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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
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もしかしたらゴブリンジェネラルかも知れない。

加筆修正しました。

今後の展開を考えて登場モンスターをワイバーンからタイラントクロウにしておきます。


 ――意識がもうろうとしている。原因は訓練と言う名の自滅だ。

 強い体を得るためとはいえ自ら半死半生の血まみれになるなんて馬鹿なことをしているって思うよ。

 

 そう言えば、さっきドラゴンが洞窟に戻ってきたんだけど何故か俺と目が合うなり耳をつんざくような叫び声を上げて引き返すように洞窟を出て行った。何だったんだろう?

 忘れ物かな? 勤め先に重要書類を忘れてきちゃったとか。

 ドラゴンの勤め先って想像つかないけど。

 巨大イノシシの死骸を放っていったけど食べていいのかな?

 

 まぁいいや。血が足りない。とりあえず食べてから考えよう。


 ガツガツ、ムシャムシャ。


 血抜きしてないから非常に肉が臭い。

 その臭みを誤魔化すためにも調味料が欲しい。

 こんなことを二百年近く思い続けている気がする。

 俺がゴブリンに転生してるからかもしれないけど、この世界は娯楽が少ない。

 ぶっちゃけ、食べることしか楽しみがない。

 エロ方面に行きたくても雌ゴブリンは生理的に受け付けない。

 ゴブリンどもはよく嬉々としてあんなクリーチャーを抱くと思うよ。俺には絶対無理。

 できれば人間がいいけど、俺が人間襲ったら人間が可哀想だしね。絶対一生恨まれる。

 やっぱり楽しみは食に行き着くしか無い。その食事が美味しくないのは本当に辛い。

 だからこそ調味料が欲しい。

 森暮らしじゃ手に入らないし、知識チート無いから俺には作れないんだけどね。

 あきらめよう。食えるだけマシだ。

 俺が約百回のゴブ生で学んだ大事なことは欲張らないこと。妥協すること。

 命が大事、それ以外は二の次。

 生きているだけ幸せだと思うこと。


 と、言うわけで肉塊を食べたら寝る。

 食べて寝るだけの生活。死にかけじゃなかったらなんていい身分なんだろ。

 体がだるいから楽しい事を考えよう。

 例えば健康になった後のこととかね。

 体が治ったらしたいことは何ですか?

 同じ訓練です。

 うん、やりたくないんだけどね。やらないとほら、強くなれないから。

 今の段階だとこの巣の主であるドラゴンに勝てるヴィジョンが全く浮かばないんだよね。

 今までのゴブ生での経験からだけど、結局最後に頼れるのは己の強さなんだ。

 強くなればなるだけ死ぬ確率が減る。

 今世の場合は、あのドラゴンより強くなれば死ぬ確率が激減するって事。

 訓練中に死ぬ確率と比較してどっちが確率高いか計算した結果、仕方ないから今世はあのドラゴンを上回るまで訓練しようと思ってる。

 ゴブリンの強さを1とすると大体あのドラゴンは10億くらいかな。

 同じ努力での成長率も多分向こうの方が上だ。生物の格が高い方が強くなりやすいのだ。

 だから俺はあのドラゴンに追いつくために最高効率を極めなければならない。

 

 体がボロボロな今、できるトレーニングは一種類だけだ。

 魔力増強だ。これも俺が独自に編み出したものだ。

 周囲の魔力を自身の魔力と同調させて体の中に引き込む。

 ある程度魔力操作に長けていないと周囲の魔力を変質させることが出来ないから、この方法が取れるようになったのは俺のゴブ生でも後半の方だな。

 そうすると自分の抱えられる魔力以上を体に抱え込んだ魔力過多という状況に陥る。

 簡単に言ってしまえば吐き気や頭痛がして最悪死に到る奴だな。

 加減ミスって一回死んだ記憶がある。

 それを何とか耐えきると新たに取り込んだ分だけ魔力の最大値が増えるというとっても素敵な方法だ。

 逆に言うと無理矢理魔力の最大値を増やさないと死ぬ。

 しかし、俺の編み出した訓練って何で死にかける奴ばっかりなんだろう。

 でも、それくらいしないと使い物にならないくらいゴブリンの魔法素養は最悪だ。

 それでも無理矢理何とか魔法を使おうとしてこの苦肉の策を編み出した。

 だってゴブリンでもファンタジーだよ。魔法くらい使いたいじゃん。


 どうせ体がボロボロで死にかけているなら、ついでに魔力過多で死にかけてもいいだろう。

 併用したのは今回が初めてだが、死にかけている間はどっちにせよ動けない。

 だったら二重トレーニングで時間を有効活用すべきだ。

 死ぬ確率は大幅に上がるだろうが、そこら辺は根性で耐えきるしかない。

 意地で生きる。生きる意思は大切だ。注意点は気絶したらあっさり死ぬことだな。

 本当は安全マージンを確保したいがドラゴンという強大な存在がすぐ近くにいるせいで、十分な時間が取れるとは考えにくい。物語とかだとドラゴンって気まぐれらしいからな。

 実際、気まぐれじゃなければゴブリンの赤子なんて育てようなんて思わないだろう。

 飽きたら殺す可能性だって十分にある。


 俺は周囲の魔力を取り込み、そのまま頽れる。

 冷たい床に張り付きながらそのまま俺は何もせずただじっと暗い洞窟の中で生にしがみつき続ける。

 


 ――やがて傷は癒える。



 魔物の回復力は人間のそれと比べて非常に高い。

 今までの経験上、約一日あれば治る。

 だが、今回は何かおかしい。

 多分、一時間くらいしか経ってないぞ。回復速度が明らかに速い。

 おまけに回復前と比べて格段に力がついた気もする。

 試しに体を動かしてみるが羽のように軽い。劇的な変化だ。

 魔力の量に至っては明らかに元の三倍くらいにまで膨らんでいる。

 いきなり増えすぎて制御できるか不安になってきたほどだ。

 伸び率がおかしい。狂ってると言ってもいい。

 今までは五年がかりでほぼ毎日自己進化してようやく身体能力をを二倍とかにしていた。

 ゴブリンの成長率はマジでしょぼかった。それこそやらないよりマシレベルだった。

 それが今回はたった一回一時間で身体能力が倍に跳ね上がったがする。

 

 なんか俄然やる気が出てきた。

 今回の転生個体は実は超天才ゴブリンなのかも知れない。短足だけど。

 まさかと思うけどゴブリンジェネラルクラスだったりする?

 こりゃもしかするよ。あのドラゴン本気で越えちゃうかもよ。

 勿論、油断はしない。常に極限サバイバルなゴブ生では油断と慢心は一番の敵だからね。

 幸いまだまだ魔物の肉はある。

 どんどん鍛えて強くなっておこう。

 

 こうして俺は昼夜もわからない洞窟の奥で自傷と回復をただひたすら繰り返した。

 洞窟に貯まっていたドラゴンの魔力を使い切ったら、今度はエサとして持ってきてあった魔物の魔石を砕いて洞窟を魔力で満たす。

 何回も繰り返しているうちに洞窟の壁面が俺の血で真っ赤になったけどまぁ必要悪だよね。

 スプラッタな光景で見る人によっては気絶するだろう。


 さて、どれくらいたっただろうか? 

 俺の体感だと三日くらいだと思うが時計なんて便利な物はない。


 あのドラゴンは今まで日に数回獲物を置きに戻ってくるのが通常だったのに、ここの所全然帰ってくる気配がない。何してるんだろう?

 いればいるで威圧感があって恐ろしいが、いなければいないで困る。食料はもう尽きてしまった。

 食料が無い状態であの訓練をすると死亡することは目に見えている。


 ――さて、どうしよう。


 食料が欲しいぞ。狩りに行こうか。だがここは断崖だ。

 俺は一応洞窟の入り口まで様子を見に行く。


 う~ん?

 裾野に広がってる森ってよく見たら前世で俺が一時期生活拠点にしていた森じゃないかなぁ。

 あの森は魔物が豊富でいい狩り場だったからね。下に下りられればいいんだけど。


 よし、決めた。折角だし魔術の練習がてら下までの階段作ってみるか。

 魔力が増えた今ならいける気がする。


 試行錯誤しながら土魔法。

 習ったわけじゃなくてゴブリンマージが使っていたやつの見よう見まねだ。

 ほんとは手取り足取り教わりたかったけどゴブリンに何かを教わるのは無理だよね。

 まず会話不能で身振り手振りの意思疎通すら不可能だからね。

 この世界で人間として生きたことは最初の一回の約五分しかないから、ロクに街へも行ったことないし魔法の理論書だって見たことはない。

 だけど魔法ってのはおおよそ脳内に描いたイメージに添う形で発現してくれるものだと思っている。

 俺がイメージするのは粘土。

 一段一段作るのはやってられないのでこの崖全部を巨大な粘土だと思うことにする。

 魔法ってのは魔力が足りないとイメージが固まらなかったりする。

 魔力が少なかった前世でそれは散々経験済みだ。

 だから直感だけど多分いける。俺は繊細な魔力操作には自信がある。

 魔力を崖全体に流して柔らかくするイメージで、後は一気にこね上げる。


 すると、神社の石段のような見事な階段が下まで出来上がった。

 我ながら素晴らしい出来だ。初めてとは思えないね。


 早速獲物を狩りに行こう。早い段階で実戦も積んでおきたいしね。


 キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 


 頭上から影が落ちてくるのに気づいた。

 タイラントクロウだな。体長三メートルくらいの大きなカラスだ。

 上空からゴブリンのような体格の小さな獲物が孤立するのを淡々と狙っている奴だ。

 丁度洞窟から崖に出てきた俺に狙いを定めたんだろう。

 

 さて、どうするか。

 前世の俺なら素手でもギリギリ何とか出来る。

 だが今世の体はまだポテンシャルの全容を掴めていない。

 掴めてはいないが再三のパワーアップで前世の肉体素質は間違いなく既に越えている。

 だからまあ、普通にいけるだろうな。と、いうか多分楽勝だ。

 

 俺はよっこいせと二本足で立ちあがる。ハイハイだと普段手が不自由な点がちょっと不満だ。

 俺を狙って大口を開けて突撃してくるタイラントクロウの眉間に思い切りアッパーをぶちかましてやった。

 急降下してきたところにカウンター気味の一撃。

 間違いなく効いたようであっさり伸びてしまった。

 

 よし、肉ゲット。欲しいと思ったときに丁度向こうから来てくれるなんてありがたい。

 獲物を狩りに行く手間が省けた。

 

 ……しかし、階段折角作ったのに使わなかったな。

 ま、いいか。そのうち使うとしよう。

 

 巣の中にタイラントクロウを運んで意気揚々と血抜き。

 つまみ食いしながら解体後、再び自傷訓練。

 

 全身血まみれのボロボロになった所でふと、洞窟の中の空気に変調を感じた。

 不意に現れた障害物によって洞窟に吹き込んでくる風の一部に対流が出来ている気がする。

 そのポイントは若干だが移動しているようにも感じる。

 俺の勘だと何者かがこの洞窟に入ってきた。洞窟は薄暗く見通しが悪い。

 広いとは言えこの薄暗さに関してはこの洞窟も例外ではない。

 こういった場所だと普段以上に空気の流れは大事だ。

 なればこそ小さな変化から生物の気配を読みとるのが生き残るコツだ。

 これが出来ないゴブリンはよっぽど運が良くない限り三ヶ月と持たず死ぬだろう。

 洞窟の中に吹き込む風に匂いが混じっているので外敵の襲来は確定的だろう。

 耳を澄ませば小さく足音の反響も聞こえてくる。

 初獲物に浮かれすぎて外敵の襲来に対して油断してしまったようだ。

 多分、階段作ったままにしたから登ってきちゃったんだね。

 反省。今度から使ったら階段を消すことにしよう。


 さて、死にかけのこの状態でやれるだろうか。

 しかし、まさかあのドラゴンの縄張に侵入者が来るとは思わなかった。

 あのドラゴンは俺の全ゴブ生の中で見た生物でも最強クラスの存在だからな。

 魔物は基本自分より強い魔物の縄張には原則として近づかないんだよ。

 だから、油断と言えば油断だ。

 とは言えこれくらいのピンチならば何度かあった。

 

 鬼が出るが蛇が出るか。

 かかってくるなら迎え撃つ。

 

流石にお気づきだとは思いますけど一応補足。

主人公は自分をゴブリンと思い込んでいるドラゴンです。

はっきりと自覚するのはまだ先です。

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