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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
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魔力の検証

……な、なんとか今日中に間に合った。

変なところがあったらすみません。


 いきなり、黒いドラゴンが飛びかかってきた。


 君、生まれてすぐなのにちょっと好戦的や過ぎませんかね。

 もしかして俺、エサだと思われてる?


 そっちにアーミーウルフがあるからそっちを食べなさい。

 ……俺の食べかけだけど。

 

 今、ドラゴンの巣には主である白金の鱗を持つドラゴンがいる。

 相変わらず全長五十メートルと馬鹿みたいにでかい。

 いつもは広いはずの洞窟がやや手狭に感じる。

 やっぱり子供が生まれたから気になるんだろうか。じっとこちらを見ている。


 いや、見てるなら助けてくれよ。


 あなたの可愛いペットがあなたの大事なお子様に襲われてます。


 ……あ。


 こりゃやばい。俺はすぐに家庭内ヒエラルキーを理解した。

 巣の主であるドラゴンが一位、子供であるチビドラゴンが二位、三位はペットである俺。


 多分、俺がチビドラゴンを襲ったらあの親ドラゴンは怒るよな。

 逆だったら……あ、今のこの状況が答えか。答えは傍観。

 子供の玩具を取り上げて機嫌を損ねるよりは、俺の命は軽い。

 そんな風に状況を分析した。


 つまり、あのドラゴンの助力は得られない。

 自力で何とかしろって事か。そして多分反撃も許されない。


 黒ドラゴンは大きさは俺と殆ど変わらない。

 四つ足をついてどたどたと俺に突進してくる。

 

 一方の俺も同様にハイハイで這って逃げる。

 俺は必死だ。死にもの狂いだ。

 だというのに親ドラゴンさんは微笑ましいものを見ているかのように穏やかにそこに佇んでいるだけだ。

 

 ……俺の決死の鬼ごっこが始まった。若干俺の方が走るのが早いか。

 致死訓練は無駄じゃなかったって事だな。

 ゴブリンと竜とはいえ赤子同士。生まれが同時だったらやばかったかも知れない。



 そして約五分後。鬼ごっこの決着がついた。

 土魔法使ってチビドラゴンを落とし穴に嵌めてやった。

 いつまで経ってもチビドラゴンが疲れを見せないからやむなくそうしたのだ。


 これで親ドラゴンがキレたら、洞窟が崩落したと言い張る所存です。オレハワルクナイ。

 

 結論から言うと、親ドラゴンはキレなかった。

 それどころか、そのままくああああっとあくびをするとその場で眠り始めた。


 俺はその隙にチビドラゴンに穴の上からボディプレスを仕掛けて弱らせておく。

 有利なマウントポジションを取ったらひたすら上から殴りつけ。

 我ながらあくどいやり口だ。だが、あくどいくらいで丁度いい。

 親の見ていないうちに俺の危険性を体に叩き込んでおくつもりだ。

 俺にびびってくれたら最上だが、俺を襲おうという気概さえ砕ければ及第点だ。


 俺には前世の経験がある。

 だから多分、今は真正面から戦ってもチビドラゴンには勝てると思う。

 だが、将来的にチビドラゴンはあの親ドラゴンみたいな五十メートル級の怪物に成長するだろう。

 その日まで俺が生きているかはわからないが、その頃には俺の手足の及ばない存在になっていることが想像に難くない。 

 後は俺がどれだけその怪物から成長力で逃げ切れるか。

 全てはそこにかかってくる。

 そう、毎度おなじみ訓練の時間だ。


 ある程度チビドラゴンを痛めつけたところで穴の中へと放置して、そのまま少し距離を取った。

 自傷訓練はもう出来ないな。魔力増量も同様だ。

 弱っているところをチビドラゴンに襲われたら溜まったものじゃない。

 いつでも反撃できる万全の状態でいないといけないからだ。


 手っ取り早く強くなるにはどうすればいいか。

 体を使う訓練はもう少し成長して骨格が定まるまで一端切り捨てる。成長に速効性を感じられない。

 歩けるようになったら本格的に開始だ。

 

 幸いもう一個訓練できることはある。魔法訓練だ。

 親ドラゴンが寝ているうちに少しばかり練習させて貰おう。


 俺は魔力操作で魔力自体を動かす訓練ばかりしてきた。

 例えば圧縮して硬くしたり、細く形状を変化させたり。

 だから今回は性質変化の魔力操作に力を入れてみようと思う。

 性質変化はただ魔力を動かすだけに比べて格段に魔力消費が多い。

 練習にも魔力を使ってしまうから前世までは殆どロクに練習が出来なかった。

 練習で無駄に消費すると本番で使えなかったのだ。

 だからゆっくり魔法訓練するのは実は初めてのことだったりする。


 今までは勘で発動させてきたが、一度理論的に出来る事を纏めてみるのもいいかもしれない。


 俺は五十センチくらいの岩を想像して土魔法で作り出す。

 イメージとしては周囲の魔力を押し固めるような挙動で岩が成長していく。

 チビドラゴンが穴から這いずり出しそうだったので、ポイントはその真上に指定してやった。

 作り出した岩はものの一秒足らずで五十センチ程に成長すると間もなく落下し、チビドラゴンがギャウと穴の底で鳴く声が聞こえてきた。

 可哀想な気もするが、訓練の邪魔だからもう少しじっとしていてほしい。


 ふと、今の一連の動作の中で気づいた事がある。

 魔法で作り出した岩は作成中は宙に留まったままだと言うことだ。

 つまり、魔力を送り込んでいる間は接続状態にあるということだ。

 俺は目の前にもう一度岩を作り出す。

 いつもは一瞬で作り出しているイメージだが、今度は可能な限りゆっくり作成する事を心がける。

 詳しく観察するためだ。魔法はイメージが大事。ゆっくり発動をイメージすれば恐らく出来るはずだ。

 そしてその目論見は成功する。

 大きさは五十センチくらいを想像した。

 三十秒ほどかけて成長させてみたが、その間岩が落ちてくることは無かった。

 どうやら目的のサイズになるまでは見た目は「岩」であって中身が「魔力」のような状態らしい。

 試しに手を伸ばしてみたらすり抜けた。魔力は空中に漂うことが出来るほど軽い物質だ。

 これなら岩が落下してこない理由にも頷ける。

 五十センチほどの大きさになると、岩は自由落下を開始する。

 落下した後、岩に触ってみたがしっかり硬い本物の岩だった。

 更にもう一度同じ手順を繰り返す。五十センチの岩を三十秒掛けて作成するイメージだ。

 そして岩が作り出される途中で今度は大きさを変えてみようとする。

 イメージは一メートル台だ。

 しかし、岩は大きくならず、五十センチの大きさになった時点で落下した。

 どうやら最初の命令は受け付けたが、連続して行った命令は無効化されてしまったらしい。

 魔力は最初に命令を与えた時点で五十センチの岩になるという情報を取得してしまったと考えた方がいいだろう。そして変質を始めた物質は通常の魔力と異なる。だから多分上手くいかなかったのだ。

 恐らく、魔力とはニュートラルな状態では何にでもなれる万能元素。

 命令を与えられたらその時点で万能元素で無くなるということだ。

 物質である水や岩ではこの理論は通用する。

 では、空気の運動エネルギーである風、熱エネルギーである火はどうだろうか。

 俺はそれぞれの魔法を使って注意深く魔力の動きを観察する。

 これは単純だった。魔力はエネラギーにもなれる。それだけのことだった。

 また、例によって変質中の火は触っても熱くなかった。

 火の場合は魔力を熱そのものに、風の場合は空気を押す運動エネルギーに。

 ふと、思い出したことがある。昔、ゴブリンマージが岩を打ち出しているのを見た。


 あれはどうやっていたんだろう。俺は五十センチの岩を前に飛ばすイメージで作成してみる。

 だが、作り出した岩はそのままその場に落下してしまう。


 ……なるほど。そういう事か。要はイメージ不足だ。

 イメージが固まりきらなかったのでもしやとは思った。

 言い換えるならばイメージが少しだけ抽象的すぎた。

 二つのことをするのに命令が一つだった。恐らく、これが失敗の原因だ。


 俺は五十センチの岩を作り出す。そしてそれを押すエネルギーも同時に想像する。

 魔力がエネルギーになる事実は確認済みだ。

 物質変換とエネルギー変換。この二つのイメージが揃った為、今度は岩の塊は前に飛んだ。

 なるほど、飛ばす場合は運動エネルギー分も魔力を消耗するのか。

 これで一つ武器が増えた。

 思えば前世の魔力針を相手の目に飛ばす姑息な技も二個の命令で動いていたんだな。

 魔力を針に変形させるのと、魔力を飛ばす事。

 魔力の変形も単純ながら一つの命令だ。

 魔力を動かすだけで魔力が減ってしまう。

 減らなければ魔力で体を動かして戦うことも考えていたと思う。

 実は前世でこれを疑問に思っていたのだが無事解決した。

 魔力を動かすのにも運動エネルギーとして魔力を使う。これだけのことだ。

 前世では魔力針を大量に打ち出したこともあるが、あれはどうやってたんだろう?

 勘ではわかるが一応試しておくことに越したことは無い。


 俺は見やすいように三センチほどの小石を作れるだけ作る。

 三センチを百個作る。こういった命令の出し方だ。

 しかし、発動しない。

 発動しないって事は多分イメージを構成する要素が足りないって事だ。

 俺自身百個石を出すとしか考えていなかった。

 確かに、百個小石を作るだけだったらどこに出すかが曖昧だ。

 俺は少し考えた後、命令内容を変える。

 三センチの小石を百個、一メートル四方の箱の中に均等に配置する。

 ここまで指定してやると魔法は問題なく発動する。

 そしてそれと同時に出現した小石に対してエネルギー変換の魔力操作を行う。

 見えていればそこまで難しくなく、エネルギーの付与を行えるようだ。

 作った小石は雨のように前方に降り注いだ。

 試しに何も無い空中を指定して「あの辺」と命令しても発動することがわかった。

 その場合「あの辺」としていた場所まで魔力を放出するイメージで行い、イメージが到達した瞬間に発動した。どうやら発生地点まで距離があると、若干のタイムラグが起きるらしい。


 何にせよ、大まかに物質やエネルギーを作り出す方法はわかった。

 あとは繰り返しの練習でイメージの固め方を詰めていくだけだろう。

 それは追々やるとして、今は魔力の性質についての検証を一気にやってしまおうと思う。


 俺がよく使っていた落とし穴の原理についてだ。

 階段を作るときに岩壁を動かしたあの使い方と一緒だ。

 これは物質を作るのではなく動かしている。もしくは消している。


 俺は先程作り出した岩の一つを手に取る。

 前に岩壁を変形させたときはどんなイメージをしていたか。


 そうだ。魔力を岩に通していた。岩に魔力を通して粘土だとイメージした。

 そこを理解した上で、岩を変形させてみる。とりあえず棒状にでもしてみよう。

 するとぐにゃりと岩が変形を始める。

 そしてその使用量は無から作り出すときよりも明らかに多い。ここが謎だ。

 元の物質を利用するならむしろ使用量が減っていてもおかしくないと思う。

 魔力には望む物質に変化する。

 そこから仮定するに望んだ場所に岩を作ろうとした。

 望まない部分に関しては魔力が分解して削った?

 それなら分解した物質はどこへ行った?

 わからない。

 もしかすると、先程まで建てた理論の根本的な前提条件が間違っていたのかもしれない。

 物理法則で説明できないことがどうしたって出てくるのだ。


 ならば試してみよう。 

 俺は先程作った五十センチの岩に向かって、単純に消えろと命令してみた。

 しかし、消える様子はない。消すことはやはり出来ないのか?

 いや、そう結論するにはまだ早い。

 結果から導くまでだ。

 俺の推測だと、五十センチの岩を三十センチに変化させることは出来る。

 魔法はイメージ。イメージさえ出来れば動いてくれる。ここに穴がある。

 理論がわかるからイメージが固まる。逆に、イメージがわかれば理論はいらないのだ。

 これは多分、先程の検証にも当てはまる。

 もしかすると、岩が飛ぶと完璧にイメージできれば物理を知らなくても岩は飛ぶのかも知れない。

 だが、俺には岩が重力に引かれて落下するという固定概念がある。

 そこに引っかかってどうしても岩が飛ぶイメージが浮かばない。岩が飛ぶだけの根拠が必要になる。

  俺が岩を飛ばすのにエネルギーがどうこう言っているのはもしかすると義務教育の弊害かも知れないな。しかし、逆にいい側面もある。

 俺にとって魔力は未知の物質。未だ手探りの状態だ。未知故に固定概念が無い。

 固定概念が無いと言うことは自分に都合のいい固定概念を押しつけることが出来る。

 だからこそ、魔力がエネルギーであるという想像や魔力が万能元素で何にでも変化できるというイメージを浮かべることが出来る。概ね間違っていないと思うが、この考えがこの世界の魔法使いにとって一般的かどうかはわからない。

 俺は今になってふと、マンガやゲーム、ラノベの知識を思い出した。

 そう言えば漫画やゲームの世界だと決まった呪文とか魔法詠唱があったなと。

 それで、もしこの世界の魔法使いに、呪文詠唱がしないと魔法を使えないという固定概念があったとすればこの世界の魔法は一定の効果しか発動できないことになる。

 もしも学校とかで、ウォーターボールの呪文では三十センチの水の弾をを前に飛ばせます……なんて教えてた日には目にも当てられないぞ。願わくばそうでありませんように。

 どうして俺がこんな事を危惧しているかっていうと、俺は前に冒険者がこんなやりとりをしているのをしてるの見ちゃった事あるんだよね。


 「おい、不味いぞ。ロックウォールを使え!」

 「駄目、ロックウォールだと厚さが足りない。もっと上級呪文じゃないと!」

 「だったらとっととそれを使え」

 「使えたらとっくに使っているわよ!」


 以上。


 多分、魔法が呪文詠唱による発動で効果まで一定だと思い込んでいるよね。

 この世界の住人殆どがこうなんだろうか? 俺の考えすぎか?

 俺の魔法とどっちが上なのかはわからない。

 わからないが、俺が右も左もわからない魔法に使うにはイメージを固めるために元から知っている化学物理法則から理論をこじつけるしかなかった。知っているものを知らない事には出来ないのだ。

 そしてそれを一定の手順で完了させる。

 だから俺の魔法はプログラムや物理に近い。それが俺にとって一番理想的な運用方法だからだ。

 この世界の魔法使いはどうやって魔法のイメージをしているかはわからないけどね。

 もしかしたら物理法則をも打ち破れるのかも知れない。だが正直なところはわからない。

 少なくとも俺はこの魔法の使い方で満足しているが、機会があれば学んでみたいなとは思う。


 さて、話を戻そう。

 散々言ったかも知れないが、、魔法において何より重要なのはイメージ。

 繰り返すが、理論がわからなくてもイメージが固まれば何とでもなる。

 逆に言うと、イメージを阻害する何かがあればそれを取り除かくための根拠が必要になるだけの話だ。


 落とし穴の場合、俺は直感だけで使えると思い込んでいた。

 岩が作れるんなら穴くらい作れるだろう。動かすことが出来るだろう。こんな単純な思い込みだ。

 そして、事実使えてしまった。未だにその理論はわからない。

 どうして地面に穴が開いたのか。改めて考えるとわからないのだ。

 周りの地面に土が押し寄せられたわけでもなさそうだ。ぽっかり消えている。

 何しろこの辺は物理学や化学が及ばない世界だ。

 それっぽい理屈を付けてそういうものだと割り切るしか無い。

 だけど、俺が落とし穴を魔法で作ったというその事実は変わらない。

 成功体験があれば、それは無条件に出来るって事だ。

 出来るイメージが既にあるからな。

 

 だから俺は適当な理論でそれっぽく脳内補完しておく。

 魔力が潤滑剤となって分子と分子の間を取り持つ。だから動かせる。実にそれっぽい。

 元より明らかに物質が減っている場合は、魔力で物質を砕き、魔力に戻すことが出来るとした。

 単純に消えるイメージが浮かばなかったからだ。

 魔力が物質に出来るんなら元にも戻せるだろという超理論だ。

 大分トンデモ理論だが、自分が心から納得できればそれでいい。

 魔力運用のイメージは固まる。


 あとはここからはトンデモ理論の応用だ。


 俺は改めて大岩に魔力を通す。魔力をぶつけて岩を構成する分子を全て魔力に戻すイメージで。

 すると、岩は削り取られて最後には消失した。

 結果に合わせて無理矢理法則をつくりだしたような物だ。言うなれば俺理論。

 出来るという確信があるだけでこんな無茶も通せる。

 

 水魔法を使う。出てきた水に対しても同様のプロセスを行う。

 問題なく行使できた。水は魔力へと戻る。


 ……今、気づいた。

 俺は恐ろしい必殺技を手にしてしまったかもしれない。

 物質を問答無用で魔力に戻してしまう魔法だ。


 物質融解魔法アンチマテリアルマジックとでも名付けておくべきか。

 ……うん、人には極力に向けないようにしよう。


 俺はその後も魔法の修練を繰り返した。

 まだまだ魔法に関しては奥は深そうだ。

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