」
「ぎゃあああああ!?」
「おっさーん!」
俺は焔のホームラの十割持ってかれそうな永パコンボで一方的にボコボコにされていく。
徒手空拳を主体とした戦闘スタイルだが、パンチやキックが視認できないほどの速さでやってくる。
これが魔王四天王……。
「魔法障壁!」
ガン! と、鈍い音がする。
シスタは俺の前に障壁を張り、攻撃を防いでくれた。
「防いだか……」
焔のホームラはいったん距離を取った。
俺はシスタから回復魔法を受けて体制を立て直す。
「サンキュー」
「いえ、しかしこのままでは……」
シスタも焦りが表情に出ていた。
俺もかつてないほどの強敵に戦慄している。
「どうした? もう疲れたのか?」
「ぐっ」
これ以上ないほど煽りおるわ。
仕方ない、ここで手札を切るか―――。
「ユニゾンアタックだ!」
「了解!」
俺たちは合体技の準備をする。
「ほう?」
焔のホームラも堂に入った構えをしている。
「フォトン!」
「さくそら斬!」
「「フォトンセンセーション!!!」」
俺とシスタの合体技がさく裂する。
神聖な光と俺のくるくるジャンプが合わさりさいきょうに……。
「ハァ!」
「なっ―――ぐわぁあぁぁぁぁぁ!?」
だが、その攻撃はやつの拳ひとつで止められてしまう。
思わぬ反撃を食らい、俺は吹き飛ばされていく。
「そ、そんな……合体技すらも効かないなんて……」
俺たちは膝をつき、首を垂れる。
時すでに時間切れ、誰か早く来て、早く来て。
「滅する……!」
「ヒィ!」
俺はもう腰が抜けて動けなかった。
ここで終わるのか……。
その時だった。
ボフゥ! と煙が舞い上がったのは。
「何ッ!」
「こっちよ!」
「えっちょっ」
「きゃあ!」
俺たちはどこからか現れた集団に担がれ、どこかへと連れていかれる。
これから俺はどうなってしまうのだろうか。
「危ないところだったわね」
「助けてくれてありがとうございます……その……あなたたちは?」
「私はケイ・サッカン。レジスタンスのリーダーをやっているわ」
「レジスタンス?」
「この魔王領で魔王たちに反抗するために隠れながら活動しているの」
俺たちは焔のホームラとの戦いの最中、もうダメかと思った時この人たちに助けられた。
今は森から離れた廃工場へとやって来ていた。
この人たちは人の消えたはずの魔王領で、戦える人たちを集めて抵抗運動をしているようだ。
「そんな人たちがいたなんて……」
シスタもこれには驚いているようだ。
無理もない。
今や魔王と戦っているのは俺たちだけだと思っていたのだ。
「味方だと思っていいんですね?」
「ええ。残念だけど、私たちの力では魔王の作戦の妨害をすることしかできないわ。だから勇者であるあなたたちのサポートをさせてもらう」
「それはありがたいですね! おっさん!」
「うん」
シスタも沈んでいた表情が明るくなっている。
味方が増えるというのは本当に心強い。
「私も驚いたわ。勇者の血族はもう存在しないとばかり思っていたから……」
「それは……俺はほんの少ししか関係ないんですけどね……」
「あら? でも魔王領まで来られたってことはそれなりの実力ってことでしょ?」
「それはシスタが優秀だからですよ」
「そうね。それもあるかもね。でも、四天王と直接やり合って生き残っているということが何よりの証拠よ」
「やっぱりヤバいやつなんですね、あいつ」
「レジスタンスのメンバーが何十人……何百人とアイツにやられていったわ。みんな勇者と言わないまでも力を持った戦士だったのに……」
ケイさんは死んでいった仲間のことを思い出しているのだろうか。
どこか遠い目をしながらそう語ってくれた。
「でもこれからは違うわ。防戦一方だったのも今日まで。次は大規模な侵攻作戦を考えているの」
「作戦?」
「ええ。そのためには色々な準備が必要なの。あなたたちにはその手伝いをしてほしいわ」
「それは……構わないんですけど」
彼女はそういうが、焔のホームラの存在。それを使役する魔王の実力……。
未だに懸念することは増えるばかりだ。
俺もこのままでは魔王を倒すことは夢のまた夢だろう。
「おっさん……わかりますよ」
シスタには俺が考えていることが伝わったのだろう。
彼女も自分の力不足に不安を覚えたようだ。
「正直、今の俺たちでは四天王に勝つことは出来ません」
「そうね……でも、可能性はあるわ」
「えっ」
「勇者の血を引くものだけが使える伝説の武器、《永遠剣》 それを手に入れることができれば大いなる力を得られるとの言い伝えがあるの」
「《永遠剣》……?」
「大いなる力……」
やっとファンタジーっぽくなってきたな。
「私たちは《永遠剣》について調査を続けてきた。そしてついにその在り処を突き止めたわ」
仕事が早い。
この人はできる人だ。
「いったいどこに……?」
「魔王領……いえ、ナロー大陸最北の地に存在する、《オリジンタワー》」
《オリジンタワー》?
「古くから人を寄せ付けない極寒の地にあるわ……その塔の最上階に《永遠剣》があるらしいの」
え、寒いの嫌なんですけど。
「なるほど……では早速行こうと思います」
心の内はおくびにも出さず、俺はさっさと伝説の武器を手に入れに行こうと思った。
「防寒着は好きなのを持って行っていいわ。車も貸してあげる」
「何から何までありがとうございます」
至れり尽くせりの状況でケイさんに俺は頭が上がらない。
「気にしないで……これも世界のため……。なんてね、個人的にあなたを信じてみたくなったの」
「え」
「なんでかしらね。あなたならなんとかしてくれそうな……そんな気がするの」
ケイさんは何とも優しい目で俺を見つめていた。
出会って間もないはずなのになぜだかそれがとても安心できた。
「な、なんですか二人して見つめ合って……!」
シスタに指摘され、ハッとなる。
「あら? 焼きもちかしら?」
「それはないです」
そうキッパリ言われるのも傷つく。
俺たちはとにかく《永遠剣》を手に入れなければならなくなった。
これから先、どんな試練が待っていようとも負けるわけにはいかないのだ。




