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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
19/34

元ゴブリンと元人類最強

 

 更に三日ほど経過した。

 俺が氷壁を鏡代わりに自主訓練をしているとチビドラゴンがこちらへと近づいてきた。


 どうにも様子がおかしい。

 いつものように攻めかかっては来ずにじっとこちらを観察している。

 

 GAO!


 何かを言いたいようだが、何を言っているかは相変わらずさっぱりだ。

 しばらくすると、チビドラゴンは俺の動きを真似し始めた。

 尻尾や翼を動かす訓練を始めたのだ。


 そういえば、チビドラゴンもあまり尻尾や翼を使った攻撃をしてこなかったよな?

 ドラゴンにとって動かしにくい部位なのだろうか?

 どうなんだろう? 

 俺が知っているドラゴンは今世での俺の家族である二体だけだからな。 


 チビドラゴンの動きはぎこちない。慣れない体に悪戦苦闘しているといった感じだ。

 まだ生まれて間もないし無理もないことだろう。


 チビドラゴンが氷壁の前で訓練しているのを眺めながら、俺は思う。

 やたら突っかかってくる奴ではあるけど、一人でこの洞窟に閉じ込められないのは良かったかなぁと。

 さて、俺も負けてられないな。

 一応、一週間ほどだけではあるが俺が兄である。

 年下の兄弟に負けるわけにはいかないのだ。


 俺は体を動かす訓練について一つの進展を得た。

 尻尾を使う事で少しばかり変則的な二足歩行の戦闘が出来る事に気づいた。

 カンガルーキックのような利用の仕方である。

 まず、尻尾の筋力は凄まじい。短く貧弱な両足と違って全体重を支えることができる。

 つまり、足と尻尾の三点で体を支えれば安定する。

 尻尾に力を入れれば立っていることだけならば問題なくできる。

 そうした場合、両手を自由に使って戦闘ができる。

 また、尻尾で体を跳ね上げ、足で着地する事でバネ運動のようなショートジャンプのような事が出来る事もわかった。尻尾で体を跳ね上げるのは両足で地面を走る事に比べてモーションが大きい。

 これは乱発はできない。できないがいつでも飛べるうに準備しておけば咄嗟の回避行動に移ることができる。もしくは、両腕を降ろして四足に戻ることで高速による移動が可能になる。

 この戦い方の弱点は両手を使える代わりに尻尾が使えなくなること。あくまで体を支えるだけなので戦闘が相手の動き待ちになってしまうこと。この二点だ。

 二足歩行でも尻尾が使えれば良かったのだが、二者択一とでも思うことにしよう。

 あくまで戦闘で出来る事のバリエーションを増やす。二足戦闘はそういった使い方が一番いいだろう。

 何と言ってもこの戦闘法には代えがたい魅力がある。

 両手が自由になると言うことは武器が使えるということ。

 更にある程度ゴブ時代に学んだ格闘術が流用できると言うことである。

 俺は二足歩行時の戦闘バリエーションを増やすために突きや蹴りの訓練を開始した。

 同時に尻尾だけでバランスが取れないか試してみたりしている。

 もし、尻尾だけで体重が支えきれるなら足も自由に使えることになる。

 そうなればカンガルーキック以外の技が何か閃くかも知れない。

 

 そうやって日々訓練に時間を費やしていく。

 洞窟内の時間経過は分かり難い。

 明るくなったり暗くなったりで何となくわかるがそのうち数えることもしなくなった。

 

 さて、体を動かす訓練も大事だが忘れちゃいけないのが魔法の訓練。

 俺が準備運動がてら体内の魔力を循環させていると、チビドラゴンが近づいてきた。


 GAO!


 チビドラゴンは短く吼える。

 何となく言いたいことがわかった気がした。

 自分にも教えろと言いたいのだろう。


 さて、どうやって教えようか?

 

 言葉がわからない以上、教えるのが難しい。

 だが、ゴブリンと違って基礎的な知能が無いわけでも無さそうだ。

 時折悩みながら体を動かしている節が見えることがある。

 あくまで言葉が通じないだけだ。


 俺は土魔法を発動させる。

 ちょっと気になることがあったのでそれを試しながら行ってみることにした。

 俺がいつも作っている岩は洞窟内の岩と同じ材質ものだ。

 洞窟の中の岩をイメージして作っているから同じものができるのは理解できる。

 だが、俺の母さんである巨大ドラゴンが破壊しにくい氷を作り出したことに疑問を覚えた。

 恐らく自然界に存在しない氷だ。母さんが口から吐いたのが氷の魔法だとして、つまりその気になれば魔法はその性質すらも変化できると言うことである。

 ならば土魔法も材質変化ができるのでは無いかと考えた。

 土とは様々な鉱物が寄り集まったものだ。

 だが、それを一種類にすることも出来るのではないだろうか?

 想像するのは鉄分子。それが集まって一キロになるイメージだ。

 そしてその目論見も成功する。鉄のインゴットを魔法で作り出すことができた。

 俺は確信した。物質を構成する材質は変化できる。

 俺には砕けない氷を想像することはできない。

 だが、砕けない氷を完璧に想像できれば、母さんの作った普通じゃない氷を作り出すことができると。

 そうなってくるともう土魔法というカテゴリーは廃棄した方がいいのかも知れない。

 土魔法と言うにはあまりにも万能過ぎる。

 以後、水魔法と土魔法を統合して物質魔法と呼ぶことにする。

 火や風の魔法はエネルギー魔法と呼ぶことにしよう。


 俺は土魔法改め物質魔法でチョークをイメージする。

 材質は石灰。分子結合が何となく緩いイメージで作り出す。


 そして作り出したチョークで地面に絵を描き始めた。

 書いたのはドラゴンのイラスト。

 地面がボコボコして書きにくかったので歪になってしまった。

 そしてそのお腹の辺りに大きく丸印を書く。

 そして、ドラゴンの中心に向かって全身から矢印を伸ばすことにした。


 これで伝わるだろうか?

 

 俺が言いたいのは、全身の細胞から魔力を一ヶ所に集めるイメージ。

 お腹を指定したのは体の中心が一番魔力を集めやすい場所だからだ。

 慣れてくれば全身から伸びる矢印の向かう先を腕などの体の末端にしてやればいい。


 絵だけじゃ不安なので文字を使って今の情報を補足しておくことにしよう。

 書き書きっと。

 あれ? 書いておいてなんだけど、ドラゴンに文字は読めるのだろうか?

 

 チビドラゴンは俺がイラストを描き始めたことに驚いているようだった。

 いや、それ以上にイラストの外に書いた文字の羅列に驚いているようにも見える。

 それ、日本語だしなぁ。まさか読めるとは思えないんだけど。

 

 チビドラゴンは何を思ったのか、俺の手からチョークを引ったくると同じようにして文字を書き始めた。

 日本語ではなかった。でも俺には読めた。

 五回目のゴブ転生の前に神さまにこの世界の人類の共用言語知識を貰ったからな。

 あんまりに使わないからすっかりそのこと自体忘れてたけど。


 『まさかとは思うが、これは文字か?』


 人類共用語でしっかりとそう書かれていた。チビドラゴンは日本語の羅列を指さしている。

 多分、文字なのかただの幾何学模様の羅列なのかはっきりさせたいのだろう。

 俺が読めもしないフランス語の文体を見て何となく文字列だと理解できるように、チビドラゴンにも日本語を見て同様の直感があったのだろう。


 俺はチョークをもう一本魔法で作ると地面に異世界言語でこう書いた。

 

 『これなら読める?』


 俺はゴブ時代に何かメモをするのには馴染みのある日本語を使っていたけど、異世界後を忘れたわけじゃない。約二百年前と文法が変わっていなければこれでいけるはずだ。

 

 すると、チビドラゴンがあからさまに動揺しているのが見えた。

 そして、慌てたようにチョークで文字を地面に書き殴り始めた。


 『……そうか。言葉がわかるのか。普通の竜じゃねぇな。まさかと思うが、お前も元人間か?』


 「も」?

 

 『まさか、人間だったような物言いだね』


 俺はチョークでそう書いた。

 

 『ああ、俺は人間だった。今はどういうわけか竜に生まれ変わっちまったがな。お前もそういうクチだろ』


 へぇ、そんな奇っ怪なことがあるのか。

 とは俺は言えない。俺も似たようなものだからな。


 『俺はゴブリンだった。その前もずっとゴブリン。九十九回ゴブリンとして生きてきた。人間だったのはもう二百年前くらいだ』


 すると、チビドラゴンの瞳が驚愕に見開かれた。

 それから、なる程といった具合にしきりに何度も首を縦に振っている。


 『お前、もしかして森で会ったあの強いゴブリンじゃねぇか? そんだけ生きていたならあの強さも頷ける。馬鹿なはずのゴブリンに人間らしい理性が垣間見えたのもそういうわけか。お前が人間だった頃はさぞ名のある達人だったんだろうな』


 何だかチビドラゴンは凄く嬉しそうだ。

 馴れ馴れしく俺の肩を叩いてくる。

 まるで見知った旧友にでも出会ったような反応だ。


 『もしかして、どっかで会ってますか?』

 『おう。今の姿になったお前とも一回戦ったぜ。多分、今のお前になる前のお前ともな』


 ドラゴンになった俺と戦ったことがある人間。

 ……うん。一人しか居ないな。


 そうか、あの人なのか。


 『名前をお聞きしても?』


 『昔使ってた名前なんて死んでもうなくなっちまったよ。今の俺はただの一匹の竜。それでいい』


 俺も似たようなものだな。二百年、誰にも名乗る機会もなかった。

 だからもう自分の名前すら思い出せない。


 『なぁ、一つ聞きたいんだが。お前は何で強くなろうと思ったんだ?』


 『俺はゴブリンだったから強くならないと生き延びられなかったんですよ』


 『はは、ちげぇねぇ。苦労したんだろうなぁ』


 『あ、わかってくれます』


 思えば、誰かと意思疎通したのは久方ぶりだったかもしれない。

 俺はチビドラゴンとひたすら筆談で会話を繰り返した。

 チョークを何本も何本も作った。

 二百年。語ることは山ほどにある。

 

 チビドラゴンも人間だった頃の半生を語ってくれた。

 話に夢中になりすぎた結果。当初の魔法を教えるという話はどこかへ消えてしまった。


 『しかし、お前は弱いのが嫌で修行していたんだろ。何で竜になった今でも続けてんだ?』

 『あ~、それは惰性ですね。訓練するのが当たり前でやらないと落ち着かないんですよね』

 『惰性で一日の大半を修行に当てるか、普通。日がな一日修行に当ててるじゃねぇか。お前は何を目指してるんだ? 竜なんて鍛えないでも強いだろうに』

 『いやいや、一日の大半を訓練漬けにしているのは、お互い様じゃないですかねぇ』

 『ははっ違ぇねぇ。要は俺もお前も強くなる事しか考えてねぇバカってこった。強くなった後のことは強くなってから考えりゃいいんだ。よし、決めた。その為にも俺の当面の目標はお前に喧嘩で勝つことだ』


 更に話を進めていると、チビドラゴンはどうやら世界最強になりたいらしい事がわかった。

 俺はそのライバルとして勝手に認定されたようだ。


 それにしても世界最強か。うん、いいかもしれない。

 世界最強になれば身を脅かす危険が減るということだ。

 安全第一主義者の俺には非常に魅力的に聞こえる。

 その為にはチビドラゴンには意地でも負けてはいけない。

 多分、あのチビドラゴンは強さに関しては妥協を許さない。

 絶対に有言実行するタイプの存在だ。チビドラゴンの前世を見ればわかる。

 神さまにチートパワーを貰って異世界にやって来た、かのトラック運転手に迫る強さだった。

 いつか遠い未来に最強のドラゴンとして君臨する日が来るのかも知れない。

 チビドラゴンと本気で敵対する日は来ないと思うが、何かの拍子にご乱心にならないとは限らない。

 万が一、敵対したときに真っ向から打ち破れないようでは意味がない。

 

 だからこそ、俺は油断なく鍛えなければならない。

 今日を区切りに、世界最強を視野に入れて改めて努力に邁進しよう。

 

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