その7
そして場面は戻り―――。
「見ろ!列車だ!」
光と共にやってきたのは列車だった。
だが、あの雄叫びと言い、様子がおかしい。
「取りあえず呼びかけましょう!」
「ええ」
列車の運転席に人影が見えたのでそこに向けて息を大きく吸い、
「そこのキミ!聞こえるか!」
と声を大きく出した。
すると。
「助けてくれ! 化け物が張り付いているんだ!」
「!」
人影は少年だった。
どうやら何かに襲われているらしい。
「ケイさん!」
「何とか飛び移るわよ!」
「ああ!」
「え、すごい」
横にいた二人は近づいてきた列車に臆することなく飛び移った。
どうやって飛び移ったかは適当に考えてくれ。
それに俺も続く。
「状況は?」
「怪物が列車を止めようとしているんだ! アンタたち武器は持ってないのか?」
「丁度持っているわ」
「頼もしいな」
「君は下がってなさい。おっさん、ぼっちゃん、行くわよ!」
「ああ!」
「せや!」
俺たちは少年を後ろに下がらせ、その怪物とやらに立ち向かう。
「気を付けろ! 外見は人間だが中身はロボットだ!」
少年の忠告を聞き、俺たちは驚いた。
「ゾンビ、怪物、お次はロボットって……」
「脚本を書いたライターは三流ね」
「ちがいない」
未知の敵を前にしながらも俺たちは冗談を交える余裕があった。
あれだけの戦いをくぐり抜けてきたんだ。
今更なにを恐れる必要があるのか。
「ヴォアアアアア!!!」
ロボットが雄たけびを上げ、列車にブレーキがかかる。
「とりあえず撃って撃って撃ちまくるのよ!」
「了解!」
身動きが取れず止まっているロボットに一斉射撃。
しかし、装甲が堅いのか俺たちの銃弾ではなかなか貫通するには至らない。
「ちっ、あれもサンブレラ製か? 薬にロボット、戦争ビジネスに本気ってわけか」
「どうしよう? ロケットランチャーとかじゃなきゃ無理かな?」
「だったら……!」
ケイさんがとっておきのグレネードに手を付けた。
ピンを抜き、奴へと放物線を描く。
「みんな!どこかへ捕まって!」
その声に従い、各々何かしらをギュッと掴んだ。
ドカン!!!と爆発が起こり、列車全体が激しく揺れた。
だが―――。
「これでも手を離さないなんて……」
「ゾンビよりタチが悪いな」
ロボットは人工皮膚がはがれ、メタリックな骨格があらわになる。
さっきより怖くなったよ! 。
「……! あれを見て!」
そこで俺はあることに気付く。
ロボットの脳天には何かスイッチがついていた。
「とりあえず押してみるか!」
ぼっちゃんがもうテキトーとばかりに銃を撃った。
放たれた銃弾の何発かがそのスイッチへとヒットした。
「ヴォ、ヴォォォォ……」
すると、ロボットは先ほどまでの勢いが失せ、顔を伏せ沈黙していく。
列車を掴んでいたその強靭な腕は離され、後ろに倒れこんでいく。
緩やかになりつつあった列車のスピードは徐々に加速していく。
線路上に転がるロボットを見つめながら俺たちは線路の先へと向かっていった。
一方その頃―――。
僕の名前はぼっくん。
傭兵を生業にしてるものだ。
年だけ言えば学校に通っていてもおかしくないのだが、生憎そんな恵まれた環境には生まれなかった。
物心ついた時から武器を持って戦っていた。
それでも今日までこうして生きてこられたのだから自分は相当に幸せ者だろう。
「ちっ、あの3人頭イカれてんじゃねぇか?」
「まさかダストシュートに身を投げるとは思いませんでしたね」
「これじゃあ生きているのか死んでるのかわかんねぇな」
「ですね。我々も退散しましょう」
「ああ。一応金もらってるから命令には従ったってことにして、こんな気味の悪い場所からはおさらばするか」
隊長と隊員たちの会話を聞き、俺は安堵した。
戦争の中で何人もの兵士たちを殺めてきた僕だったが、見る限りターゲットは一般人だったので、どうも気が乗らなかったからだ。
傭兵といえど、無益な殺生はしたくなかった。
「よし、じゃあ自爆コードを打ち込んで予定通りに脱出するぞ。ヘリは館の上空で待機しているはずだからな」
事故が起こったときに証拠を隠滅するための自爆装置を起動させるのが僕たちの任務だった。
一般人の目撃者がいたのが誤算だったが。
「管制室を目指すぞ、ナロウ2、ナロウ3、ナロウ4いいな?」
「「「了解!」」」
自分のコールサイン、ナロウ4を呼ばれ、返事をする。
「よし! GO!」
俺たちは研究所内部を進んでいく。
道中は逃げ遅れた研究員のゾンビや、実験で作られた生物兵器たちがうろついていた。
一体一体、冷静に倒していく。
弾の消費は最小限だ。
先ほどの一般人との戦闘でそれなりに消費してしまったからだ。
「ナロウ4やるじゃねぇか」
「先輩には及びませんが」
「謙遜するなって、隊長もお前を認めてんだぜ?」
先輩―――ナロウ3がいつもの軽い口調で話しかけてくる。
「私語は慎め、相手が人ではないとしてもここは戦場だぞ」
「はーい気を付けますー」
「まあいいじゃねぇか。堅いんだよお前は」
「それは……そうですか?」
厳格にそれを注意するのはナロウ2、隊長の副官である。
けれど隊長の方は案外軽い性格というか、真面目って程でもなかった。
「しっかしサンブレラも恐ろしい兵器を開発したもんだ」
「ですね」
隊長のつぶやきには隊のみんなが同意していることだろう。
戦場であらゆる兵器を見てきたが、こんなものが実用されれば戦場が変わる。
ゾンビを作り出す薬を食料や飲み水に混ぜれば相手の内部から戦力を低下させることができる。
あの得体の知れない化け物共も、急所を撃たれなければ恐れもせず立ち向かってくる。
このまま傭兵を続けていれば、明日は我が身かもしれない。
そんな恐怖を抱く。
「これを機に引退ってのも悪くねぇかもな」
「そうすれば口封じに刺客を送られかねませんよ」
「ハハハ、我ながら生きづらい人生を選んじまったもんだ」
「選ばざるをえなかった、が正しいかと」
そう。誰もがみな、望んでこの道へ入ったわけではない。
生きるために、そうせざるを得なかった。
そう言う人たちの集まりだった。
そう会話をしていると、管制室についた。
あとはここにある制御システムから自爆コードを打ち込み、脱出するだけだ。
「ナロウ2、頼む」
「了解」
「3と4は周囲の警戒を怠るな」
「「了解!」」
隊長の命令を聞き、部屋の外を警戒する。
ふと、ここに来る前のことを思い出した。
サンブレラが事故を起こした直後のことだ。
元々サンブレラに雇われていた自分たちは、ゾンビの発生源であるイセカイシティの学校を調査していた。
しかし、その途中で一般人に目撃されてしまった。
隊長たちには始末しておけと言われたが、同い年ぐらいの少年を撃つことが俺にはできなかった。
何人も殺してきたというのに、虫のいい話だと自分でも思う。
いっそ、心なんて何も感じない方がいいのに。
だからその少年を関係者のみが知る、学校の地下のサンブレラの施設の一室に放り込んでおいた。
どのみち死ぬかもしれないが、運が良ければ何日かは生きられるはずだ。
「よし、後は地上へ戻るだけだ」
隊長の声にハッとする。
いかん、どうも考え込んでしまったようだ。
雑念を振り払い、集中する。
『警告。この施設は30分後に爆破されます』
アナウンスが鳴り響き、赤いランプが施設を照らしている。
「さ、急ぐぞお前ら」
隊長に続き、俺たちも進んでいく。
その時だった。
「止まれ、お前ら」
隊長が歩を止めて、手を上げる。
どうしたのだろうか。
「俺の左目の傷がうずく……こういう時は大抵、ろくでもないことが起こるんだ」
「隊長……?」
隊長が自分の左目をさするようにそう言った。
普段の調子からは考えられない真面目な雰囲気に驚く。
「いいか、警戒を緩めるな」
そこから慎重に歩を進めていく。
早く脱出しなければいけないのに大丈夫なのだろうか。
その時だった。
「ッ! ナロウ4よけろ!」
「……え」
ナロウ3の叫び越えに一瞬遅れて反応する。
天井の通気口の蓋が落ちてきた。
見たこともないタイプの怪物と共に。
ギリギリのところで避けることに成功するが、怪物の動きは速かった。
自身の体長ほどある強靭そうな腕をゴムのように伸ばしてきたのだ。
俺はとっさに持っていた銃を盾にする。
怪物の腕はそれを貫通し、防弾ベストギリギリで止まった。
「ナロウ4!」
「ナロウ3! 待て!」
隊長が制止するも、ナロウ3が怪物にアサルトライフルの引き金を引く。
ばらまかれた銃弾は運よく俺には当たらず、怪物にのみ命中した。
怪物の力が緩み、俺はその気を逃さずに後ろへ下がる。
「大丈夫か!」
ナロウ3、先輩が俺に駆け寄って支えてくれる。
「謙遜して正解でしたね……」
「ま、そう簡単には抜かせねーよ」
やはり銃の腕はまだまだ先輩にはかなわないようだ。
「全員距離を取れ!」
怪物から遠ざかりつつ、銃弾をぶちこんでいく。
しかし、痛みを感じていないのか、血液を流し続けながらも素早いままだ。
「ギャオオオオ!!!」
すると、怪物の体に異変が現れる。
背中から新たに二本の腕が生えてきたのだ。
「ば、化け物め……!」
この怪物は戦闘しながら成長しているのだ。
ありったけの銃弾を全員が撃ち続ける。
そして信じられないことに、撃たれた場所から傷口が縫い合わせるように再生していく。
「隊長!」
「く、後退しつつ牽制、こいつは倒せねぇ!」
しかし、隊長の判断は少し遅かった。
「ギャォッォ!」
「がはっ……!」
怪物の伸ばした腕の鋭利な爪がナロウ2の肩を貫いた。
大量の鮮血があたり一面にとんだ。
「っナロウ2!!」
「ぐっ、行ってください! 隊長!」
ここは俺に任せて先に行けと言わんばかりに叫ぶナロウ2。
彼とはあまり話をしたことはない。
戦場で仲間が死ぬことは当たり前のことだ。
だが、それでも何も感じないわけではなかった。
「ぐ、あああああああ!!!」
怪物がさらにもう一発! ともう片方の腕をナロウ2へと突き刺した。
「行くぞ! お前ら!」
隊長は一瞬、ためらうそぶりを見せたが、すぐに走り出した。
僕たちは彼の命がけの行動に感謝しながら外への道を突き進んだ。




