#05 盲目な叡智
ほんっっっとすみません。
体調壊したり、両手首寝違えて捻挫してたり実生活のほうでわちゃわちゃしておりました。
今回は、伏線色々含めてのシーンです。
今日は夜に主人公サイドを投稿しますので、乞うご期待頂ければ幸いです。
白。
そこは白に塗りつぶされた空間。
大空を支配する雲海よりも荘厳で。
氷雪が被覆う銀世界よりも優美で。
ただただ、そこは有無を言わさぬ神々しさに包まれていた。
黒。
墨汁を一滴落としたような染み。
陽光も届かさぬ海の底、深海の蒼よりも暗く。
病魔に蝕まれた躯の粘ついた紅よりも鮮明に。
ただただ、そこに佇む黒き円卓。
そうしてその周りに座す三者を揃えてこの世界は完成していた。
「きゃははっ。今回の賭けはボクの勝ちのようだね♪」
ある一人は少女にも見える少年か、両者にも見える容姿をしている。少年は上機嫌に口元を綻ばせる。
「うふふふふ。いいえ、まだ分かりませんよ。運命も賭け事も全ては〈世界〉の御導きのままにあるのですから」
ある一人はまるで聖母を体現した容姿をしている。彼女は柔和な笑顔でそれに応えた。
「あー! エーフィ、未来視はいけないんだよ~。〈叡智〉を使ったら折角のお遊びが興醒めだよ」
「ねぇ、ジンもそう思うでしょ? ねぇーってばぁ」
「……おぃ、煩いぞ。今は忙しい。邪魔をするな、フォルテ」
ある一人は銀髪に灼眼、だが顔はどこか日本人めいた作りをしている。彼は鬱陶しそうにまとわりつく少年を引き剥がし突き飛ばす。
「もぅ、いけずなんだからぁ」
少年はすごすごと自身の席次にどっかりと座り込んだ。退屈だと言わんばかりに足をばたつかせている。
「フォルテ、ジン様のお邪魔をしてはいけませんよ。〈世界の記憶〉を観ている時は多分に集中なさっているのですから」
「エーフィはそうやってジンの味方するぅ。……また、ジンが何かおもしろいこと思いついたのかなぁ! きゃはははっ♪」
ここに彼等が会するのは盤上に悪戯を加え、より愉快に悲惨に喜劇に悲劇に、より世界をおもしろくするためである。
普段は〈世界〉の各神域で、その支配領域を眺め、ときに加護を、ときに神託を与えるのが彼等の暇つぶしであった。
「……だめだ。取り逃がしたようだ」
幾分か刻が経ち、暇になった二人が小さな茶会に興じている中、ふと男が愚痴を零す。
「えー、取り逃がしたって何を?」
「ジン様、何か良からぬことが?」
二人は内心驚きながらも、一人は面白げに、一人は男を案じるように問いかける。それほど男が胸のうちを吐露するのは珍しいことであった。
「〈世界〉から強引に情報を取り出そうとする輩がいた。……いや、取り出されてしまったがな。まさか、あの忌々しい〈賢者〉の子孫の仕業だとしたら中々に厄介だ」
男は苦虫を潰したような表情で現状を半ば独り言のように分析している。
「……あの森人女もどきが子孫に限ってそれはあり得ないのでは、ジン様?」
「そうだよ、ジンー。ソフィーは人でありながら〈叡智〉の極致に至ったけど、それもあの樹を復活させるために代償は大きかったはずさ。今更ソフィーが恐いのかい?」
女は〈賢者〉という言葉で瞳に憎悪を灯す。少年は男の独り言に対して呆れ半分揶揄うように嗤う。
「おい糞ガキ。いい加減耳障りな口を閉せ。消すぞ」
「やれるもんならやってみろ~~~♪」
二人の殺気混じりの覇気に空間が軋み出す。
「もう!! 二人ともいい加減にしてください。これ以上は世界に不確定性が生まれますよ。遊戯が台無しになるではありませんか!!!」
二人の間に極大の蒼雷が物理的に迸る。
((………………………………………………))
「はぁ。どちらにしても手遅れだ、エーフィ」
冷静さを取り戻した男は、溜息と共に言葉を吐き出す。
「それはどういうことでしょうか、ジン様?」
「やっぱりおもしろいことになるの?ジン!」
男の次の言葉を二人は待つ。
「…………先程の何者かの干渉の結果か。事象確率に不確定性が生じ始めた」
「「!!!!!」」
まさか、いや、有り得ないと。今度こそ男を含めた三者は表情を正す。
「ここにきて逸脱要因が含まれては敵わんな」
「我々の領域外での事象作用が働いているのでしょう」
「そうすると、やっぱりソフィーのところしか考えられないね♪」
三者にとってその原因のありかは明白であった。しかし、今の彼らは〈世界〉に対して大きな干渉はできない。いや、今後のためにもそれは避けなければならなかった。
「…………当面は筋書き通り、遊戯を終章まで続ける。俺は今後も不確定性の観測を続ける。お前たちは領域での動きに注視しろ」
男の中で一つの決断がなされた。
「ジン様の御心のままに」
「はいはい、わかったよ。ジン」
男を残して二人は自身の神域へと還って行く。
そうして残った男は確かに嗤った。
悠久の中、ただただ目的のために作業を繰り返す。
そこへ訪れた不確定性に男は怡悦を感じずには居られなかった。
(あぁぁああああぁあぁああぁっぁぁあぁああああぁあぁ)
(そうだよな、これじゃ生温過ぎたんだ)
(ようやく俺の、俺の英雄譚が、……あと少しだ)
(ここに寄越したあの傲慢な最高神とやらに辿り着く)
(その前の肩慣らしになれば、あぁ最高だなぁぁ)
―――――――――――――屠殺してやる、最高神。
◇
大樹の下。
遥か地中深くでそれは祀られていた。
常闇を明すものなどここでは不敬。
邪を祓い、人にぬくもりを授ける白。
あたたかな、曙光のような、木漏れ日のようなそれを纏った〈祠〉がそこにただ佇んで居た。
そこに森人族の男が一人、祈祷を捧げるように跪き、〈祠〉に頭を垂れて居た。常しえを映すその瞳は、すでに男から蒼天を翠蓋を落陽を、それを取り上げていた。しかし、その瞳の向こうには、祠があった。
「…………奇怪な。〈世界〉が騒めいておる」
男は一言そう掠れるように呟く。
そうして、自身の祝福能力、【叡智瞳 Lv.2】を使用し、〈世界の記憶〉その表層記憶へと開示を試みる。
表層であれどその情報量は人の器にそうそう収まりきるものではない。だが、彼は能力を発動することで、通常ならば廃人になりかねないその桁違いの情報を紙一重に制御していた。
しかしながら能力には等級相応の限界が存在する。
「がはっ……」
能力の解除と同時に男の軀、至る所、五臓六腑全てを紅く染める。
「やはり幾歳には敵わんのぅ……。わずか寸刻にも満たず、か」
老齢の嗄れたその面には、僅かに哀愁が漂う。
そうして男は自身に〈智者〉である自身の職業能力、【神聖魔法】が一つ【治癒 Lv.5】を行使する。僅かに体内魔素、魔力を消費するのを感じながら反動で負った代償を癒やす。
その最中、男は瞳た記憶を整理していた。
(――――何者かが記憶に強制的に干渉したようじゃ。ふははは)
(……やりおるのぉ。彼奴等もかなり警戒しておるのを感じ取れたわい)
(こやつの目的は分からんが……ふむ。〈世界〉がまた動きだすのかのぉ)
(ソフィア様、あなたの予言は、そのときはすぐそこのようですぞ)
憔悴した老兵然とした面、されど男の瞳には煌々と若かりし頃の光が還っていた。
拝読ありがとうございました!
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