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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
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とある人類最強の男の話。

 

 最強の冒険者。竜殺し。世界唯一の特級冒険者。人類最強。勇者の再来。超越者。剣神。


 俺がそう呼ばれるようになって幾年月が経っただろうか?

 俺は人類の最高地点までやって来たが、まだまだ目指す先は遠い。

 俺の目標は世界最強。

 掲げた目標は限りなく高いが既に俺の人生は終わりが近い。

 人間の時は短い。せいぜい五十年。

 がむしゃらに剣を振るっていればあっと言う間に五十年が過ぎた。

 五十を過ぎてからは頭打ちだ。

 衰退する体を維持するのに精一杯でこれ以上伸びる余地なんて一切ないだろう。

 

 ふと、気づけば初めて出会った時の師匠と同じ年齢になっていた。


 思えば、俺が最強になりたいと思った初めのきっかけは幼少の頃、村をワイバーンに焼き滅ぼされた時、とある初老の剣士に助けられた事だったか?

 理由は子供らしい単純な物で、剣士が俺を助けてくれたその姿が格好良いと思ったからだった。

 身寄りを失った俺はその剣士に半ば強引に身を寄せるように弟子入りした。

 それが俺の師匠。

 師匠は剣の達人でかつて王国一の剣士に与えられる称号である剣聖の称号を持っていた。

 王国というのはルキアノ王国のことで、ブノワ共和国、スペリオン帝国と並ぶ人類三大国の一つとされている。そんな大国の中で一番の腕というのは中々に凄いことだ。

 だが、俺が師事したときには既に次代の剣聖に称号を渡したため、出会った当時は隠居生活中で弟子を取ってはいなかった。

 さながら爺と孫の二人きりの生活。

 師匠は俺の憧れで目標だった。

 目標だったが、俺が成長した頃には、師匠は病魔に蝕まれ寝たきりで剣を握ることは出来なかった。

 憧れを憧れのまま越えられない。その事が俺を燻らせていた。

 師匠は死ぬ間際に俺の兄弟子であり現剣聖の称号を持つ男に繋ぎをつけてくれ、その男と手合わせすることになった。

 だが、その男は幼き日にワイバーンを斬り殺し俺を助けてくれた記憶の中の師匠の強さには遠く及ばなかった。剣聖とはこんなものなのかと非常にがっかりしたのを覚えている。

 この頃だろうか? 俺が狂い始めたのは。貪欲に強さを求めるようになっていったのは。

 冒険者稼業の傍ら、俺の記憶の中に残る最強をなぞるように俺は訓練に明け暮れた。

 強い奴の噂を聞けば駆けつけ、各地で開かれる武闘会にも参加した。

 結果として俺を打ち負かせる奴は俺の記憶の中に巣くう師匠しかいなかった。

 もしかすると記憶が美化しているだけで俺は師匠を既に越えているかも知れない。

 だが、それを確かめる術は無い。だが、肩書きなら別だ。

 師匠は王国一止まりだった。

 だったら俺は……人類最強になれば師匠を超えられるのではないかと思った。

 

 ひたすら目の前の強敵に打ち勝つことだけ考え続けて――そしてその日はついに訪れる。


 ディーク・フリーゲル。


 人類最強の男。俺の名を知らぬ者はいない。

 最強となって俺は気づいた。戦う相手がいなくなった。

 戦う相手がいるうちは余計なことを考えずに済んだ。

 目の前の相手を倒すことだけ考えれば良かった。

 挑戦者は格上の相手から技術を盗み、打ち負かすことだけ考えれば良いのだから。

 

 人類の先頭まで脇目も振らず走り続けて生きてきた。

 ゴールの先にはゴールが無かった。

 当然と言えば当然だろう。終着点に着いたら誰だって立ち止まる。

 そこから先に進もうと思えば手本も無く未踏の地を手探りで進む事になる。

 合っているのか間違っているのか、進んでいるのか戻っているのか。

 人類最強とは五里霧中で孤独な道だった。

 

 不安を打ち払うように闇雲に剣を振るった。

 時には森へ山へと修行に入った。

 そんな時に俺は奴と出会った。


 ――それはただのゴブリンだった。

 

 俺はゴブリンキングかゴブリンジェネラルにでも出会ったのかと一瞬思った。

 だが、ゴブリンだった。

 だが、おかしな事にそいつはただのゴブリンじゃ考えられないほどの重圧を放っていた。

 

 そのゴブリンは今までに戦ったどんな相手よりも理にかなった剣の振るい方をしていた。

 俺はそのゴブリンに剣の極地を見た。

 俺と打ち合えている現実に気づき、初めて戦いの中で恐れを抱いた。

 奴は、人類最強である俺と平然と打ち合っていたのだ。

 

 ゴブリンってのは人間の子供でも殺せるほど弱い魔物だ。人間の大人には間違いなく敵わない。

 決して覆せない種族の壁って奴がある。

 一対一で人間は竜に勝てない。戦おうと思っちゃいけない。

 逆に一対一でゴブリンに負けることは無い。ゴブリンもその事を理解しているだろう。

 だからこその異質だった。

 俺とゴブリンの間にあるのは埋めようのない体格差、筋力差、そして装備の差。

 この当時俺が使っていた剣は最高の鍛冶師に最硬度の金属オリハルコンで作り上げて貰ったの珠玉の一品だった。

 それに対するゴブリンの剣は森で雨ざらしになっていたのを拾ったような、錆が浮いている安物の鉄剣だった。俺はこの剣を手にするときに試し切りで鉄剣を叩き斬った。

 まるで木の枝のようにたやすく切断できたのを覚えている。

 だからこそ、俺の剣をただの鉄剣で受け止めていることに驚嘆を覚えた。

 おそらく、ゴブリンは俺の剣をただの一度もまともに受け止めちゃいないかった。

 受け止められなかったという方が正しいか。

 力点をずらすような刃の添え方だった。

 力を逃がすことで武器が壊れないように気にしつつ、何とか攻撃を凌いでいるように見えた。

 俺が剣を押し込むと、ゴブリンは奇妙なことに自ら剣を引きやがる。

 まともに打ち合ったら力で勝ち目がないからそうしていたんだろうが、それもただ引くだけじゃなかった。

 わざと力の逃げ道を作ってオレの力の流れを巧に制御してくるのだ。

 戦いにくいことこの上なかった。

 俺は全力でゴブリンを相手にしているのに、ゴブリンの奴は他のことに気を取られつつの片手間だ。

 それでやっと互角だった。

 俺は人生で初めてどうしようもない怒りを感じた。

 実力で完全に負けていると俺自身が認めてしまったからだ。

 俺の記憶の中の師匠の剣技がちゃちに見えてしまうほどの、凄まじい剣技に圧倒された。

 故に同じ土俵で戦えないのが悔しかった。奴をゴブリンにしてしまった運命を呪わざるを得なかった。

 奴が人間だったら俺のいい目標になってくれたのにと思った。

 だが、結局はゴブリンの技量がいくら優れようと人間である俺の優位性は変わらなかった。

 俺が剣を思いきり叩き付ければ体格で劣るゴブリンはどうしても苦しい防御姿勢を取らざるを得ない。

 どう足掻いてもゴブリンは押し込まれる。後ずさる。

 ゴブリンは身体能力も低く速度が遅いから俺の横に回り込んだりという選択肢も無いのだろう。

 実際腕を振る動きも俺より遅かった。

 よくよく観察するほど身体能力自体は通常のゴブリンに少し足が生えた程度だとわかる。間違ってもゴブリンジェネラルほどの身体能力は無い。少しだけ体に恵まれたゴブリンと言ったところか。

 それでよく打ち合いの速度についてこれるなと思ったがどうやらゴブリンの奴は俺が剣を振りそうな場所に当たりを付けて先んじて手を動かしているらしかった。

 攻撃を見てから避けるのではなく攻撃が来る場所に防御を置く。一歩間違えれば死ぬギリギリの戦いの中でそれをやってのけるのはどんな胆力だと思った。

 十合、二十合と剣を交え、勝負を決定づけたのは装備の差だった。

 ゴブリンの使っていた見るからに安物そうな剣が根元から折れた。

 明らかに奴は動揺していた。


 その隙を突いて俺は丸腰になったゴブリンを剣の柄で殴って昏倒させた。

 そこまで技量を磨き抜いた誇り高き戦士を殺すことなど出来なかった。

 もし殺す日が来るならば今度は奴の技量を超えた上でまともな武器を使って戦いたいと思った。

 

 それからというもの。俺は師匠のことを考える時間が不思議となくなった。

 代わりに考えるのが森で出会ったゴブリンだった。

 上位の種に対して一歩も怯まず戦い抜くあの姿には見ていて滾る物があった。

 俺はゴブリンの限界を過小評価していた。そして多分、人間の限界も過小評価している。

 

 故にその日から俺が掲げる目標は世界最強。

 人類最強を成し遂げてから久方ぶりに掲げた目標だった。

 目標を得てから俺の日々は再び充実し始めた。

 人間、目指す先を持つと成長が早い。目指す先は竜の次元。

 竜の膂力は凄まじい。巨大な体格で速力も人間を遙かに超える。

 素早さで翻弄できない以上、足を止めてがっつり戦う必要がある。

 そしてまともにやり合うには衝撃を逃がすだけの技量が要る。

 予知にも似た剣捌きも必要だ。

 改めて自分に足りない物が見えてきた。

 やるべき課題は多い。

 だが幸い、手本なら一度見ている。

 俺は一心不乱に剣を振るい続けた。

 俺はオリハルコンの剣を捨ててただの鉄剣に持ち替えた。

 鉄剣でオリハルコンの剣を凌げるような次元にまで技術を持っていきたいと考えた。

 戦いの中で硬い相手と打ち合っても獲物を失わない技術は持っていても損はしない。

 同時に剣の切れ味を最大限引き出す技術を身につける必要があると考えた。

 それこそ鉄剣で動かない岩くらい斬れるようにならないと、岩より硬い鱗を持ち更には動き回る竜には勝てないと考えた。

 そこからは試行錯誤の日々だった。


 気がつけば俺は剣を志す数多くの人間を置き去りにしていた。

 彼らが人類最強を目指しているうちは俺には勝てないと俺は思った。

 同時にあのゴブリンはきっと孤独だったのだろうなと妙なシンパシーを感じた。

 あのゴブリンと出会えた自分の幸運にも感謝した。


 ある日、ルキアノ王国の王都を下位竜が襲った。

 竜の強さが俺の目標だ。当然俺は竜の生態についても調べていた。

 下位の竜なら何とかなる自信が俺にはあった。


 ――そして、単身俺が竜とやり合い討ち取った日、俺は【竜殺し】で世界唯一の特級冒険者になった。

 一部では、剣神、超越者と呼ばれるようになった。

 苦笑せざるを得ない。言っても誰も信じないだろうが、俺の技量はまだあの当時のゴブリンに届かない。

 まだあのゴブリンの技の模倣の途中に過ぎない。そして奴の方が種の限界からの超越の幅が大きい。

 生きていれば今頃もっと腕を上げているだろう。 


 それから更に剣を振るい続けて十年。

 ようやくあの日のゴブリンの技量に到達したと確信が持てた。

 俺ももう歳だ。最強は届かなかったが、あのゴブリンとの決着は全力が出せるうちにつけたい。

 奴に会いに行ってみるか。


 意気揚々と森に向かったが奴はいなかった。

 そういえばゴブリンは十年くらいしか寿命が無かったと思い出す。

 あれだけ強くなっても老化には勝てない事実に一抹の寂しさを覚えた。

 遠くない将来、老化は俺をも苦しめることになるだろう。

 磨き上げた技術の衰退に果たして俺は耐えきれるだろうか?

 

 冒険者ギルドから早馬が来た。

 白の王が暴れているから討伐して欲しいという依頼らしい。

 白の王とは竜種の頂点に立つ八体の竜王の一角で山のように大きな体格と美しい白金の鱗を持った神話にも語られるこの世界の者ならば誰でも知っている著名なドラゴンだ。

 情報によれば白の王に都市二つと街五つが既にブレスで丸々凍り漬けにされてしまったようだ。

 それでも止まらず、一直線に王都へと向かっているらしい。

 ルキアノ王国の中心に開かれた王都。王都には天を貫く聖樹がある。いや、逆か。

 恵みをもたらす聖樹があったから人々が集まって王国が出来た。

 聖樹には不思議な力がある。

 怪我や万病を治す木の実を付けるほか、その幹に膨大な魔力を内包することでも知られる。

 その魔力を防御結界に回せばそう易々とは落ちないだろう。


 亜竜であるワイバーンはともかく、今の冒険者で竜殺しを成し遂げたのは俺しかいない。

 俺の所に話が来るのはわかるが、街ごと壊滅させるのは流石にどうにか出来る次元を越えている。

 剣を持って近づいたところでたどり着く前に凍らされておしまいだ。

 俺は世界最強に位置する八体の竜王の存在を軽く見積もっていたようだ。

 苦笑せざるを得ない。

 あと一万年時間があったらどうにか出来るだろうか?

 俺は剣だけで人生を終えてしまった。魔法も出来たら違ったかも知れない。

 魔法は幼いうちから学ばないと成長にあまり期待できないと聞く。

 剣で最強を志したときに、俺はその選択を捨ててしまった。

 最初から世界最強を目指していたらまた違っただろうに。

 尤もその場合は剣をここまで極められなかったからどっちもどっちか。  


 俺に最上位の竜たる白の王を討伐することは出来ない。今の実力だと中位の竜に届くかどうか。

 だが、白の王とて暴れているからには相応の理由があるはずだ。

 俺は冒険者ギルドへ依頼達成条件条の変更を要求する。

 変更の内容は白の王の縄張で起こっている異常についての調査。


 俺は早速白の王が住まう霊峰の麓に広がる森へと足を踏み入れた。

 霊峰の麓の森はあのゴブリンと出会った森でもある。

 住み着く魔物が非常に凶悪なことで有名で、手練れの冒険者でも簡単に命を落としてしまう魔境だ。

 人類最強と言われた俺でも道中何度か危うい場面があったほどだ。

 なるほど、この森で生きてきたならあのゴブリンのあの強さは頷けると思った。

 きっと生と死の狭間で限界を超える成長を繰り返すしか無かったのだ。

 あれくらい強くなっても全く油断できない場所だ。しかも奥地に行くほど魔物が強くなる。

 ここで生きるには最低でも下位竜クラスに強くならなければ生き延びられないんだろう。

 そんな場所に住んでいるんだからここの魔物達には尊敬に値する。

 俺が生きてきた人間の領域は外敵がいない。はっきり言ってしまえばぬるま湯だ。

 ふと、俺もここで生まれ育ったらもっと生物として上に行けたのではと思った。

 いや、もしもの話には意味は無い。

 考えを振り払って森を進む。


 俺は白の王の巣の位置に関してはある程度把握している。

 森の奥地にある霊峰の中程にあるの断崖の窖だ。

 何せ最終的に倒すべき目標だったからな。情報収集には余念が無かった。 


 俺は崖を登ろうとして断崖に不自然な階段がある事に気づいた。

 竜は空を飛べるから階段など必要ないと思うのだが?

 罠かと思ったが、別にそういうわけでもなさそうだ。

 折角だしありがたく使わせて貰うことにしよう。

 階段は中腹の洞窟まで続いていた。間違いなく白の王の住処のはずだ。

 巣が崩落して住処がなくなって暴れているのかと思ったら、どうやら違ったようだ。

 竜種は縄張り意識が強いからな。巣とかに異常があると攻撃的になる。

 あとは縄張に他の竜が入ってきた場合だな。その場合も縄張を守ろうと非常に好戦的になる。

 他の可能性としては産卵期になるが、白の王を初めとする竜王種が子を産んだという歴史は有史以来無いことだ。

 よって歴史学者の中では寿命が無く不死の存在とされている。

 この可能性はほぼ除外していいだろう。

 

 見たところ巣は静まりかえっている。嫌な気配はしない。

 異常も特に見当たらない。

 

 今頃、王国軍が兵を率いて白の王を決死の足止めをしてくれているはずだ。

 俺は彼らに報いるためにも白の王が巣に戻ってこないうちになんとしても異常を発見し、取り除かなければならない。

 俺は意を決して巣の中へと侵入した。


 そして、その奧で血塗れになってぐったりとした白金の鱗を持つ竜の幼生を見つけた。

 体長は胴体部分だけで一メートル。尾の先まで含めると二メートルくらいか。

 既に背には立派な翼を持っている。飛ばれたら厄介だな。

 地に伏してはいるが、どうやら生きているようだ。

 

 俺を敵と定めたのか幼竜の眼がぎょろりと俺を見据えた。


ここもついでに加筆修正。

きっちりプロット作らずにノリで書いてたから、見直してみると意外と粗があるね。

書いたときはこれでいい気になるんだけど、日を改めてみ直してみると足りない。

修正内容は以下の通り。

ディークが装備の差と言っているのに、装備について書いていないのがおかしい点。

3話くらい先で話で気になった所もここで加筆しておきました。

主人公の容姿の描写を少しだけ足ししておきます。

この調子だとこの先の加筆修正が思いやられる。

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