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最弱(ゴブリン)生活に順応しすぎた結果、最強(ドラゴン)は堅実な努力に生きる。  作者: 秋月みのる
一章 何かがおかしいゴブリン生活
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アイアントーテム狩り


 俺はアイアントーテムを発見した。岩陰に身を潜めて様子を窺っている。

 しかし、顔面円柱とは不気味な魔物だ。

 顔面一つの大きさは三十センチ程。それが五つ。

 上から「喜」、「怒」、「哀」、「楽」、「驚」の順番で表情が並んでいる。

 

 俺はある程度の距離を保って、先制で硬糸の一撃をお見舞いしてみた。

 しかし、その攻撃はあえなくはじかれる。流石に鉄は断ち切れないらしい。

 どうやらこの硬糸は操者から離れる程魔力による強化が落ち、操作性と硬度が下がってしまう特性があるようだ。恐らく魔力を先端まで伝えきる前に糸が側面から空中に魔力を放出してしまうのだろう。


 俺は硬糸による攻撃を諦める。代わりに火の魔術を行使する。

 酸素消費の兼ね合いで洞窟内であまり火の魔術は使いたくないが、背に腹は代えられない。

 アイアントーテムの動力厳たる核は頑丈な鉄塊に守られている。

 金属の中心部にダメージを与えるには熱という手段が一番手っ取り早いからだ。

 俺はアイアントーテムに向かって爆炎を投げつけた。


 アイアントーテムは突然の事態に驚き、びゅんびゅんとその場を飛び回り始める。

 その数は一つ少ない。どうやら顔一つは先制でつぶせたようだ。


 俺はアイアントーテムに面白い変化があったことに気づいた。

 「喜」「怒」「哀」「楽」だった顔が今は全部「驚」の顔に変わっている。

 揃いも揃ってマヌケに大口を開けている姿が何とも面白い。

 

 ん?


 ここで、俺の頭の中にひらめきがあった。

 そう言えば「怒」の顔って歯を食いしばっていたよなと。


 俺は火炎魔法を連続行使。流石に魔法の発生源に気づいたのかアイアントーテムは一様にこちらへと飛んで迫ってきた。その表情は全て「怒」だ。

 違う! それはお呼びじゃない!


 アイアントーテムの飛ぶ速度はそこまで速くはない。せいぜい人が走る速さと同程度だ。

 多分、車くらいの速度が出せたらSランク魔物だったと思う。

 あの鉄塊が時速百キロ超えの速度でぶつかったら大半の生物は死ぬ。

 せいぜい時速四十キロくらいなのが救いだ。それでも十分やばいけどね。

 俺は努めて冷静に炎塊を操る。同時に操る数は四つ。

 百年以上魔力の操作練習をやっていればこれくらいは誰でも出来るようになる。

 そのままぶち当ててやろうと思ったのだが、アイアントーテムは炎を嫌がってその動きを止めた。

 止まる直前に俺は一体仕留めることに成功する。

 それは「怒」の表情のまま地面に落ちた。

 その後、「喜」「怒」「哀」の表情に戻って「怒」だけがこちらへと突っ込んでくる。

 表情で行動パターンが違うらしい。

 俺は唯一迫ってきた「怒」を焼いた。一つだけだったら対処は楽だ。

 他の顔はどうしているかなと思ったら「喜」はその場をふよふよと浮かび、「哀」は真っ先に遠くまで逃げ出していた。

 俺としては大口を開けて笑っている「喜」を最後まで残したい。

 と、なれば。

 俺は逃走中の「哀」に狙いを定めて火球を投げつけて焼いた。

 

 ……楽だな。確かに昔冒険者が美味しい魔物だと言っていただけのことはある。

 弱点の火魔法を見せた瞬間、明らかに動きに精彩を欠いた。

 魔法が使えなかったら怒り満面の五つの顔と対峙しないといけないと考えるとその差は歴然だ。


 俺は残った「喜」をじっくり相手にするつもりだ。

 俺はストーンリザードの背骨を構えると大口を開けて笑っている「喜」の口の中に突っ込んだ。

 さぁ、怒れ! 歯を食いしばるんだ!

 だが、口の中に骨を入れられたくらいじゃ動じなかったのか相変わらず「喜」は笑い続けている。

 

 (ばーか、ばーか!)


 そう罵ってやろうとして、ゴブリンが喋れなかった事を思い出す。

 「喜」は笑いながらその身を動かすと口に突っ込まれていた骨を外し俺に向かって体当たりをしてくる。

 それを俺は余裕を持って躱す。躱して骨をもう一度「喜」の口へと突っ込んだ。


 どうする? どうやって怒らせる? 悪口を言えないのが辛い。

 

 あっかんべー。

 べろべろべろばー。


 俺が変顔をすると、ますます「喜」は大笑いを始めてしまった。

 不気味に笑いながら体当たりを繰り返してくる。


 くそっ。何て手強い魔物なんだ。こんなに苦戦したのはいつぶりだろうか。

 俺はハンマーが欲しいんだよ。歯で骨をがっちりホールドして欲しいわけ。

 「怒」の死骸が二個ある事から見てアイアントーテムは死亡したときの表情で固まることはほぼ間違いない。俺の狙いは悪くないはずだ。


 どうやって怒らせればいいんだろう。下手な事をしても「喜」の奴は笑うだけだ。

 

 俺はぺっと唾を吐きかけてやった。それでも奴は動じない。

 どうした物かと考えながら回避行動を続ける。


 カツン。俺の足に「怒」のしがいがぶつかった。

 邪魔くせぇ。俺は「怒」の顔を蹴っ飛ばした。


 すると、「喜」の笑い方が少し小さくなった気がした。

 もしや? この方向性ならいけるのか。


 俺は「喜」の口に骨がしっかり刺さっていることを確認してガンガン「怒」の顔面を踏みつけてやった。


 バキン!


 「喜」の顔が怒りに歪んでいた。

 骨が邪魔して歯を食いしばった拍子に前歯の部分は吹っ飛んでしまったようだ。

 余分な歯がなくなったおかげでジャストフィット。


 よし、今のうち。


 俺は素早く火の魔術を発動して「喜」を焼いてやった。

 「喜」の顔面と骨はがっちりと接続されている。

 こうして、俺はハンマーを入手した。

 このハンマーには呪いの品と言われても信じてしまう程のとてつもない怒りの形相が浮かんでいる。

明日18時台を目安に投稿します。遅れたら済みません。

多分、明日中に2話か3話いけるかと。

目標は毎日連続更新。

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