その9
一方その頃―――。
「ちっ、どうなってんだ!」
「わかりません。サンブレラが電波妨害をしているエリアからは脱出できたはずなんですが」
脱出してから数分。
僕たちはゾンビの巣窟と化したイセカイシティから離れ、別動隊と予定ポイントで合流するために移動している最中だった。
しかし、他チームと連絡を取ろうとするが、何故か通信に反応が無い。
「……」
「隊長?」
「ああ、目の傷のうずきが止まらねぇ、まさかとは思うが……」
隊長はさっきから左眼をさすってばかりいる。
特有の勘と言うやつだ。
それに僕も心のざわめきが止まらない。
未だ地獄の底にとどまり続けているような気分だ。
「! 見てくださいアレ!」
「こ、こいつは……!」
「!?」
ヘリを運転するナロウ5が驚き、声を発する。
隊長と僕も示された地上を見る。
するとそこにはどうみてもゾンビの集団が人々を襲っていた。
「な、感染がこんなところにまで……! サンブレラは何をやっていたんだ!」
想定外に被害が大きかった。
イセカイシティの中だけで抑える計画は失敗していたのだ。
「! 通信が入りました!」
「繋げ!」
『ぃ―――?』
「あん?」
『こち―――。ゾンビにおそ―――』
「ゾンビだと?」
「まさか……」
『ゾンビの感染が止まり―――、我々だけでは―――。もはや、任務どころではありま―――』
とぎれとぎれではあったが、何が起こっているのかは容易に想像できた。
事態は最悪の方向へと向かっていた。
「なんてことだ……」
「どうします?」
「どうするって……ヘリでだっ―――」
「それはだめだ!!!」
自分でも気づかぬまま、大声で隊長の言葉をさえぎっていた。
言ってからハッとする。
「ナロウ4?」
隊長が怪訝そうな顔で覗き込んでくる。
だが、僕の口は開いたままだった。
「先輩も副長も、任務のために、俺たちのために死んでいったんですよ……!」
自分らしくない。
けれども震える口から言葉が溢れて止まらなかった。
「それに意味が無かったなんて僕は……!」
「……」
「僕は……」
思わず拳をギュッと握りしめる。
散っていった仲間の最後が今でも鮮明に思い出せる。
ああ、そうか。
怒っているのか、僕は。
こんな感情になるのは多分生まれて初めてのことだった。
「……ナロウ4、いやぼっくん」
「隊長……」
不意にコールサインではなく、本名を呼ばれて、隊長の顔を見つめる。
その顔には、覚悟が見えた気がした。
「わかった。ナロウ5、生存者を探してくれ」
「いいんですか?」
「ああ。俺も納得がいかねえ。たとえ地獄には落ちるとしても、外道になったつもりはねぇからな」
「そうですか。了解しました」
「隊長ッ!」
「おら! ゾンビどもを蹴散らしに行くぞ!」
「了解!」
僕の思いが隊長に通じた。
これから生存者を探し、できるだけ助けるように動くことになった。
「やけにゾンビが集まっているところがありますね」
ナロウ5が目を付けたのは一見ただの山だった。
その土と岩の壁にゾンビたちが群がっている。
そこに一筋の閃光が見えた。
「マズルフラッシュ! 誰かが戦闘しています!」
僕は吠えた。
「生存者か、行け!」
「了解」
機体を急旋回させ、高度を下げていく。
『そこのいる人たち! 伏せていてください!』
ヘリの武装である機銃を照射するために。拡声器で警告をする。
それから少し間をおいてから機銃でゾンビどもを駆逐していく。
僕が生き残ったその意味、それを知るために今は銃を握るしかない。
まだ見ぬ生存者への思いを募らせながら新たな戦場へと僕は身を投じるのであった。
そして場面は戻り―――。
「そ、そんな! 街の外は安全なんじゃなかったのか!」
膝をつき、目の前の光景に絶望する暮人くん。
そのおかげか、俺は幾分か冷静でいられた。
「とりあえずあのゾンビの群れをかいくぐるぞ!」
ぼっちゃんの声に従い、俺たちは銃を抜いた。
しかし、目につくだけでも百体はいそうだ。
それまで弾薬が持つか……。
バンバン! と銃弾をぶちこんでいく。
だが、50体ほど倒したところで弾薬が底をついた。
「ぼっちゃん!」
「ち、俺も弾切れだ」
「私もよ」
ここまで絶望的な状況は今までになかった。
あれだけ軽口が絶えなかった俺たちだったのに今は誰もが口をつぐんでいる。
「もうだめか……」
もはや打つ手なし、諦めかけた時だった。
『そこのいる人たち! 伏せていてください!』
拡声器により増幅されたブワっとした声が響いた。
俺たちは例により、とっさに伏せた。
すると上空からプロペラ音と共にヘリコプターが現れた。
ゾンビの群れは上空から謎の機銃照射によりあっという間に殲滅されていく。
「い、いったい何が……」
「助かったのか……?」
「いえ、気を緩めないで」
ゾンビの脅威は去ったが、正体不明の軍用ヘリコプターが俺たちの前に止まった。
「! お前たちは!」
「あ、あの時の刺客!」
「機関の連中か!」
お互いが驚愕していた。
片や殺しにかかってきた側、片や逃げた側。後、機関てなんだ暮人くん。
まさかの再会に戸惑う。
「まだやる気!」
ケイさんが瞬時に銃を構えた。
しかし―――。
「ストップ! 今はもう状況が違う! やる気はねえよ」
隊長らしき男が両手を上げ、戦闘の意思がないことを示していた。
「どの口がいうんだ? あん?」
「あれ、でもなんか数が……」
今だ怪しむ俺たちだったが、何か違和感を感じた。
あの時襲ってきたのは四人。
だが、今は操縦者を除いても二人しか兵士が居ない。
「随分数が減ってんじゃねーか? ゾンビにでも食われたか?」
「なんだとっ!」
「よさねぇかナロウ4」
ぼっちゃんのあてずっぽが的中していたのか、ナロウ4と呼ばれた若い隊員が怒りをあらわにする。
しかし、血も涙もないやからだと思っていたのだが、意外と仲間意識が強かったことに驚いた。
「恨むなとはいわん。あの時はホントに殺す気で当たったしな。だが状況が変わったと言っただろう? 情報が欲しいはずだぜあんたらも」
「……」
隊長と呼ばれた男の誘いに無言を貫くケイさん。
だが、このままの状態が続くのもよくない。
「ケイさん、ここは話しだけでも聞こう」
「何言うのおっさん?」
「生の感情をむき出しにしても状況は変わらないよ」
「……まさかおっさんに諭されるとはね」
ケイさんは自分でも冷静じゃないことに気付いたのか銃を下ろした。
殺しに来た相手を信用するのもどうかと思うが、今は何より情報が欲しい。
「わかってくれたか。取りあえずヘリに乗ってくれ。地上で長々と話すわけにもいかねえからな」
「わかったわ。変な事したら脳天ぶち抜くから。それでいいわねぼっちゃんも暮人も」
「ま、この状況じゃしゃーないわな」
「異論はない」
ケイさんはああ言っていたが、弾薬を使い切った今、戦闘になれば勝ち目はない。
ぼっちゃんもそれがわかっているので、何も言わずに矛を収めた。
「じゃ、行くかナロウ4」
「……」
「ナロウ4」
「……はい」
「……?」
若い隊員が少しの間、暮人くんを見つめ、すぐに振り返りヘリへと乗り込んだ。
当の暮人くんも何がなんだか分からない表情をしていた。
俺たちも警戒しながら乗り込んでいく。
念願のイセカイシティを脱出を果たした俺たちだったが、その顔は曇っていたままだった。




