その6
「くっ、リロード!」
「カバーする!」
「突撃ィィィィィーーー!!!」
下水道を突き進んでいく俺たちの前に新たな怪物、巨大なドブネズミ……名付けるならビッグラットとでも言おうか。
それと戦闘を繰り広げていた。
「私たちもう立派なモンスター・ハンターね!」
「できればもう狩りたくないけど!」
今までの経験から、怪物との戦い方が板についてきたので、ケイさんの軽口に付き合う余裕もできた。
「チュー!」
「くっ」
ビッグラットの鋭い爪から繰り出される素早い攻撃をなんとか回避していく。
最近こんなのばっかで筋肉痛になりそうだ。
「後ろががら空きだぜ!」
「チュー!」
ビッグラットがこっちに注意を向けている間にぼっちゃんが背後へと回り込む。
そしてサバイバルナイフによる一撃をぶちこんだ。
「ヂュウウウ!?」
「よし!尻尾切断したぞ!」
「でかした!」
無駄にでかい尻尾だったので振り回されると痛かったのでありがたい。
「こっちよ!落とし穴を仕掛けたわ!」
「今行く!」
ケイさんがトラップを仕掛けてくれたので俺たちがビッグラットをおびき寄せる。
彼女はその道の専門家か何かなんだろうか。
「チュウウウ!!!」
「なんて速さだ!?」
「跳べぇ!おっさん!」
あまりのビッグラットの速さに驚きながらも、落とし穴へ誘導することに成功した。
「チュウ!?」
無様にも穴にはまり身動きが取れないあわれな怪物に、俺たちは無言で銃弾の雨を降らすんですよコレ。
やがて沈黙したビッグラット。
俺たちは長い戦闘の末、一時の休息を得るのだった。
「結構進みましたね」
「そうね。そろそろ出口があってもよさそうなんだけど……」
電灯があるとはいえ、薄暗い地下道を歩くというのは心身ともにつかれるというものだ。
けれどケイさんはそんな弱みさえ見せない。
本当に強い人だと思った。
「ここから脱出したら……どうするんですか?」
「また急ね」
「気分転換です」
ケイさんは苦笑しながらも、いいわ、と答えくれた。
「サンブレラの非道は許せないし、世間に証拠を突き付けて馬鹿な研究をやめさせるわ」
「そう……ですか」
これだけの体験をしてまだそんなバイタリティーがあるのかと感心させられる。
「だがあんなもんを秘密裏に作るなんて普通は出来ねぇ。金の流れやらなんやらで足がつくからな」
ぬるっと会話に入ってくるぼっちゃん。
「政府や警察が関与しているとでもいうの?」
「映画の見すぎと言われれば何も言えないがな。国の公的な組織がどんなもんかはアンタの方が良く知ってるんじゃないか?」
「……」
心当たりがあるのかケイさんは何も言わなかった。
どんなに光を掲げた組織にも影は出来る。
世の中は綺麗なことの方が少ないことはニートの俺にだってわかることだった。
「……ねぇ、おっさん?」
「何ですか」
「このゾンビ事件についてどう思う?」
「そりゃ……辛いですよ。両親のことだって気になるし、こんな参事を引き起こしたサンブレラも許せません」
「そう、そうよね……なら……」
言いにくそうにケイさんが言葉を紡ごうとする。
だが……。
「ケイさん。その先は今は言わないでくれませんか……」
「おっさん……」
「ここから脱出した後、改めて……。今の俺には、精一杯なんです」
「……ごめんなさい、それとありがとう……」
「いえ」
ケイさんが言おうとすることには察しがついていた。
けれど俺はただのニートで、正義の味方でも何でもないのだ。
けど、この街から脱出した後なら、その答えが見えそうな気がした。
「ここから上に行けそうだぞ」
「やっとか……」
薄暗いじめっとした地下道を進み続けてどれくらいたっただろうか。
俺たちはやっと上へあがれそうな梯子を見つけた。
「青い空がみたいよぉ……」
「多分まだ深夜だぞ」
「そうでもあるがぁ!」
「テンション高いなコイツ」
非日常の連続で俺の心は高ぶっていた。
順番に梯子を登っていく。
そして天井を開いた。
「ここは……トンネル?」
「また変なところに出たな」
出た先は線路だった。
トンネルにはあちこち電灯がついていて、下水道よりかは断然明るかった。
「どっちも先が見えねぇなぁ」
一直線ではあったが、どっちがどこへ続いているか、今の俺たちには分からなかった。
そんな時だった。
まるで金属がこすれるような音がかすかに聞こえたのだ。
「何か聞こえない?」
「え?」
キィィィンという音が大きさを増している。
「何これ、金属音?」
「ッ!お前ら、アレを見ろ!」
ぼっちゃんの声に従い、後ろを見てみた。
すると光がトンネルをさらに照らしながら近づいてくる。
すると現れたのは列車だった。
「ヴォァァァァァ!」
一体何が起こっているのだろうか。
一方その頃―――。
「ヴォアァァ!」
「くっそ!」
ガトリングガンから無数の弾丸が発射される。
素早く身を低くくし、攻撃から逃れる。
カンカンカン!と弾丸が列車のボディを変形させていく。
銃を持った相手であればはおーしょーこーけんを使わざるを得ないが、生憎今はガッツが足りなかった。
というか死ぬ。
あんな化け物を相手にどうしろというのか。
なんとか列車から落とせないモノか。
俺は運転席に戻り、考える。
そういえばアイツが乗っていたのは前から3列目の車両だった。
ならばなんとか車両を切り離せばあるいは―――。
「どれだ……どれがそのボタンだ!」
運転席にはハイテクなボタンがいっぱいあった。
けれどどれがなんの役割を果たすかはさっぱりだった。
そこで俺は運転席の横に一冊の本を見つける。
「これは……マニュアル!?」
微妙な判定の位置にあった運転マニュアルだった。
もっと細かく探していれば……という後悔の念が浮かぶが、今は急いでページをめくる。
そうして車両切り離しスイッチを見つけた。
「これで……どうだ!」
ポチっとそのスイッチを押す。
『車両の切り離しが行われます。その車両の確認スイッチを押してください』
「な……」
どうやら二段階認証が必要なようだ。
切り離すにはその車両に行きスイッチを押さなければならない。
「くそ!!!」
台パンしながらも、俺は運転席を出てその車両へと向かう。
「ヴォォォォ!」
ダダダダダ!とガトリングガンによる弾丸のシャワーが天井を貫通してくる。
一発でも当たれば肉片が飛ぶことになる。
「うぉぉーー!!!」
俺は雄たけびを上げながら車両をまたいでいく。
そして目的のスイッチを探し当てた。
「なんとぉぉぉーーーー!!!」
俺はスイッチを押して急いで前方車両へと移る。
『車両が切り離されます。ご注意ください』
機械音が鳴り響き、列車は分離された。
ガトリングガンを持った状態ではスピードを出せないのか、動きが鈍いためこちら側にロボットはたどりつけない。
俺は離れ行く車両を見つめながら勝利を確信した。
のだが―――。
ガトリングガンを躊躇なく捨て去ったロボットがすごいスピードでこっちへと走ってきた。
「な……!」
助走をつけ、車両の屋根からジャンプしてくる。
俺はとっさに後ろへ倒れこんだ。
しかし、飛距離が若干足りなかったのかロボットが車両に乗り移ることは無かった。
だが、素手で列車の左右を掴み、足を地面につけ火花を散らしながらも何とかしがみついていた。
「ば、化け物め……」
俺は恐怖しながらも距離を取るために運転席へと移る。
しかし、そこであることに気付いた。
「スピードが若干落ちていっているのか……?」
メーターを覗くとだんだん針が落ちていっていることに気付く。
そこであの化け物が何をしようとしているかに気付いた。
「まさか列車を止めるつもりか……!」
そう、あのロボットは列車を自力で無理やり止めようとしていた。
人間なら不可能な行為だ。
しかし、やつは巨大なガトリングガンを軽々しく持ち上げるロボット。
できるかもしれない。
世の中には新幹線を止める玩具が存在すると聞くし。
何とか奴を列車から落とすしかない。
だがどうすればいいのか。
武器もない。知恵もない。まさに万事休すか……。
みるみるうちに列車のスピードが落ちていく。
顔も伏せていく。
もはや気力が沸いてこない。
俺の戦いはここで終わるのか―――?。
「そこのキミ、聞こえているか!!??」
「ッ!」
誰かの声が聞こえた。
俺は顔をばっと上げた。
線路の先を見てみるとそこにはゾンビではない人間が3人いた。
どうやら天はまだ俺を見放してないらしい。




