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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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82 シャインの一日 その3

 この世のものとは思えない叫び声から目を覚ますと、ミーは庭にポツンと一人きりだった。

 地面には引きずった跡があり、服も砂埃(すなぼこり)に汚れて傷んでしまっている。

「おかしいな。確か花畑にいたはずなのだが。まぁいいか。それよりあの太陽の登りよう、昼食が始まるか否かといったところかな」

 いかん、急がなければまたむさいヤローどもに囲まれて飯を食わねばならなくなる。正面がプリンセスチェルなのが唯一の救いだが、それでもあの席順は酷い。

 危機感を覚えたミーはすかさず食堂へと向かった。

 昼食には間に合ったが、席順を正しくすることはできなかった。

 なぜだ。

 お昼寝はいつもの子供部屋だから、ベッドはエアの隣だ。

 眠る前に甘い会話でロマンスを楽しむのもオツなのだが、いかんせんエアは寝つきがダントツでよすぎる。

 会話を挟む余技(よぎ)もない。心地よさそうに寝息を立てるものだから、天使の寝顔を見るだけでグッと堪えておこう。

「エア、君の寝顔はミーだけのものだからね……うぐっ!」

 微笑ましく眺めていたら黒くて硬い物が後頭部に当たって、そこからよくわからなくなった。


 目を覚ますとみんないなくなっていた。お昼寝から起きて庭へ向かった後のようだ。

「うむ、また置いていかれてしまったようだ。しかしヒーローは遅れて参上するもの。これもまた仕方なしか」

 それにミーが登場した瞬間、彼女たちはプライベートをそっちのけでミーに食いついてしまう。あぁ、我ながらなんと罪なことか。

「おいシャイン。バカやってねぇでユニコーンの所へ行くぞ」

 頭に手を当てて首を振っていたら声をかけられた。振り向くとオヤジがドアの近くで仁王立ちしていた。

「なんだオヤジ、いたのか」

「お前、ホントに男はアウトオブ眼中だな」

 冴えない黒髪にだっさい服を着こなす愚かしい男が呆れたように呟いた。

 呆れたいのはこっちの方だ。こんなダサ男からこの色男であるミーが生まれるだなんて、億千万の奇跡としか言いようがない。

 少しでもオヤジの血が濃かったらと思うと、ゾッとしないね。

 身震いがしてきたので歯を食いしばり、自分の身体を抱くようにして抑えた。

「何考えてるか知らねぇけど、さっさと行くぞ。今日はお前の母親の日なんだからな」

 ぶっきら棒に言い捨てると、汚くて軟な手を差し出してきた。何が悲しくてヤローと手を繋がなければならないのか。

 しかしオヤジも父親だ。ミーを子ども扱いしたくて堪らないのだろう。もしかしたらレディたちの視線のおこぼれをもらおうと企んでいるのかもしれない。

 まぁ、モテなすぎるのもかわいそうだから手を繋いでやろう。

 マミーの所まで行ったら、泥水で手を拭くけどな。

「仕方ないなオヤジ。ありがたくミーの手を繋ぐといい」

「なんで上から物を言ってんだよ」

 わかっているくせに。

 ミーはオヤジと並んでマミーの待つ庭へと向かった。


 マミーと出会ってからオヤジとは、少しばかりの会話を交わしてすぐに別れた。

 オヤジはマミーが気になって仕方がなさそうに身体を震わしていたが、残念なことにマミーの眼中ではない。

 そりゃマミーは美肌をしているし、撫でまわしたい尻の形をしている。しっぽもさぞ撫で心地がよさそうだ。ミーが成長したなら近親(きんしん)相姦(そうかん)()さないだろう。

 プリンセスチェルの命令とはいえ、交わったこと自体がそもそも奇跡だったのだ。これ以上を求めるのはオヤジの罪だな。

「さてシャイン。始めるわよ。ユニコーンの武器は何といっても健脚と角だからね。いかに勢いをつけて貫けるか。ここが肝よ」

「わかっているさマミー。軟な色男のミーに備わっている唯一の武器だろ」

 股間の武器(ホーン)はまだ育っていないが、いずれは女たちを天国へ()す最強の力になるだろう。

「よし、ユニコーンの(さが)もちゃんとわかっているようね。じゃあ始めるから姿を変えなさい」

 ミーは頷くと丁寧に服を脱いでたたんだ。

 ズボンを破るとオヤジが怒られる、のはしったことではない。問題はプリンセスチェルに迷惑がかかるところだ。

 女性に迷惑をかけるくらいなら、男の恥じらいなど安いものだ。

 全裸になって姿をユニコーン寄りに変える。やはり四足は安定するし、安心感も強い。

「いつでもいけるよ、マミー」

「よし、じゃあ走る……前に、聞きたいことがあったのよね」

 先を走ろうとしたマミーであったが、首だけ振り返った。凛々しくもやさしい馬面を見せてくれる。

「なんだい」

「あんたは姉妹(しまい)たちと仲良くやれているかい」

 なるほど。ユニコーンとしては何よりも大切なことだ。マミーの懸念も身に染みるようによくわかる。

 だがそれは杞憂(きゆう)だよ。

「とても仲良くやっているよ。みんな恥ずかしがり屋だから素直に愛を受け入れられないみたいだけどね。でも我慢ができなくなるのは時間の問題さ」

「さすがだわ。自慢の息子ね。じゃあチェル様はどうかしら」

「プリンセスチェルもミーのことが気になっているようだ。けど、やめておくよ。オヤジをよく見ているし、オヤジからプリンセスチェルを取ったら何も残らなくなってしまうからね」

 一応、肉親だからね。せめてもの同情だよ。

 前髪をかき上げながら、心の広さをマミーへと伝えた。

「あら、意外とコーイチを認めているのね。複雑な部分もあるけど、やさしい子に育ってくれて嬉しいわ」

「オヤジを、まさか」

 あのダメなヤツの何を認めればいいのか。

「あんたはあんたで姉妹たちとチェル様を支えてあげてね。ユニコーンとして、決して悲しませるんじゃないよ」

 まっすぐと、貫くような視線で覚悟を聞いてきた。

「当り前さ。これはもう、ユニコーンとしてじゃなく、シャインという一人の男として誓うね」

 ミーの決意は本物さ。視線に力を入れて思いを伝え返す。

「約束だよ。さて、走り込むわよ」

 マミーはやさしい表情に戻ると、ミーと一緒に走り込みをした。

 約束は必ず守るさ、マミー。


 マミーとの会話を終えてからみんなと合流する。後はいつも通りだ。

 プリンセスチェルの博学ぶりに見惚れながらも、魔王領より北にある砂漠に思いを寄せる。

 砂漠の美女はどんな姿と服装をしているのだろうか。踊り子のような露出の高い服装もあることだろう。いずれは行ってみたいものだ。

 そして、あれよあれよのうちに睡眠の時間になった。

 風呂はヤローどうしで入らねばならないのが苦痛だが、今日はプリンセスチェルの日だったのでまあよしだ。

「エア、毎回のことながら、隣り合って眠れることに奇跡を感じ……ん?」

 愛の言葉を贈ろうと振り向いたら、もう寝息を立てていた。

 あぁ、今日も充実した一日だったのかいい寝顔だ。

 明日も朝一で起きてみんなの寝顔を眺めよう。そのためには早寝が一番だな。

 ミーも寝ることにしよう。


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