84 ヴァリーの一日 その1
ヴァリーちゃんの寝起きは二パターン存在するのー。
ウザったいシャインにネットリと起こされる目覚めが悪いやつとー、デッドのいたずらや寝相の悪さで起こされる飛び切り目が覚めるやつ。
前者は眠たいところをいやいやシャインに突き合わされちゃうから嫌だしー、後者は朝から痛い思いや嫌な思いをさせられるから嫌。
どっちがマシかって聞かれたら、まだデッドの方かなー。
シャインの目覚めはホントに勘弁してほしいよー。頭の構造がどうなってるか見てみた……禄でもない気がするからやっぱいいや。
ちなみに今日はー、デッドの寝ぼけた回し蹴りがお腹に入ったのが目覚めの原因だね。やったー。
お姉ちゃんたちはシャインをどんな気持ちでやりすごしているんだろー。
ヴァリーちゃんはまだデッドと半々だからいいけど、毎朝シャインはゲンナリだよねー。
あー、やさしく平穏にママに起こされていた日々が懐かしいよー。
でも一応、血の繋がったお兄ちゃんたちだもんねー。嫌いなわけじゃないんだよ。
目が覚めたらデッドと一緒に洗面所に行って、顔を洗うの。ツインテールに結ぶのはこの後だね。
洗面所は凄っごく広いの。アニメであった旅館の脱衣所ぐらいかなー。着替えを入れる棚もあるからー、かくれんぼとかするのも楽しそう。
ホントにやったら怒られちゃうんだけどねー。でもやる。
洗面台はヴァリーちゃん達には高いからー、イスを持ってきて上に乗らないと背が届かないんだー。
「デッドー。ヴァリーちゃんの分のイスも持ってきてほしいなー」
「あぁ、めんどくせぇ。自分で取ってこいよな。ついでに僕の分も取ってきてくれていいんだぜ」
指を組んで腰をクネらせながら上目遣いでお願いしたら、赤い瞳を半目にして突っ返された。しかも生意気にヴァリーちゃんに命令する始末だよ。
腹立つー、憎々しー。
「いいじゃん、減るもんじゃないんだしー。お兄ちゃんなんだからー、かわいい妹のために尽くしちゃいなよー」
キッと目を尖らせてデッドに迫る。凄味を利かせてるはずなのにケロっと立ち尽くしてるのはどうしてよ。もっとビビりなさいよねー。
「はいはい。まったく、持ってこりゃいいんだろ。持ってこりゃ。わかったから思い出したようにお兄ちゃんなんて呼ぶなよ。気色悪ぃ」
デッドはかったるそうに紫のカリアゲを手で掻くと、やれやれって文句を言いながらもヴァリーちゃんイスを用意してくれた。
もー、最初から素直に用意すればいいのにー。
「おらよ」
ぶっきら棒に声をかけながらも、上りやすい位置にイスを持ってきてくれた。
「ありがとーデッド。大好きだよー」
「うわっ、うっとうしいからひっつくな」
大サービスで正面から抱きしてあげたら、暴れるように突き放された。
冷たい態度にムッとしかけたけど、照れくさそうに頬を赤くしてたから許してあげる。
もー、デッドも素直じゃないんだからー。
「なんだよ、ニマニマしやがって」
「なんでもないよー。ほら、顔洗っちゃおー」
「へいへい。なんなんだよ、まったく」
デッドはブツクサ言いながらも並んで、顔を洗って歯を磨いた。
パジャマから赤いワンピースに着替える。フリルがたくさんついていてかわいいの。デッドは紫のシャツに短パンだね。
「じゃあデッド、今日もお願いね」
「髪を結べばいいんだろ。女は髪が長くて大変だよなぁ」
デッドは男でよかったと呟きながらも、ヴァリーちゃんの癖っ毛をツインテールに結んでくれた。
「よし、終わったぞ。どうだ」
「ちょっと待って」
イスに乗って鏡を見る。
赤い癖っ毛のツインテールにオレンジの瞳をパッチリさせた魔王城一かわいい幼女、ヴァリーちゃんが映し出される。
プニプニほっぺに丸い輪郭が愛らしい。ニマっとするとアイドル顔負けの笑顔が生まれた。
これも完全人化のおかげだよー。スケルトン姿だとちょっとグロいもん。人間さまさまだねー。
「うん。ツインテールのバランスも完璧。さすがデッドだね。髪を結ばせたら右に出るものはいないよー。自信もって言いふらしてもいいレベル」
「なんの自慢になるんだか。ほら、決まったなら食堂行くぞ」
「もー、かわいいよヴァリーぐらい言えばいいのに。褒めるところは褒めないと、女の子にモテないよー」
「シャインになれって言いてぇのか?」
「ごめん。それだけは勘弁」
シャインは褒めるポイントがズレまくっているからねー。参考にもできないよ。かといってグラスは論外だし、パパも苦手な方だからねー。
「参考にできる相手がいないや。アニメを見ている方がまだ勉強になるかも」
歌うプリンスたちのセリフは参考になるかもねー。
「僕に何を求めてるんだってぇの。くだらねぇこと言ってねぇで、行くぞ」
デッドは半目になって呆れながら、何気なく手を差し伸ばしてくれた。
「まっ、デッドはそのままでもいっか。行こう」
自覚もなく女の子をエスコートできちゃうんだもん。つい口元がゆるんじゃうなー。
「たくっ。何がそのままなんだか」
眉をゆがめながらも手を繋いで、並んで食堂へと歩いてくれた。




