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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
20/34

閉鎖した時の中で

これで第一章終わりです。

次から第二章。


12時半にもう一話上げます


 ――三年程の月日が経過した。


 俺はチビドラゴンと二人、相変わらず洞窟に籠もって修行をしている。

 そうそう、三年前とは違って小さな変化がある。


 チビドラゴンと会話による意思疎通に成功した。

 どうやらドラゴンにはドラゴン独自の言語があるらしい事がわかったのだ。

 それが判明するのに、筆談できるという部分が非常に大きかった。

 相手と意思疎通が可能であるとわかれば積極的に会話しようと思うからだ。


 ドラゴンの会話はその咆哮に自分の思念を乗せる事にある。

 声帯を震わせて特定の音を並べて出す人間式とは根本的に成り立ちが違うと言っていい。


 例えば「肉食べたい」と考えながらGAO!と吼える。

 すると、GAO!の音に「肉食べたい」の情報が乗る。

 その思念情報を受け手が読み取る。こうやってドラゴンの会話が成立する。

 そして多分、思念のやりとりはドラゴン同士でないとわからない何かがあると踏んでいる。

 ゴブリンや人間じゃなかった時には無かった脳の部分を使っている感覚が何となくあるからだ。

  

 ドラゴンの言葉を習得する手順は意外と簡単だった。

 チビドラゴンの協力の下、筆談と同時に吼えることをお互いに繰り返した。


 その手順を取ったのにはちゃんとした理由がある。

 まだ筆談していなかった頃、チビドラゴンがGAO!と何かを言いたそうにしていると思ったことが何度かあったからだ。そしてその時、俺の脳内に何かが揺さぶられる感覚があったのを覚えている。

 それがヒントだった。

 試しに俺はチビドラゴンに向かって言葉を喋ってみようとした。

 すると、言いたいことに合わせて勝手に咆哮が口から飛び出した。

 そこで本能的に理解した。


 そこから先は練習だった。

 思念を咆哮に乗せる練習と、思念を受け取る練習。

 それを毎日ひたすら繰り返した結果、半年ほどで最低限の意思疎通が可能になった。

 そしてそれから二年半。今では人間だった頃と同様の感覚で会話することができる。


 「っと。中々に難しいな。魔力の制御は」


 チビドラゴンが言った。どうやら思念は受け手が最も理解しやすい言語に変換されて聞こえるらしい。

 俺の場合はチビドラゴンの発言が慣れ親しんだ日本語で聞こえる。

 その気になれば、異世界の人類共用後にして聞くこともできる。

 俺はそっちも完璧に使えるからな。

 俺の言葉はこの世界の人類共用語でチビドラゴンには聞こえるのだろう。

 チビドラゴンは元々異世界の人間だからな。

 

 今、俺はチビドラゴンに魔力の制御を教えている。

 チビドラゴンに魔法を教えれば、俺も対魔法戦闘の練習ができる。

 チビドラゴンは膨大な魔力を持っている。魔法の素養は相当に高いはずだ。


 「焦らずゆっくりやった方がいいよ。俺も魔法を使えるまでには数十年かかったから」

 「……そりゃ、気の長い話だ」

 

 あ、そうそう。俺はチビドラゴンに敬語を使うのをやめた。

 よく考えたら俺の方が長生きしている。年上だ。

 その事を会話の練習中にチビドラゴンに指摘された。

 それともう一つ。

 会話の練習中、お互いの呼び方を決めることになった。

 俺は暫定的にチビドラゴンをクロと呼ぶことに決めた。

 そしたら流れで俺の方はシロになった。

 ネーミングがお互いに投げやりすぎる。

 まぁ、「おい」とか「お前」でずっと通すよりはわかりやすいからいいんだけどね。 


 チビドラゴン改め、クロが言った。


 「……ちっ、魔法ってのは面倒だ。覚えることが多すぎる。そろそろ、剣の練習がしてぇな」 


 俺がクロに教えたのは俺理論の魔法だ。

 クロには魔法に関する知識が一切無かった。

 剣だけを考えて生きてきたから魔法を覚えようとは思わなかったらしい。

 魔法は幼いうちに習得しないと難しいと言うくらいしか魔法に対する思い込みがなかった。

 今は幼いドラゴンなので習得には何ら障害が無いというわけだ。


 魔法ってのはイメージだ。

 そしてイメージのアプローチには多分、無限の方法がある。

 だから、俺は一応クロに俺方式でいいのか尋ねてみた。


 すると、むしろ俺に教わりたいと言ってきた。

 無詠唱で魔法を使えるのは人間の中でごく一部の家系の者だけの技術らしいからだ。

 その家系では何代にもわたってルキアノ王国の宮廷魔術師を輩出しているらしい。

 で、他の魔導士はどうかというと、呪文が無ければ魔法を使えないらしい。

 魔法学園でそういう教育をされているようだ。


 ……なんか、きな臭いな。


 そうは思ったが俺が人間社会に関わる事はまず無いだろう。

 俺が関わり合いになるのは目の前にいるクロくらいのものだ。

 彼のことだけを考えてやればいいだろう。


 だから俺は物理学と化学、数学を徹底的に叩き込むことにした。

 これでも俺は高校時代は成績優秀だった。

 安定志向な俺の生き方を見ればわかるだろう。

 俺はいい大学に入ることを考えて余暇を全て勉強に当てるという超ガリベンだったからな。

 毎日十四時間勉強してたぞ。高二の前期で東大A判定出ても尚勉強を続けた男だ。

 尤も受験前にトラック事故で死んでしまったが。

 その努力が死後二百年経って役に立つんだから、人生とはわからないものだ。


 食料は氷の壁を掘れば出てくるし、幸い時間だけはたっぷりある。

 いくらでも学ぶ時間がある。クロにはしばらくガリ勉地獄を味わって貰おう。


 俺は凝り性なのか物質魔法で黒板を作った。

 更にチョークを用意して授業をしている。

 先生ごっこも中々悪くない。


 「……まさか、この年になって商会の丁稚小僧のような勉強をする日が来るとは思わなかった」


 クロは凄く憔悴した顔で呟いていたがガン無視だ。


 「……と、いうわけで物体はには毎秒980センチメートルの負荷が下方向にかかります。一秒とは平常時の人間の心臓の鼓動一回と大体同じくらいの時間です。では、この法則を用いて次の例題を解いてみましょう」


 「……うへ~」


 暗い洞窟の中でひたすらこんな事を繰り返す。

 理論を叩き込んだら魔力操作の練習。


 一応ドラゴンは夜目が利くけど、視力低下防止のために暗くなったら魔法で光源を出すことにしている。

 

 こうして閉塞した洞窟の中で小さな変化を積み重ねる日々が過ぎて行く。

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