便利な素材ストーンリザード
誤字修正……と、思いきや。
ん、変だぞ!?
リールの構造がおかしい?
真ん中に石ころ用意したら、胴回りの糸意味ないんじゃ?
……穴を降りるくだりをもう少しシンプルに改稿します。
俺は森へとやって来た。今日は早朝に抜け出すことが出来た。
今日の目標はハンマーを作ること。
狙うべきはアイアントーテムだろうか。Bランクの魔物で全身が鉄で出来ている。
食べることは出来なさそうだ。
顔のついた切り離し自由な円柱が五つセットになって縦に重なることでこの魔物は一体の魔物として存在している。攻撃方法は単純。鉄塊で出来た顔による体当たり。
五つの鉄塊が縦横無尽に飛びかかってくるのは相当な脅威である。
剣士相手には滅法強い。だが、魔法使いには弱い。
火の魔術で加熱してやれば、動力源である核を割とあっさり処理できる。
だからこそのBランクだろう。
前世の俺は魔法がロクに使えなかったから逃げの一手だったが、冒険者がそうやって狩っているところを目撃したことがある。
近くに潜んで聞き耳を立てていたら、かなりの量の鉄材が取れるから美味しいと仲間と話していた。
それも魔力を含んでいて上質らしい。
上質な円柱状の鉄塊。
俺には鉄材の加工技術は無いが、ハンマーにするには打って付けの形状じゃないか。
五つあるんだから顔の一つくらい貰ってもいいだろう。
俺は以前にアイアントーテムを見かけた場所に向かって歩き始めた。
アイアントーテムが居るのは地下空洞エリアである。
俺は霊峰を目印代わりに移動する。
ドラゴンの巣の位置についてはマンドラゴラの花園を見つけた時点で、森のどの辺りに位置しているか既に割り出しているので、後は頭の中の地図を真っ直ぐ目的地まで一直線だ。
やがて、森の真ん中にぽっかりと大穴が空いている場所までやってくる。
目を凝らさないと底が見えないくらい穴は結構深い。
さて、どうやってここから降りるかだが俺はその辺はぬかりなく準備している。
デッドリースパイダーから採取した蜘蛛糸だ。魔力を通しやすい硬糸の方を持ってきた。
長さは三十メートル程。ロープと違ってかさばらない点が魅力だ。
これだけ長くても手のひらに余裕で収まってしまう。
俺はそれを魔力操作で操って近くに生えていた手頃な木にするすると巻き付けた。
目に見えないくらい細い糸だが俺の体重を余裕で支えきれる程頑丈だ。
魔力を流すと更に頑丈になる性質もあるのでよっぽどのことが無い限りは切れやしないだろう。
問題は硬糸が細く頑丈なため、俺の体に巻き付けたら食い込み、あまつさえ切り刻まないか心配な点だけだ。
その辺の対策として一応石ころをなるべく隙間無く右腕に噛ませるような形で糸を巻き付けることにした。
石という支点を用意した以上、直接糸を巻き付けていないので皮膚は切れはしないだろう。
あとは穴の淵に立ってグルグルと余った分の糸を右腕にどんどん巻き付けていく。
二、三度ぐっと糸を引っ張り、硬糸が切れないことを確認すると俺は穴へと飛び込む。
そして、魔力操作によってリールの糸を少しづつ解くようにしながら少しづつ高度を下げていく。
穴の底にたどり着くと、俺は光の魔法を使うことにした。
前世では使えなかった贅沢な使い方だ。改めて魔力の多い体に生まれたことに感謝する。
洞窟の魔物の視覚に関しては二パターンだ。視力を完全に捨てて聴力や熱感知に頼っているパターン。
もう一つがほんの僅かな光があれば昼間のように目が見えるパターンだ。
俺の場合は人間よりも大分見えるくらいだな。
光魔法という強烈な光源がある場合、後者の魔物はほぼ無力化できる。
元々暗い状態で普通に目が見えるって事は明るくなると対応できないって事である。
太陽を直視するのが厳しいのと同じ理屈だ。
怒り狂って襲いかかってくる可能性もあるが、目のロクに見えない相手を御すのは難しい話じゃない。
前者の場合はそれはそれで簡単な対処がある。
おっと、丁度いい具合にストーンリザードが出てきたぞ。
地面を這っている灰色で一メートルくらいのトカゲだな。
熱源探知型の魔物だ。唾液に石化成分が含まれているわりと危険な相手だ。
噛まれるとその場所が石化してしまう。石化したら最後、二度と元に戻ることはない。
その厄介さからBランクに指定されている。直接の戦闘力は低いのが幸いか。
俺はとりあえず火魔法で熱源を作り出すことにした。
火魔法を操ってストーンリザードの右側に火球を移動させる。
それと同時に俺は左側から回り込む。
すると、ストーンリザードは混乱し始めた。火という強烈な熱源に感覚器官をやられているからだろう。
その反対側には俺という熱源もある。ちょっと考えればわかることかも知れないが、その一瞬の隙があれば十分だ。俺は背中を踏みつけると、輪にした硬糸を首にひっかけ魔力を通すとそのまま真っ直ぐ引き抜いた。
ゴトリ、とストーンリザードの首が落ちる。
……あ~、こんな楽でいいのか?
前回までのゴブ生だったら基本危うきに近寄らずで、弓で狩りやすい魔物を狩るだけの生活だった。
物理手段で出来る事って案外少ないのだ。
それに比べて魔法って万能すぎないか? 出来る事の幅が広すぎる。
それ以上に硬糸がチートアイテム過ぎるな。
糸に通した魔力は順次空中に霧散されてしまうから、魔力が少ないと割と使いにくい代物だが多ければこうも化けるのか。
もう、今世で使う武器はこれだけでいい気がしてきた。
糸使い。何だかアサシンっぽくていいじゃないか。
ストーンリザードの唾液腺に少々魅力を感じたが、鞄を持っていないので取ることを諦めた。
ぼちぼち鞄を作った方がいいかもしれない。
その為には魔物の皮を剥ぐためのナイフが必要だ。
ん? 待てよ。硬糸でいけるんじゃないか?
俺は物は試しと、ストーンリザードの死骸に硬糸を引っかけてスルスルと引っ張る。
すると見事に硬糸は肉と皮の間を滑り、数秒後には皮だけをべろんと剥離することに成功した。
俺は水の魔法を使用してストーンリザードの皮にこびりついた血を洗浄していく。
すると立派な革素材のできあがりだ。高級ワニ革にも勝るとも劣らない。
別に防腐処理とかはしなくていいだろう。売り物じゃないし使えればいい。
そもそもやり方がわからないし、魔物の素材なら腐る程取れる。駄目になったらまた取りに行けばいい。
ストーンリザードから数枚の皮を剥ぎ取ったところで俺にはあるひらめきがあった。
硬糸の硬さを利用すれば針が要らないんじゃないかと。
その目論見は思った以上に上手くいく。
硬糸は魔力を流すと自在に操ることが出来る特性がある。
その特性を利用して俺は、革同士を縫い合わせて鞄にしていく。
素人の作品だが、硬糸の頑丈さも相まって中々丈夫な出来になったと思う。
最後に肩提げ用の革帯を取り付けてできあがりだ。
縫い終わったら硬糸を切断する作業になるが、その辺に転がっていた石ころで五分程ゴリゴリこすりつけてやったら切断することが出来た。無駄に頑丈なのも困りものだね。
俺は出来上がった鞄に早速ストーンリザードの石化毒袋を収納する。
ついでに朝食にしてしまおう。ストーンリザードの石化毒は頭部の毒袋にしか無い。
胴体の肉は極めて安全だ。
火魔法でこんがりとストーンリザードの肉を焼いて喰らう。
最後に骨が残った。頭部から尾の先にかけて伸びる長い骨。
俺はこれを見てピンときたね。
よし、これをハンマーの柄にしよう。
ストーンリザードありがとう。余すところなく君を利用させて貰ったよ。
俺は上機嫌で地下空洞を進んでいく。
そして、目当ての魔物であるアイアントーテムに遭遇した。




