その8
「はぁ! はぁ!」
「くっ、急げお前ら!」
ナロウ2の犠牲により、僕たちは怪物から距離を大きく離した。
強靭な体、伸縮する腕、素早い機動。
もはや兵士が数人束になったところで勝てる相手ではなかった。
「! 追ってきました!」
「ギシャアアアア!!!」
後方を警戒していたナロウ3が僕たちに注意を促す。
ナロウ2がやられた時の光景がフラッシュバックし、全身に嫌な汗が流れる。
「グレネードだ!」
「了解!」
隊長に指示にしたがい、僕とナロウ3はグレネードを怪物との位置を計り、いい感じの所へ投げる。
怪物がその場所へたどり着いた時に丁度爆発した。
「やったか!?」
「いや……まだだ!」
煙を抜けて怪物が姿を現す。
肉が幾分か削げ落ちているが、時間が経過するとともに元の形を取り戻していく。
しかし、再生することに集中しているのか、スピードが落ちていた。
「隊長!」
「ちっ、だが後はあの階段を上るだけだ!」
気が付けば研究所の出口である洋館への階段は目の前だった。
「グッガァァァア!!!」
だが、怪物も獲物を逃がさんと再生が終わり次第、猛スピードでこちらに向かってくる。
今にも追いつかれそうだ。
そんな時に限って悪いことが起こる。
「あっ」
ゾンビの死体に足を引っかけてしまい、バランスを崩してしまう。
それが大きな隙となった。
「ギシャア!」
その一瞬を見逃さない怪物の一撃が僕の体を貫き―――。
「ナロウ4ォォォォォ!!!」
「なっ……」
否、貫かれたのは僕の体ではなかった。
横から僕をかばうようにナロウ3が体当たりしてきた。
吹き飛ばされた僕は一瞬何が起こったのか分からず、スローモーションのようにそれを見ていた。
そして怪物の腕がナロウ3を貫く。
「どう……して」
「と……とっ、と行け……」
「先輩!」
「たい、ちょう……!」
「……行くぞ! ナロウ4!」
ショックで何も考えられない僕を隊長が無理やり腕を引っ張る。
ただ、その時たまたまチームを組んでいただけの間柄だった。
長いわけではなかった。
だが、このチームでは彼とは一番言葉を交わした。
だから、こんなにも心が悲鳴を上げている。
「さいごに……一発くらっとけよ……!」
ナロウ3は腕をふるわせながら、グレネードのピンを抜いていた。
「先輩!!」
「振り返るな……!」
僕はただ、前を向いて走った。
階段を登り切ったところで、爆発音が聞こえてきた。
彼は逝った。
「おい! こっちだ!」
上空を飛ぶ軍用ヘリコプターにサインを出す隊長。
「ちぃ、とんだ仕事だったぜ……! サンブレラの野郎どもが……!」
それなりの金はもらっていた。
命を落とすようなこともあるだろうとは思っていた。
同じ兵士に殺されるのであればそれも運命と思えたかもしれない。
だが、あんなわけのわからない化け物に仲間を殺されて、納得などできるわけがなかった。
こんな感情になったのは初めてのことだった。
「お前も大丈夫か?」
「……はい」
なんとかそう返事はできた。
「……これが俺らの仕事だ、わかってるんだろ?」
「わかっているから、それで納得できるかは別でしょう?」
「それでも飲み込むしかねぇ。それが俺ら傭兵なんだから」
隊長の言葉に、僕は黙ることしか出来なかった。
「お迎えに上がりました隊長」
「ああ、さっさと帰るぞ。ここももうすぐ爆破される」
ひどく疲れ切った足取りで、ヘリコプターへと乗り込む。
上昇していくヘリの中から、先ほどまで戦闘を繰り広げていた洋館を眺めていた。
だが、先ほどから続いている胸騒ぎは、収まってはくれなかった。
そして場面は戻り―――。
「ありがとうございます……その、あんたらは?」
「私は警察官よ」
「鉄砲屋だ」
「ニートです」
「え」
明らかに俺の時だけ反応が違ったが許すよ。
「俺は日根暮人、あー、クレト・ヒネって言うんだっけかこっちでは」
「あら? 外国の人なのね」
「まぁな。留学生だ」
明らかに中二病を患ってそうな黒いコートを着ている暮人くんという少年。
どこか懐かしい気分になるのはなんでだろうか。
「ただの学生がなんでこんなところに?」
「かくかくしかじか」
「なるほど」
彼のこれまでのあらましを聞いた。
「その黒ずくめの奴らは俺たちも襲われたな」
「学校の地下にそんなものが……」
「もしかしてそこから資材を地下に下ろしてたのかもね」
生徒を育てる学校が悪徳企業のサンブレラと癒着。
世も末末の末だった。
「素行の悪い生徒が行方不明になる事件が多発していたが……今思うと人体実験の道具にでもされていたのかもしれないな」
「ちっ、胸糞悪い話だ」
「でもとりあえずこのまま行けば脱出できるね……よかった」
「ああ。やっと気が休まるな」
「……」
俺たちが各々今後に思いをはせる中、ケイさんは難しい顔をしていた。
「ケイさん?」
「あ、いえ……私たちは街の外へ行けばゾンビから逃れられると思っていたけど……」
「うん」
「ゾンビの感染がどこまで広がっているかなんて考えてなかったなって……」
「……」
ケイさんが言ったこと。
それはみんなが無意識に考えないようにしていたことだった。
『ゲートが開きます』
列車がセンサーにでも反応したのか、車内にアナウンスが流れる。
すると行き止まりに見えた壁が左右へと移動を開始する。
緩やかになっていくスピード。
やがて列車は停止していく。
ゲートが開いた時、俺たちが目にした光景は……。
「アァ……」
「オォ……」
「アァ」
「ウゥ……」
まるでなだれ込むようにゲートから入ってくる無数のゾンビ達だった。
どうやら俺たちの戦いはまだ続いているらしい。




