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賢者になる前は底辺プログラマでした  作者: 白井つくよ
§00 序章
1/6

#01 プロローグ1

初作品、初投稿となります。至らないところ多々あると思いますが、暖かい目と慈悲あるコメント、感想を頂けると幸いです。よろしくお願いします。

 ——遠く白波のざわめきが優しく意識の奥底に響いて来る。微かな潮が持つ独特だがいやではない匂いが鼻腔をくすぐる。


 微睡みの中、ふと自分の腹部から首下辺りにかけて自分の体温ではない何かの暖かさを感じた。顎下を規則的に柔らかい感触が撫でる。


「んっ……」


 そこで漸く頭はそこそこに醒め、現状の確認をしようと試みる。萎くれる瞼を擦りゆっくり眼を開ける。寝覚めが人並より数段劣ることは自覚している。


 最初に寝起きの意識が捉えたのは木製らしき天井。次に背中に感じる地面や床では無い柔らかな敷物の感触。そして最後に、いまだ規則正しく顎下を撫で続ける何かに半ば無意識に手を伸ばす。


「ふにゃ……」

「んぉ?」


 触れた途端、その何かから小さく声がした……ような気がする。掌の中にさらりとした手触り、シルクのような撫で心地、それでいて癖になるような幸せなもふもふ具合。


 寸刻前の現状の確認云々はすでに忘却の彼方、ぼーっと寝ぼけ頭のままその感触を楽しむ。


「しあわせだなぁ……」

「……お兄さん、撫ですぎ」


 幸せを思う存分確かめていると、諌めるような声が顎下からかかる。眉を八の字に曲げ、頰を朱色に染める年端のいかない女の子、ジト目の幼女が此方の様子を伺っていた。


「……ごめん。幸せで寝ぼけてつい」


 内心かなり動揺していたが素直に謝る。女の子の頭や髪を無遠慮に撫でくりまわしたのだ。下手な言い訳をする余裕など微塵もない。


「ん……許す」


 彼女はそう短く答えた。素直に反省の意を示したことが伝わったのかジト目を収めてくれた。素直な本音もだだ漏れであったが。


 だが、やはり恥ずかしかったのか彼女の頰はまだ少し朱色に染めたままだ。若干、険のある声はこの際気にしないことにする。余計な一言がロクなことにならないのは現代社会で十分学んでいる。


 そんな益体も無い思索に耽っていると、顎下からまたも視線を感じる。


「……お兄さん、そろそろ離して?」


 そこで漸く僕は彼女のもふもふした頭や髪を撫でるだけでなく、抱き枕のようにして抱え込んでいる事実に気がつく。言い訳ではないが、本当に無意識の所業は恐ろしい。今度こそ動揺をひた隠すことはできなかった。


「っ! ご、ごめん!! つい無意識のうちにやってしまって……その、悪気があったわけじゃないんだ!!!」


 抱え込んでいた彼女を解放する。横にしていた身体を素早く引き起こす。そうして彼女の前に正座からの土下座を華麗に自然に決める。よく母親に叱られると土下座する意識の弊害——もとい習慣がここにきて役にたったようだ。


 無論、赦しを目前の幼女から得られるかは別の話であるが。


「……別に、怒ってない。(それに……お兄さんは……上手だからもう少し続けて欲しかった)」


 最後の方はよく聞こえなかったが、どうやら怒ってはいらっしゃらないようで安堵の吐息がもれる。日本の土下座先輩マジパネェっす。


 彼女も横になっていた身体を起こし(主に僕のせいだが)、頭部が顎下に迫る。そこで漸く幼女の下から自分が今まで撫で続けていた何かまでを視界に捉える。


 黒と青を基調とした質素な村娘風の服装。そこからすらりと伸びる白磁の肌。幼げな表情とは裏腹に落ち着きを感じる黄色の瞳。その上の青みがかった黒髪……の上に獣耳としか形容し難きそれがちょこんと覗いている。時折ピクピクと自然に動いている。


 ……もふもふしてそうで、可愛い、触りたい。


 いや、そうじゃない。

 そうじゃないぞ、しっかりしろ自分。


 自制を試みるがやはり、いままでの常識とはかけ離れたその存在に目が釘付けになる。一も二もなくそれを確かめるべく、2度目となるであろう不躾な頼みを幼女に恐々と告げる。


「な、なぁ。その……その耳もう一度撫でさせてくれないか?」

「ん」


 嫌がられるかと思ったが案外素直に頭をこちらに差し出してくれた。頭をこちらにそらすことで、幼女の腰の後ろでふりふりするものが見えた。


 あれ尻尾だよな? ……いや、まずは獣耳の方が先だ。


 おそるおそるその獣耳に手を伸ばし、指先から少しずつ優しく壊れ物を扱うことの如く触れていく。先ほどまでは意識していなかった感覚が手から感じる。体温、わずかな起伏、肌触り。……それら感触によって、紛い物には決して真似ることのできない本物を否応なしに認識することになる。


「んぅ、ふぁ……。きもちいい……」


 半ば呆然と撫で続けている僕を放って、彼女は目を細め気持ちよさげにしている。むしろ態度は控えめだが、頭は掌にぐりぐり依せてくる。


 ……なにこの可愛い生き物、抱きしめてもう一度眠ろうか。断じてロリコンではないが、小動物系幼女に理性を奪われそうになるのに必死に抵抗し現状の認識に努める。


 …………

 ………

 ……



 目覚める以前の記憶(・・・・・・・・・)、現在の状況、そして目の前の獣耳を持つ幼女。そうして日本のラノベ文化に慣れ親しんだ僕、東方あがた 詩空しあはこう結論づける、しかないようだ。


「異世界ってあっta「無駄口、めっ。もっと撫でて」




 ……危機感はなぜか湧いて来なかった。



投稿は2日に一度をノルマに心掛けていきます。

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