第一話 力への意志
蛇足編最終章突入です。
ここまで読んでくれた方がいたらありがとうございます。
まさかこんなにモチベが続くとは思いませんでした。ありがとうございます。
俺の名は……誰だっけか。
記憶がない。
ていうかここはどこだったか。
思い出せない。
見渡す限り異世界が続いていた。
異世界が続くってなんだよ。
目に映る風景はファンタジーな世界で車やビルなんかは一切見当たらない。
ただ、違和感を感じるかと言えばそこまでじゃない。
あれ、見慣れてる気がしてきた。
ヨーロッパの片田舎といったところだろうか。
ヨーロッパ行ったことないけど。
俺は人恋しくなったので街を探す。
ひたすらそれっぽい道を歩いていくのだった。
歩いていくと、誰かがモンスターに襲われていた。
「きゃー! 助けて~!」
女性である。
スライムがうじゃうじゃとその人を追いかけていた。
大変だ……助け……ないと!!!
一瞬ためらったが、やはり見過ごせない。
「そこの人! 助太刀いたす!」
「助かる!」
俺は着の身着のまま戦場に躍り出た。
「スラー」
「うわー」
「うわー」
かなりの接戦だったw。
「危ないところでしたね」
「ええ……助けてくれてありがとう」
ぜえぜえと息を切らしながらお礼を述べる女性。
「私はびっちゃん。チッカーク帝国へ帰る途中でスライムに襲われちゃって……」
「ほへーそうなんですか」
チッカーク帝国……どこかで聞いたことあるような気がした。
「あなた、名前は?」
「それが……」
これまでの事情を話した。
「そう……まあ気にしすぎもよくないわ!」
「そうだな!!!」
だが……俺は弾けた。
街への道中、遠くに村が見えたことがあった。
だが、それのどれもがどこか廃墟じみて見える。
「あそこ、火事かなんかあったの?」
「ああ、そういわけじゃないわ」
「?」
疑問に思ったのでびっちゃんに聞いてみると、急に沈んだ表情を見せた。
「天使との戦いで人類は疲弊しているのよ」
「天使?」
○ビルアーマーか何かで?
「空から降ってきて暴れる怪物のことよ」
「そんなやつがいるのか」
「おかげで首都から遠い田舎の人たちは被害が大きくてね。何とかしなくちゃとは国も考えてるんだけど」
どうやらこの世界の大きな問題のようだ。
スローライフには向いて無さそうな世界だ。
歩き続けてどこまで行くのか。
なんてことを思いながら半日程度の時間をかけてチッカーク帝国首都へとたどりついた俺たち。
距離感は特に考えてません。
「でかい……」
「首都だからね」
そらそうか。
どでかい街中を歩く俺たち。
「さて……助けてもらったお礼もしたいし、私の家に寄って行ってよ」
「助かる」
そう言ってくれるのはありがたい。
このままだとのたれ死ぬところだったからな。
「お茶とようかんぐらいはだすわ!!!」
破格の待遇だ。
……何故俺はそう思ったのだろうか。
街の中は田舎の村々に比べると雰囲気は明るかった。
だが、逃げてきた人々かわからないが、道端で生活しているような人もいる。
かなり深刻な感じだ。
明日は我が身か……。
「ついたわ」
案内されたのはこじんまりとした民家だった。
ドアを開けて中へと入る。
「住んでいるのは私だけだし」
胸中が顔に出ていたのか、俺の疑問に答えてくれたびっちゃん。
「座ってて……お茶とお菓子用意するから」
そう言われたので俺はソファにどかっと座る。
内装はうーん普通だ。
机の上には写真立てがポツンと置いてあるだけだった。
気になったので覗いてみると、そこにはびっちゃんと温厚そうな青年が共に笑顔で映っていた。
それが何故か俺の胸を強く打った。
「そこに映っているのは私の恋人だった人よ」
「え?」
顔を上げるとびっちゃんが帰ってきていた。
俺の前にようかんとお茶を差し出すと彼女も向かいのソファに座る。
「私たちはただの農家だったわ。平和な村でのんびり畑仕事をしながら暮らしてた」
びっちゃんが写真を見つめる目は寂しげだ。
「正直に言えばあの頃はしんどいことも多かったわ。でも、今にして思えばずっと幸せだったのね」
過ぎ去った日々を思い出しているのか、何とも言えん表情をしている。
「じゃあこの家は?」
「彼の友人の家でね。最初は狭い家に居候させてもらってたんだけど、その人も、ね」
難易度Gな世界にやってきてしまったようだ。
今まで感じたことのない重い雰囲気に押しつぶされてしまいそうだった。
「ああ、安心して。首都は安全よ。そりゃ100%ってわけじゃないし、金持ちみたいに上の方で何事も無く眠れるわけじゃないけれど……外と比べれば楽園みたいなものよ」
「……そっか」
良かった。
今日明日死ぬってわけではなさそうだ。
俺はどこか懐かしいお茶の味に舌鼓を打ちつつ、これからどうしようか思案するのであった。
「じゃあ、そこのソファ使っていいから」
「ありがとう」
結局、びっちゃんの好意で俺は泊めてもらえることになった。
明かりを消して、ソファの上に寝転ぶ。
自分が何者なのか、その一切が不明だ。
何か目的があったのだろうか。
どこで暮らしていたのだろうか。
もしかしたら……俺の故郷も無くなってしまったのだろうか。
その影響で記憶が無くなった可能性もある。
「ま、明日考えるか……ふわぁ」
なんだか眠くなってきたので考えるのはやめた。
そうしてまどろみかけていた俺……だったのだが。
家が大きく揺れるほどの地震と耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
さっきまでの眠気が嘘のように消し飛んだ。
窓の外を見ると何やら人々が騒いでいる。
「天使だーーー!!!」
「また空から降ってきたのか!」
「近いぞ……!」
どうやら噂の天使が攻めてきたようだ。
「ヘイ! そこの中年!」
「びっちゃん!」
「何やら大変なことになったようね」
「天使だって……どうしよう!」
「安心して……帝国には強大な味方が居るわ」
すると、どこからかドシンドシンと大きな音が聞こえてきた。
人の足音にも聞こえる。
窓の外に映ったもの……それは巨人だった。
これがあたっくおんたいたんってやつか。
「あれが帝国が誇る騎士団……NB部隊よ」
「NB……」
何故だろうか。
その言葉はどこかで聞いたことがある気がした。
「この区域も危険ね。もっと奥の方へ避難しましょう」
「あ、うん」
このまま家にいても被害があるかもしれない。
俺たちは街の中心の方へ逃げることにした。
『たく、人使いがあらい皇帝だ。今月に入って何回目だ?』
人型兵器NB 《ムソー》に搭乗する火のカが愚痴をこぼす。
『ぼやくな、カ。状況はすでに始まっているのだ。集中せよ』
それを冷静に注意する焔のホームラ。
2人は手慣れた様子で標的へと接近する。
『へーい』
『エンとスイは出張でいない。我らだけで殲滅するぞ』
『おうよホームラ団長』
《ムソー》を器用に動かし機械の腕を天高くつきあげた。
『お前ら! 精々死ぬんじゃねえぞ!』
『おおおおおお!!!』
『おおおおおお!!!』
後ろに続く灰色の《ムソー》たちから雄叫びが上がる。
士気は上々のようだった。
「帝国四天王が二人もいるのだ 敗北は許されん」
狭いコックピット内でそうつぶやく焔のホームラ。
その言葉をかみしめるように強く操縦桿を握っていた。
「グモオオオ!!!」
そのうなり声は俺が思う天使のイメージとはかけ離れたものだった。
猛獣がだす類の声だ。
そして姿もエイリアンと言うかおよそこの世界の生物とは形容しがたいもので、まさに怪物と言っていいほどだ。
「きゃあああ!!!」
「助けてくれええええ!!!」
「ホントに大丈夫?」
「……たぶん」
天使とやらは街の外に降下し、さらに街へと侵入してきたようだ。
それも1体や2体ではない。
6体ほど確認できた。
俺たちの見える範囲で被害がすごいことになっていた。
市民を守っていた壁は壊され、天使が侵入し人々が逃げ惑っている。
戦場は街中へと移ったようだ。
もうだめだな……。
「いや……来たぞ」
「来た?」
走っていた人々が立ち止まり何かに気付いたようだ。
ざわざわしだした。
「あれは……あの深紅の《ムソー》は!」
「あの朱色の《ムソー》は……」
「帝国四天王だ!!!」
「勝ったな……」
街中の天使を見事な連携で1体倒した。
その2体の巨人を人々は口をそろえて四天王と呼んでいる。
「帝国四天王って?」
「国で最強と呼ばれる騎士。焔のホームラを筆頭に火のカ、炎のエン、水のスイ……全員生身の戦闘もさることながら、NBの操縦も卓越した技術を持つらしいわ」
そんなすごい人が2人も駆けつけてきた。
これは勝つる。
「ぐわああああ!?」
「ぐわああああ!?」
「ええ……」
だが、意外にも先ほど見せたような動きのキレは無く、一方的に天使からの攻撃を受けていた。
「これは……ジ・エンド!!!」
もはやこの国は終わりのようだ。
「私たちも逃げましょう!」
「そうだな!」
こういう時は逃げの一手に限る。
「団長!」
そこに一機の《ムソー》がやってきた。
無謀にも一人で突っ込んでいく。
「このおおおお!!!」
「グバアッバ!」
「ぐわー」
案の定触手による一撃をもらっていた。
大きく吹き飛ばされ、俺たちがいるすぐ近く、建物の壁にめりこんでしまった。
ピクリとも動かない。
「あなた! 逃げるわよ!」
「……」
逃げる……?
あんな怪物からどうやって。
「グモオオオオ」
『ぐっ……化け物が!』
深紅の《ムソー》がギシギシ嫌な音をたてながらも天使と向かい合う。
その姿はまさに騎士と言う称号にふさわしい。
その命……こんなところで終わらせるわけにはいかない。
「びっちゃん、先行ってて!!!」
「ちょっ、戻ってきなさい!」
俺はびっちゃんの制止を振り切り、先ほど吹っ飛ばされてきた灰色の《ムソー》へと走る。
記憶の無い俺がなぜか確信している。
たぶん……俺はあれを動かせる。
《ムソー》の足から胸のコックピットへと駆け上がる。
非常開閉ボタンを押して装甲が開いた。
「う……」
搭乗者は頭を打ったのか、傷ができ、血を流していた。
「しっかりしろ!」
意識がもうろうとしているのか、返事がかえって来ない。
「くっ」
とりあえずその人を抱えて、頑丈そうな建物へと運んだ。
再び《ムソー》のコックピットへと戻る。
中に入り、装甲を閉じるとモニターが点灯する。
モニターには機体の頭部カメラがとらえた視界が映し出されていた。
俺はそれを……どこか懐かしいと思っていた。
深紅の《ムソー》はボロボロになりながらも何とか天使と戦っていた。
そこへ態勢を立て直した火のカ操る朱色の《ムソー》が剣を構えてやってくる。
『ホームラ!』
『ぐっ、気を付けろ! ここ最近の連戦で機体がダメになっている!」
『無理な機動はできないってことか……!』
にらみ合いが続く。
うかつに動けばおもわぬアクシデントが起こるかもしれないからだ。
「グモオオ!」
天使は無数の触手から2本を伸ばし、2体の《ムソー》をつらぬかんと迫る。
『ぐうううう!?』
『ちっ!』
どちらも何とか剣で弾く。
だが、それが何ループも続いていた。
『このままでは……』
焔のホームラが顔をしかめる。
未だ弱音などこぼしたことのない彼だったが、ここに来て限界を迎えようとしていた。
だが―――。
『ウオオオオオ!!!』
灰色の《ムソー》が天使へと迫る。
それに気づいた天使も触手を伸ばしてきた。
『させるか!』
しかし、《ムソー》は足を止めることなく無数の触手を剣で弾いてく。
それは卓越された動きだった。
『なんだ……アイツ』
それをあっけにとられた顔で見つめる火のカ。
あれだけの技量を持つ騎士を自分たち以外に彼は知らなかった。
『届けええええ!!!』
ブーストを吹かし、天使へ向かって飛んでいく。
灰色の《ムソー》は剣を前に突き出して突撃した。
「グモオオオオ!」
機体を天使の攻撃がかすっていくが、それにひるむことなく加速していく。
そして―――。
『……』
「ぐも……」
触手の攻撃が《ムソー》のコックピットのすぐ横をえぐっていた。
中のパイロットは一歩間違えれば死んでいただろう。
だが……天使は沈黙した。
中心部であるコアには剣が突き立てられている。
『な……』
『おいおいおい……』
火のカ、焔のホームラは唖然としていた。
そしてこれが、《彼》の最後の戦いを告げる狼煙となるのだった。




