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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
18/34

翼も尻尾も使いよう

ごめんなさい。

投稿できないかもと昨日書き込んだが、あれは嘘だ。

と、言うわけで投稿します。

18時くらいになったらもう一話投稿できると思います。

明日も17時~18時の間に投稿します。


 三日が経った。

 外の様子はわからないが、洞窟の入り口を塞いでいる氷の壁から差しこむ光の量が三回ほど減ったり増えたりしたので多分間違いないと思う。


 親ドラゴン。つまり俺の母さんが外に出ないように凍り壁を作ったのには何か意味があるからだ。

 外に出られないのはつまらないが、逆に言えば閉鎖された空間の中は安全でもある。

 悪いことばかりじゃない。

 ドラゴンである母さんに空気中の酸素濃度などに関する知識が無いのは仕方ないとして、これは知っている俺がどうにかするべき問題だろう。


 と、言うわけでこの三日間。俺が取っていた行動は空気穴の確保だ。

 土魔法で天井に向かって岩壁に穴を開ける。この作業を行った。

 ここが山頂に近いことは既に確認している。

 山頂は雲より高いから雪が積もったりと言うこともないと思う。

 それに上方向ならばチビドラゴンも勝手に外へ脱出できないという考えもあった。

 ところで何故狙うのが何故岩壁かというと、入り口の氷壁は普通の氷じゃなかったからだ。

 閉鎖空間で火を使うのは自殺行為なので使ってはいないが、とりあえず殴った程度では砕けない。

 物質融解魔法を使おうとしても抵抗を受けて魔力消費量に対して中々掘削が進まなかった。

 どうやら物質融解魔法には弱点があったらしい。魔力を帯びた物質には抵抗を受けると言うことだ。

 多分、生物にも効果が薄いんじゃないかと思う。

 一方で洞窟奥の氷壁は殴れば簡単に破壊できた。

 同じ氷でも性質が違う。ここには何らかの魔法絡みの現象があると見て良さそうだ。

 後で検証しよう。閉じ込められているから時間だけはある。


 もう一つ。三日かかったのには理由がある。

 自分から離れた位置に魔法を行使しようとすると距離に応じて魔力の伝導率が下がると言うことだ。

 だから、最初の半分は一日でできたのに、上に行けばいくほどに掘削速度が下がっていった。

 あと、事あるごとにチビドラゴンが俺に襲いかかってくることもあげられる。

 俺は体当たりを仕掛けてくるのはじゃれついて来ているだけだと思うことにした。

 数時間程度殴り合ってやると満足するのかチビドラゴンは大人しくなる。

 ……うん、俺が物理的に動けなくなるまでボコボコにしている。

 同じドラゴン同士。自傷訓練で身体能力を底上げしている俺が負けるはずも無かった。

 それでも怪我が治ると懲りずに飛びかかってくるんだから、よっぽどのバトルジャンキーだ。

 

 さて、空気穴に関しては既に作成した。

 次の問題はこの洞窟の中が非常に寒いこと。多分、氷点下の世界だ。洞窟内は霜で覆われている。

 非常に寒いが洞窟内で火を使うことはできない。

 なので、氷壁の中の魔物から毛皮を剥ぎ取る作業をする計画を立てた。

 ドラゴン用の服は難しいが、毛布くらいなら何とかなるだろう。

 デッドリースパイダーの糸は生憎断崖の洞窟に置いてきてしまったので、別の道具を使って毛皮のはぎ取りを行わなければならない。鋭い爪や牙なんかが理想だ。大本命はインセクトリーパー。

 腕に大鎌を持つカマキリのような昆虫だ。頭に剣の生えたソードラビットなんかもいいかもしれない。

 尤も、無闇に氷壁を破壊して食料を無駄にするわけにはいかないので、それに適した魔物が出たらその時に考えるようにしよう。

 これは食事の際についでに行えば済むことだろう。

 確かにこの環境は非常に厳しいが、それに負けないくらいドラゴンの体は頑丈らしい。

 寒いことは寒いが、手足がかじかんだりといった小さな異変すらない。元気いっぱいだ。

 下手すると絶対零度でも死なずに耐えられそうな気もするくらいだ。

 だとすると今するべき事は何か。考えてみるが何も無い。

  

 俺、暇な時ってどうしてたっけ。

 暇があればひたすら訓練に明け暮れていた気がする。

 ゴブリン時代は暇な時間がある事が勿体ないと考えていた。それだけ生きるのに必死だった。

 それを二百年。もう訓練が生活の一部として完全に染みついている。

 なんというか、暇な時間に何もしないというのが落ち着かないのだ。


 と、言うわけで俺は訓練を開始することにした。習慣って怖いね。

 俺は洞窟の入り口付近の氷の壁に移動する。

 洞窟奥の魔物入りの氷壁よりも反射率が高い。自分の姿がよく見える。

 おまけにこちらの方が明るい。

 四足歩行の白いドラゴン。胴体部分は一メートルほど。

 そこから同じくらいの長さの尻尾が伸びて全長に直すと二メートルくらいだろうか。

 そして翼膜の張った大きな翼。こちらも完全に広げると幅が一メートル半くらいにはなる。

 改めて観察するとゴブリンとの違いが浮き彫りになる。

 ゴブリンの身長はせいぜい一メートルくらい。手足の長さは五十センチほど。

 ドラゴンの腕はそれよりも若干短い。足はもっと顕著だ。

 そして、ゴブリンに比べると若干手先が不器用である。

 だから、自ずと手足を使って戦うというのが悪手だというのが見えてくる。

 だったら代わりに何を使うべきか。それは間違いなく尻尾と翼だろう。

 腕は完全に移動用と割り切って翼で殴りかかった方がいいかもしれない。

 リーチの長さはそれだけで有利に繋がる。ゴブ時代には無かった体の部位だ。

 そしてドラゴンになってから今の今まで動かそうともしてこなかった。

 尻尾に関しては基本的に地面に引きずっているだけである。

 俺は翼をまずは動かそうとしてみる。力の入れ方がどうにもわからない。

 俺にはゴブリンだった先入観がある。無かった部分を動かすというイメージは中々に難しい。

 とりあえず頭の中で動け動けと一生懸命念じる。それでようやくぴくりと動いた。

 動かせるようになってきたら関節を確かめて可動範囲を確かめていく。

 どうやら翼は背中の付け根と中程で折り返す部分の関節で動かし方を決められるらしい。

 ついている部分が違うだけで基本的には腕と同じように動けると思っていいようだ。

 ただ、翼膜がある分底だけは動かし方に注意だ。

 ちなみに、翼膜は翼の先の指のような部分の間に張っているような感じで、水棲動物の水かきに似た造りになっているらしい。

 もしかすると、ドラゴンは元々四本腕でそのうちの二本が翼に変化したのかも知れないね。

 翼は俺の体の肩の少し先辺りから尾の付け根当たりを攻撃範囲としてカバーできるらしい。

 翼の本来の役割が羽ばたくことであるように、上下の動きに比べて水平方向への動きはあまり動きが良くないようだった。上に対する攻撃には使えそうだ。

 続いて尻尾だ。こちらも動かすのには最初は苦労したが慣れれば少しづつ動かせるようになってくる。尻尾は多関節であり、自由にどこでも曲げることができる。

 鞭のように自在に動き、更にその動きを自分で決められる。

 ゴブリンには少なくともそういった体の使い方が出来る部分は無かった。

 体の中で使いこなすのに一番時間がかかりそうな部分かも知れない。

 だが、使いこなせれば尤も強い攻撃手段になることは間違いない。要練習だな。

 後は手足の使い方をドラゴンに合わせて調整してそれから……。


 俺が今後の訓練方針を立てていると、復活したチビドラゴンが懲りもせずにこちらへと寄ってきた。

 その目は闘志に溢れ、力強く輝いている。

 丁度いい。スパーリングの相手になって貰おう。 


 俺は翼と尻尾を中心に使って戦うことにした。魔法は使わない。

 チビドラゴンは魔法が使えないみたいだからな。

 そもそも、使ったら勝負になる前に決着がついてしまう。


 チビドラゴンの攻撃は相変わらず攻撃一辺倒だ。学習しないのだろうか?

 俺は尻尾を振るってチビドラゴンの動きを牽制する。

 動きはまだまだ粗い。攻撃とすら呼べない代物だ。

 尤も、二百年以上動かした腕や足と同じ働きを期待するのは酷かも知れないが。


 近づかれたのなら仕方が無い。俺は地面を蹴って若干横へとずれるように突進を躱す。

 地面に着地すると、そのままチビドラゴンの後頭部に手を添えて岩壁へと思い切り叩き付けた。

 ……改めてドラゴンの膂力は凄まじい。チビドラゴンの首は壁を砕き、そのままめり込んだ。

 まだ子供である今でこれなんだから将来的にはどうなるんだ?

 

 ……あ。

 ついやってしまった。腕を使ったら意味が無い。

 今のは尻尾を首に巻き付けて同じ事をするべきだった。反省。


 チビドラゴンは岩壁に突っ込んだ首を引っこ抜くとぶるぶると左右に振った。

 どうやらこれくらいの攻撃じゃダメージをそれほど負わないらしい。

 知ってた。知ってたから俺も容赦はしなかった。

 言うなればドラゴンの首の方が加害者で、岩壁の方が被害者。

 ほんと、ドラゴンって嫌になるくらい頑丈だね。ゴブリンだったら即死の一撃だぞ。


 チビドラゴンは壁際でじっと俺の様子を窺っているようだ。

 どうやらここに来て動きを攻撃一辺倒から変えるつもりになったらしい。

 

 なるほど。ならこちらから行かせて貰うか。

 魔法……は制限中だな。

 あれ? ならどうやって戦おうか?

 俺は距離がある場合必ず弓で攻撃してたからな。

 俺は基本的に戦いは距離だと思っている。距離が近ければ自分がダメージを負うリスクが上がる。

 近接戦闘では身体能力差が顕著に出る。距離があれば弱くても戦いようがある。

 距離は弱さをカバーする手段でもあるのだ。その距離を自ら捨てるのはアホな行為だ。

 近接戦闘に関しては相手に攻められたときの緊急対応策にしか思っていなかった。

 その考え方が根底にあるから、素手で攻め込むイメージがあまり浮かばない。


 よし、何事も経験だ。チビドラゴンは好戦的だが一応俺の兄弟でもある。

 流石に負けても殺してきたりはしないだろう。そう思いたい。

 ならば、これは逆に経験を積むチャンスだ。そう思うことにしよう。


 俺はとりあえず真っ直ぐチビドラゴンに突っ込むことにした。

 攻める側になってわかる。

 ドラゴンにとって近接に持ち込むための一番いい攻撃手段が全力での体当たりだと言うことに。

 攻める以上どうしたって移動に腕や足を使わなければいけない。

 四足歩行のドラゴンが腕を自由にした状態で敵に突っ込むのは難しい。

 突っ込めたとしたって足元がふらふらの攻撃じゃどうしようもない。

 だったら腕を移動用に割り切って猛スピードで突っ込んだ方がまだ分がある。

 ドラゴンの防御力は凄まじい。並の攻撃じゃ真正面から止められない。

 力任せに相手の攻撃ごと粉砕してやるだけで事足りてしまう。

 思えばいつも俺はチビドラゴンが戦闘を仕掛けてこようとする度に適当に魔法を使ってあしらっていた。 

 そんな状況下でチビドラゴンが戦いと思ったら愚直に突進で接近するしかなかったわけだ。

 様子見して待ってたら一方的に魔法の餌食になって終わりだもんな。

 だけど今日は俺が戦う意思を見せた。だからこそ待ちの姿勢を取ったのだろう。

 ならその姿勢を汲んでやるとしよう。今日は俺は魔法は使わない。


 俺が愚直に突進すると、いつも俺がしているようにチビドラゴンは横へと回避して見せた。

 まぁ、そうするしかないよなぁ。いつも突進されている俺だからわかる。

 勢いのついたドラゴンの突進は受け止められない。避けるしか無い。

 だが、避けるのがわかりきっていれば対策の打ちようはいくらでもある。

 俺は突進の勢いをそのままに前足を軸にターンした。

 それと同時に尻尾を渾身の力で振り抜く。

 全身の力が乗ったなぎ払いだ。範囲攻撃ならチビドラゴンがどちらに躱そうが関係ない。

 攻撃軌道上にいればそれで攻撃は通る。

 ずしっと尻尾に重い感触が返ってくる。構わずに俺は尻尾を一息に振り抜く。

 間もなく、岩壁の方からべきゃっという嫌な音が聞こえてきた。

 遠心力も相まって相当な威力が出たに違いない。

 そして何より恐ろしいのは尻尾の肉の殆どが高密度な筋肉でできていることだ。

 硬く頑丈な鱗に覆われており、骨と筋肉でできている。多関節で繊細な動きもできる。

 ここまで揃えば、最早生体武器と言っても過言では無いだろう。

 手足よりも太いことも相まって圧倒的なパワーが出る。

 そんな容赦の無い一撃。

 チビドラゴンは壁から崩れるように落ち、ダウンしてしまったようだ。

 多分、死んではいないだろう。


 それよりもだ。今の戦いには収穫があった。

 やはりドラゴンにはドラゴンに合った戦闘方がある。

 最後の攻撃は長いリーチのある尻尾が無ければ不可能だった。

 今回は使わなかったが翼にも何かしらの戦闘利用方法があるはずだ。

 そこら辺を磨いていくことにしよう。

 幸い好戦的なチビドラゴンもいる。実戦には事欠かないだろう。

 

 俺は氷壁を鏡代わりにしながら、自分の動きをチェックしつつ黙々と尻尾と翼を動かす訓練に明け暮れるのであった。

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