その7
佐井ちゃんのアドバイス通り俺は
バッティングセンターにやってきた。
小学生からストレスのたまったOLまで幅広い客層だった。
俺も試しに90kmに挑戦してみる。
一球も当たらなかった。
おかしいな、止まってるボールなら打てたんだが。
普段の練習が全く生かされていなかった。
「それじゃあ当たらないよ」
「?」
俺の真後ろから声がする。
振り返るとそこにはがたいの良い兄ちゃんがいた。
「それにもっと下半身も意識しないと」
それからもなんかそれっぽいことを色々教えてくれた。
お手本を見せてもらうが初心者目にも綺麗なフォームに見える。
もう一回チャレンジしてみる。
二球ほど当てることができた。
凄いなこの人。
ぼっちゃんのなんちゃって知識とは大違いだ。
「あなたは野球やってるんですか?」
「ん?まあ昔ちょっとね」
やはり経験者か。
ぜひとも勧誘せねば。
「よかったらうちのチームに入りませんか?」
「チーム?」
俺はこれまでの経緯を説明する。
「なるほど、野球大会を目指しているのか」
「そうなんですよ。使えないゴミが二人いて大変で……」
「ええ……」
しまったつい本音を。
「じゃあ、俺にゲームで勝てたらいいですよ」
という自然な流れで俺たちはゲーセンへとやってきた。
使用するゲームはエクストリームなロボットゲームだ。
これ2on2じゃん。
相方がいない。
「俺は相方いるんですけど……どうします?」
気が付けば彼の隣には美少女がいた。
彼女いるのかクソが。
俺は携帯を取り出し仲間に電話をかける。
「出ろぉぉぉぉーー!!!ぼっちゃん!!!」
出ない。
「出ろぉぉぉぉーー!!ぼっくん!!」
出ない。
「出ろぉぉぉぉーー!捻くれ太郎!」
『死ね』
出ない。
「ごめん佐井ちゃん?少しでいいから付き合ってくれない?」
『え、は、はあ……』
出た。
「立場はこれで同等だ……やろうか」
「このおっさんなんてプレッシャーだ……!」
俺たちは謎の月面に立った気分で
筐体の前に座った。
「俺はアヴァランチンパンジーを選択するぜ」
「これやったことないんだけど?」
「大丈夫。とりあえずそのアゲ1っていうの選んで」
かくして戦いの火ぶたが切られた。
「ゼットとはまた渋いな」
「あんたは見た目通りだな」
ウッキー!どういう意味だ!。
「佐井ちゃんはとりあえずボタン二つ押しまくってて」
「は、はあ」
戦いは白熱していく。
しかし、初心者がいるこちらのチームがやはり
押されていってしまう。
「ごめんおっさん、先落ちした」
「助かりました」
「は?」
「ごめん……」
あっという間にギリギリの状態になっていく。
俺はしびれを切らしてひたすら格闘をねじこむ。
「ははは、チンパンしすぎでしょおっさん」
しかし、キャンセルを駆使した高等テクニックによって
なんなく回避されてしまう。
余裕をかましながらロボットを小刻みに震えさせる
相手チーム。
もうだめなのか……。
そんな時だった。
俺はとなりにいる少女が何者なのかを思い出したのだ。
「佐井ちゃん!!!超能力で彼のレバーを動かなくして!」
「え、はい」
「あれ?動け!ゼット!なぜ動かん!」
「死ねええええ!!!」
「うぎゃあああああああ!!!」
間一髪、俺たちは勝利することができた。
まさに、窮鼠猫を噛むとはこのことだった。
「ありがとう佐井ちゃん……助かったよ」
「帰っていい?タクシー代ちょうだい」
俺はなけなしのお小遣いを彼女にそっと差し出した。
勝利の代償は大きく、俺の心を深く傷つけた。
「ははは、まさか負けるなんて……やりますねおっさん」
みっともないダンス踊って負けるとか
普通なら顔真っ赤なところを
この青年は何でもないかのように振る舞う。
非常にメンタルが強い証だった。
「彼女にも愛想つかされたし、入りますよあなたのチームに」
彼は快く了承してくれた。
彼のような強い人が入ってくれるのは非常にありがたい。
「じゃあ、改めて……俺はおっさんです」
「俺はショー。しがない旅人です」
どこか懐かしさを感じさせる名前に
俺は暖かい気持ちになりながら
かたい握手を二人で交わすのであった。




