ペットライフの危機
加筆及び修正しました。
ドラゴンが卵を産むまでの時間がちょっと短いと思ったので、前話を少し弄ってみました。
デッドリースパイダーを狩り、半日がかりでようやくドラゴンの巣へと引き上げてきた俺は突然の事態に困惑する。
洞窟の中に巨大な卵があった。高さ一メートルほど。
その気になれば俺が入れてしまいそうな大きさだ。
この卵がある理由は……まぁ、一つしかないよな。
巣の主のドラゴンが卵を産んだのだろう。
ここで俺の脳内に唐突なホームドラマが展開された。
主役は犬。トイプードルのボンちゃんだ。
【ドラマ】ボンちゃん、華麗なる日々
トイプードルのボンちゃんは独身女性真美子が一人暮らしの寂しさを埋めるために飼っている愛玩犬です。あまりのボンバーヘッドぶりにボンちゃんと名付けられました。
ボンちゃんは何もせず高級ペットフードを貰って食べて寝るだけの悠々自適な生活を送っていました。
おやつが欲しいとねだれば大好きな骨っこが出てきます。
しかし、ある日を境に真美子のお腹が大きくなり始めました。
既に結婚している男性から「指輪はいらない。あなたの愛だけが欲しい」と身ごもった子供でした。
その数ヶ月後、真美子の家では赤子の泣き声が聞こえるようになります。
シングルマザーの真美子が子供を育てるには金銭面で厳しいと言うほかありません。
どこかで節約をする必要があります。
三食提供されていたボンちゃんの高級ペットフードは二食に減ってしまいました。
そればかりか特売のペットフードにランクダウンしてしまいました。
おやつの骨っこも無くなってしまいます。
真美子は赤子にかかりきりでボンちゃんはボール遊びもして貰えなくなってしまいました。
ブラッシングもして貰えないからボンちゃんは全身がムズ痒くて仕方が無いのです。
そんな折、真美子の産んだ赤子が咳こむようになってしまいます。
原因はボンちゃんの毛でした。
真美子は子供の健康には代えられないとある決断をします。
悲しいけれど仕方が無いのよ。
憐れボンちゃんは保健所に捨てられてしまいましたとさ。
【次回予告】ボンちゃん必死の脱出劇~商店街わんにゃん戦争編に続く~
こんな事が俺の身に起こりかねない!
捨てられてたまるか。ペットにはペットの意地がある。
可愛がって貰うためには……いや、タダ飯のためには俺は鬼にもなる覚悟がある。
だって二百年ぶりに誰かに養って貰う機会なんだぞ。
俺はずっとずっとサバイバル生活してきて疲れたんだ。
甘えさせてくれるなら出来る限り利用……じゃなくて甘えさせて貰いたい。
まぁ、それは贅沢だとしてもドラゴンからの庇護対象でいられるメリットは非常に大きい。
いざとなったらドラゴンに泣きつくという、危険から身を守るカードが一枚増えることになるのだ。
尤も、使いすぎて呆れられる可能性もあるのでそのカードを切るのは最小限にしたいが、切り札は多ければ多い方がいい。事実俺は一度は命を助けられている。
一人で自活は出来るが、そう考えるとまだ捨てらるべきでは無い。
さて、そうなると俺がとるべき手段は一つだ。
ドラゴンに愛される存在は俺というペット一枠でいい。子供は邪魔だ。
だからドラゴンの卵を排除する。
巣の中で破壊してしまったら俺の仕業だとドラゴンに気づかれてしまうだろう。
だから崖から落として森の魔物に運ばせる。もしくは森に持って行って破壊する。
良し、決めた。俺は悪になるぞ。
確か森の北の方にアーミーウルフの群れのテリトリーがあったはずだ。そこに捨ててこよう。
俺は自身の安定のためならば他者に罪をなすりつけるという悪い努力も辞さないのだ。
俺は卵を全身で体当たりするように押す。
非常に重い。中に鉄が詰まっているんじゃないかって重さだ。
俺が押しているのは命の重さ。軽くていいはずがない。
うん。良心が痛むね。
……やめないけどね。
今まで、俺は私欲のために沢山魔物を殺してきた。
自分の住処の近くで危険な魔物が産まれそうなら卵の段階で間引いてしまったこともある。
容赦ない鬼だと思うだろう。実際小鬼だしね。
だが、ゴブリンはそうしないといけない程弱いんだよ。
躊躇したらやられる。自然の掟。
ドラゴンの雛が孵って俺を喰わない保証がどこにある。
危険要因はさっさと排除すべきだ。
丸ごとは無理なので俺は砕いて巣の外に持ち出す作戦に変更する。
思いっきり卵の殻を殴りつける。しかし、殻はもの凄く頑丈だ。
反動で俺の拳の方が痛い。
これは素手じゃ無理だな。
仕方が無い。ハンマーを作ろう。
しかし、今日はもう遅い。夕方になると夜行性の危険な魔物が活動を始める。
ドラゴンの巣という安全な拠点があるなら今日は引きこもって、明日の昼間の活動に注力すべきだ。
日を改めて明日の早朝森へと行こう。
……ボンちゃんってなんだよ。
思いついちゃったんだから仕方がない。
しかもこの短い話の大半だし。
申し訳ないので今日中に次話投稿します。




