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アルティメット・マザー


 気づけば辺りは惨状だった。


 母さんによって踏みつぶされた森林の木々。

 俺とクロの魔法によって吹き飛ばされた森の木々。


 魔物の死骸は潰れたりひしゃげたりで酷い有様だ。


 ドラゴン恐るべし。

 まるで歩く大災害。


 俺は改めてひしひしと感じていた。


 「……ねぇ、母さん。狩りの練習のつもりなんだよね? これはないんじゃないかなぁ」 


 「そ、そう? ちょっと簡単すぎたかしら? この森の魔物は弱いものね」


 「逆だよ逆。よく考えてみて。母さんから見ればこの森の魔物は凄く小さいかも知れない。だけど俺から見ると大体が同じくらいの大きさなんだよ」


 「……言われてみればそうね」


 「そう。だから練習するなら一匹ずつね。できればゴブリンとかがいいかな」


 ……だって楽だから。


 「……で、でもゴブリンなんて少し風が吹いただけで死んでしまうほど軽くて弱い生き物よ。どうして生きていられるのかわからないほど弱いもの。持ってくることはできないわ」


 そりゃ、母さんの走る風圧で吹っ飛ばされたゴブリンが木か何かにぶつかれば死ぬしかないだろ。

 それより母さん、前世の俺に喧嘩売ってるな。買わないけどな。


 ゴブリンが駄目なら何にしよう。

 俺がそう考えていると、クロが口を開いた。


 「……そうだな。じゃあとびきり強ぇのと一対一。そっちの方が戦いやすい。数が多いのは駄目だ。どうしたって魔法戦になる。俺には合わねぇ。山の向こうのはもっと強ぇんだろ」


 何言ってくれちゃってるの。


 「そうね。向こうの森の魔物なら捕まえても死なないものね。それがいい。そうしましょう」


 何だか今すぐにでも母さんが山の向こうに行こうとうずうずし始めたので、俺はすぐさま口を挟むことにした。山の向こうの魔物がどういった能力を持っているかわからない。

 ただ、母さんの話で強いことだけはわかっている。

 避けられるならばできるだけ先延ばしにしたい。


 「待って。とりあえず今日の狩りは一応成功でいいんじゃないかな。折角狩った魔物が勿体ないよ」


 「そうね。とりあえず巣に運んじゃいましょうか?」


 こうしてなんとか話はまとまった。


 母さんに連れられて頂上の洞窟に戻ってくる。

 母さんのおでこの上に俺とクロはのせられた。

 母さんが魔物の死骸の山を両手に山盛り運んで来たためだ。


 まだ見ぬ強い魔物。不安だ。

 洞窟に戻ってくるまでの間ずっと俺はこればっかり考えていた。

 俺は今でも時折魔物に襲われる悪夢にうなされる。

 夢の中ではドラゴンになった今でも俺は弱っちいゴブリンだ。


 アーミーウルフの群れに夜通し追い詰められ、憔悴するまで弱らせられた挙げ句喰い殺された記憶。

 デッドリースパイダーの不可視の糸に絡まり、身動きできないまま食べられるのを待つ恐怖。

 他にも嫌な記憶は幾つもある。


 今は該当する魔物を狩った経験があるから今はある程度トラウマは払拭出来てはいるが、どうしても初めての強い魔物と聞くと当時の光景が鮮明に脳裏に蘇るのだ。

 初めてであったアーミーウルフと俺の関係は捕食者と被食者だった。間違いなく強敵だった。

 デッドリースパイダーも同様だ。

 ストーンリザードだって最初は苦戦した覚えがある。

 辛くも勝ちを拾ったが右手が石のまま一生を送ることになった。

 初めての強敵も二回目三回目と戦ってくれば段々慣れてくる。勝てるようになる。

 何回も繰り返し生きているうちに段々初めて遭遇する魔物がいなくなってくる。

 今の俺はそうやって出来ている。

 現に裾野の森に広がる魔物は俺の知っている魔物ばかりだ。

 どのくらいの実力で勝てるかある程度脳内シュミレーション可能だ。

 だから森に行くことには不安が無い。未知の場所の魔物とは話が違う。


 不安を払拭するには訓練しか無い。劇的パワーアップが必要だ。


 ……そう、懐かしの自傷訓練だ。


 この洞窟にクロと閉じ込められていた期間は食料面の不安もあって実行に移せなかった。

 なんせ、この訓練は体の修復のために普段以上に食べなきゃいけない。

 だけど今は魔物の死骸が潤沢だ。魔力は母さんが嫌になる程放出している。

 

 俺は静かに魔力を集中し始める。


 「駄目よ! 危ないことしちゃ!」


 しかし、母さんが妨害してくる。母さんは魔力感知能力にかなり長けているようだ。

 いつかの壊せない氷といい、魔法戦も相当強そうだな。


 「必要なことなんだ」


 「いきなり血を噴き出すことのどこが必要なことなの!」


 ……はぁ、一回見られたからなぁ。四年経っても未だに警戒されてる。


 「これをやると強くなれるんだよ。大丈夫、慣れてるから今更加減ミスって死にはしないよ」


 「慣れるほどやったの!? とにかく禁止。禁止です」


 「やるったらやる!」


 俺は無理矢理魔力を集中し始める。

 しかし、途中で魔力が霧散した。


 ……なん、だと。


 もしやと思うが、俺の魔力に干渉されたのか? 干渉されて不発にされた?

 魔法って極めるとそんな事まで出来るのか?

 ま、負けるか!


 俺は再び魔力を収束。


 「聞き分けの無い子ね。いいわ。やれるものならやって見なさい。全部防いであげる。ついでにその未熟な魔力制御もたたき直してあげるから覚悟しなさい」


 母さん規格外さは身体能力だけじゃなかった。魔法も規格外だったらしい。

 言うなれば究極完全生命体。隙が一分も見当たらない。


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