熱い氷と灰色の世界
書いてみると、思った以上に話が進まない。
構想中に予定していた話数ではそろそろ第三章に入る頃なのに、現実は第二章開始部分って言うね。
キーボードのタイプしすぎでそろそろ手が限界。
つらいよー。やめたいよー。
そういうわけで、手が痛いので明日から投稿を三日ほど休ませてください。
来週月曜くらいからまた頑張る予定です。
……もし、休まずに投稿してしまった場合はごめんなさい。
熱い氷。
母さんから出された魔法に関する課題である。
前に見た壊せない氷と似たような変則的な氷だ。
だが、こちらの方が奇抜さで言えば遙かに上だ。
熱とは言わば分子レベルの運動エネルギーである。運動が活発になればなる程体積が増える。
気体になる。
だから熱を発している固体が異質なのだ。
なので、もしかしたら見た目だけ固体でも分子間の結合は緩いのかもしれない。
岩の塊を作り出して思い切り射出してみたが、砕けたのは岩の塊の方だった。
俺は魔力を流して物質構造が調べられないか試してみようとする。
しかし、俺の魔力は熱い氷の結晶に絡め取られるように奪われた。
熱い氷の結晶は俺の魔力を食った分だけ大きくなる。
……なんだこれは。
俺の魔力に干渉された。
前に母さんが俺の魔力制御を奪ったのに感覚としては似ている。
制御を奪う?
どうやって?
この熱結晶が母さんの使っている魔法の正解にたどり着くためのヒント。
だが、圧倒的に情報が少ない。
熱い。硬い。魔力を絡め取られる。
わかっているのはこの三点だけだ。
他にヒントはないだろうか。
……そう思って熱い氷の結晶をじっと眺めていると、不意に俺の視界が僅かにズレた気がした。
俺は直ちに違和感を覚えた。
違和感を覚えるほどにそのズレは明確な輪郭を成していき、やがてもう一つの世界を成す。
今、俺が見ているのは色味のある通常の世界に、灰色の世界がオーバーラップしているような気持ち悪い景色だ。
そして、灰色にオーバーラップした世界の中で母さんが残していった熱い氷だけが色を持つ。
この意味はなんだ?
通常世界に反して灰色世界は死んでいる。全てが停止し、荒涼とした世界だ。
マンガのように全てが白と黒のモノトーンで表現されている。
気持ちが悪い。見てはいけなかった何かを垣間見てしまったような感覚だ。
灰色の世界を覗こうと俺が意識を傾けようとすると、現実の方の世界が揺らいでいく。
まるで、灰色の世界に飲み込まれようとでもしているかのように、灰色の世界が力を増す。
魔性の引力が灰色の世界にはあった。
俺は無意識に灰色の世界に引きつけられる。灰色の力が更に増していく。
だが、灰色の世界に飲み込まれたら多分終わりだ。
俺の知っている色のある世界が灰色の世界に取って代わられる。
どうなるか検討はつかないが、取り返しがつかない事になるのは間違いない。
俺は、そう直感した。
慌てて見知った現実世界に意識をたぐり寄せる。
確固たる意思を持って、灰色の誘惑に抗う。
やがて、灰色の世界は色のある世界の裏に折り重なるようにして消えていく。
灰色の世界は寂しく暗い場所だった。
……だが、俺はあの世界を見たのは初めてではない気がする。
どこで見たか?
その答えはすぐに俺の脳裏へと浮かんだ。
それは母さんが俺に見せてくれたイメージ。
氷で全てが構成された世界で、俺が王冠被って偉そうに氷の白の玉座にふんぞり返っているあのイメージ画像。
だが、あのイメージ画像には色があった。そう、大地の全てが白銀で、空はひたすらに青かった。
全部が灰色の世界とは似ても似つかない。
だが、デジャヴを覚えたと言うことは俺は本能的に二つの世界が同じ物だと認識していることになる。
これが恐らくヒントだ。
だから、もう少し灰色の世界を知ることが俺には必要だ。
だが、どうやって開けばいい?
さっきのは熱い氷を観察中に偶発的に襲ってきた感じだ。
よくよく注視すると熱い氷がおかしな気配を放っていることがわかる。
そう、あの灰色の世界と同じ雰囲気だ。
いわば、熱い氷は特異点。灰色の世界とこの世界の接触点と言うことになる。
そう、多分熱い氷は何かの入り口なんだ。
これを意味もなく母さんが置いていくだろうか?
何となく母さんの性格はもう掴んでいる。
子供に過保護。それは間違いないと思う。
そして熱い氷は魔力制御のためのヒントだとも言っていた。
だからつまり、そういう事だ。
この氷を使って灰色の世界を見極めろと言うことだ。
俺はもう一度熱い氷に集中。
最初と同様にじっくりと観察し、滲み出ている違和感を見つける。
そしてその違和感を広げるようにして灰色の世界を開いていく。
灰色の世界が大きくなってくるに従って同時に俺にわき上がってくる欲望。
それは灰色の世界をもっと知りたいという好奇心。
欲望に負けるように俺は灰色の世界をどんどんと広げていく。
……あ、やば。
気がついたときには既に遅く、元の色のついた世界は灰色の世界に塗りつぶされた後だった。




