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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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81 シャインの一日 その2

 気絶から覚めたミーは、きれいなお姉さんが作っているであろう朝食を食べに食堂へと向かった。

 もうみんな食べ始めている。

 いけない。また朝食に遅れてしまった。そのせいで右にデッド、左にグラスとヤローに囲まれた席しか残っていないじゃないか。

 とても遺憾(いかん)なことだ。もうちょっとミーと女の子たちの心情を()んでくれなければ。

 ほら見ろ、ミーの登場に気づいたプリンセスチェルの視線。姉妹たちとミーが隣り合って幸せに食事をする姿が見られなくて残念だと語っているではないか。

 姉妹たちもミーとの会話を楽しみにしていたことだろうに。オヤジは何をやっているんだ。

 みんなの幸せのために采配(さいはい)するのが父親の務めではないか。

 ミーは渋々とヤローどもに囲まれて食事をした。気を配って姉妹たちに話しかけたり手を伸ばしたりしながら。

 そして気がついたときには、意識が飛んでいた。

「……むっ! 確かミーは麗し(うるわ )の姉妹たちと朝食を食べていたはずだが……」

 手を頭にやって、目を覚ますように首を振る。テーブルを見やると朝食が片づけられていた。

「どうやら朝の誘惑(ゆうわく)の時間になっているようだな。急いで外に向かわねば」

 きっと庭ではミーの登場を、姉妹たちが今か今かと心を削らせて待っていることだろう。

 待っていたまえ。すぐにみんなのミーが颯爽(さっそう)と姿を見せてあげるからね。


 庭に着くとみんなが思い思いにすごしていた。

 アクアとフォーレがかわいくポーズを決めて合体技を放っている。

 いいね。なんとも可憐だ。決めポーズも様になっている。惜しむらくは衣装が普段着であることぐらいか。

 いや、普段着もかわいいさ。アクアは清楚な水色のワンピースがとても似合っている。浜辺で水飛沫を浴びて輝いているようだ。

 フォーレは緑の半そで半ズボンとラフな格好をしているが、普段のミステリアスな印象を引き立てている。

 だがもしも二人が戦う幼女向けアニメのヒロイン衣装を着ていたならさぞ輝いていたことだろう。

 派手でかわいい露出にギリギリのミニスカート、なのに絶対に見えない安全設計。魔法かなんかでどうにか変身まで再現できれば完璧(かんぺき)ではないか。

 オヤジは何をしているのだ。衣装あくしろ。

 おっと、少々熱が入ってしまったようだ。少女は他にも三人もいるというのに。

 見よ、ヴァリーのフリフリした赤いワンピを。末の妹はかわいく振る舞うことに余念がなく、常に完璧な萌えを目指しているではないか。

 ミー以外の男の視線を捉えるのは悩ましいところだが、ミーの心を捉えて離さないようにする努力は買う。

 あぁ、あの赤いクセっ毛のツインテールに小悪魔な笑顔。ヴァリーは罪な娘だ。

 ヤロー二人は視界に入れないようにして、闇の剣を振るっているシェイだ。

 彼女のチャームポイントは何といっても大きな一つ目だ。あの瞳で流し目なんてされた日には心をキュンとさせられてしまうだろう。

 完全人化していないが故に服は着ていないが、魔物らしい模様が施されていて一種のファッションになっている。

 ストイックに剣を振り、汗を流す姿は美しいの一言に尽きる。愛想の悪ささえ、彼女にかかれば魅力的だ。

 いずれは彼女の闇をミーという大いなる光で照らし、愛を深く刻み合う仲になることだろう。

 ふふふ、待っていたまえシェイ。時間をかけてでも手中に収めて見せるから。

「あっ、シャイン。ようやく目が覚めたんだね。待ちくたびれちゃったよ」

 姉妹観察をしていたら、最後の一人であるエアが眩しい笑顔で飛んできた。

 シェイ同様、服を着ていない。黄色い羽根が胸と腰回りをしっかりガードしている。露出が多く、活発な印象が強いのが魅力だ。

 ミーの登場を心待ちにして、いてもたってもいられずに飛んできちゃったんだね。

「すまない。いつ間にか意識が飛んでいたもので。しかしエアは外に出ると活発になるね。そういうところも……」

「建前はいいからすぐに飛ぼうよ。今日は試したいことがあるんだ」

 エアはミーと遊ぶことが待ちきれずに言葉を遮ってしまった。

 エアはせっかちだからね。素直に愛を受け止めるところも好きだ。だが飛ぶのはかなり苦手だ。

 オヤジと飛ぶ練習と言っていたが、本当はミーと空中散歩を楽しみたい気持ちでいっぱいなのだろう。

 空気が心地よくて景色がいいのだが、今のところ百パーセント落ちているからな。そこだけが不安だよ。

 いけない。身体が震えてきた。しっかりしろシャイン。ビビっている男はモテないぞ。

「試したいことか。オーケー、ミーという大船に乗った気持ちで存分に試すといい」

 胸を張って堂々と言ってのけた。ここは度胸を押すところだ。

「ありがと、早速行くね」

 エアは軽く感謝すると、ミーの肩を両足でつかんで浮遊しだした。

 足が地面から離れる心細さは何度体験しても慣れない。肝が冷える思いだ。

 エアと練習し始めた頃は肩が引っぱられるように痛かったが、今は風に包まれるようにやさしい。

 日々進歩しているのだ。成長に喜ぶエアの顔を見るのがなんとも嬉しい。危険を顧みずに協力しているのはその表情を見るためと言っても過言ではない。

 ミーは不安をつばと一緒に飲み込んで、エアに身を任せた。


「うん。今日も風が気持ちいい。上手に飛べているし、言うことないね」

「まったくだ。何よりエアと二人きりで飛んでいるのだから、気持ちよさも格別だね」

 高いところから見下ろす景色はなんとも解放感にあふれていることか。そこにエアという甘い調味料が加わることでハートなムードが(かも)し出される。

 ふと遠くを眺めてみる。ミーたちは四本ある監視塔の、真ん中ぐらいの高さを飛んでいた。下には枯れた森が広がっている。

 惜しいな。緑が生い茂っていればデートにはピッタリだっただろうに。

「さてと、飛ぶ練習もほどよくしたし、そろそろシャインには協力してもらおうかな」

 前にいるエアを見上げる。成長期のなだらかな稜線の向こうからニコリとミーを見下ろした。あぁ、この(なま)めかしいアングルは練習相手の特権だ。

「わかったよ。で、ミーは何をすればいいんだい」

 ニコリと爽やかな笑顔で返す。心がやられて頬を赤く染める効果がある、とびっきりのイケメンスマイルでだ。

 エアなんて顔を隠すように前を向いてしまった。

 何気にシャイなところもあるのだな。

「シャインはそのままでいいよ。ウチが勝手に()めるから」

 んっ、今なんか、不吉な単語が出なかったか。

 疑問に思っているとエアは器用に身体をのけ反らせた。そこからは風圧が強くなり、何が起こっているのかわからなくなる。

「えっ、エア。いったい何を!」

 慌てふためいていると、あれよあれよという間にとんでもない態勢にされてしまった。

 エアがミーの背後に回り込んで両手をガッチリつかむ。そして両ひざの後ろに足を引っかけらてしまった。それも空中で。

「えへへっ、パ○スペシャルだよ。アニメで見てからやってみたかったんだ」

「痛い痛い痛い痛いっ!」

 関節がキッチリ決まっちゃっているから。

 空中だから足に自由がありそうだけど、重力に引っぱられて支えがないせいで動かせしない。むしろ地上よりキツイかもしれない。

 関節がギシギシと悲鳴を上げている。どう考えても聞こえていい音じゃない。

「どうかな、見よう見まねだけどうまく極まってる?」

「極まってる。極まってるからそろそろ終わってくれ。じゃないと骨がっ、骨がー」

 (やわ)な美男児になんってことをしてくれるんだ。兄弟一の色男が売りだというのに。傷物にしてどうするつもりなんだ。

「んー、もうちょっとやっていたいけど終わりにするね。パ○スペシャル ジ・エンド!」

 えっ、ちょっと待って。この高さからジ・エンドしちゃうの?

 浮遊状態から一転、枯れた森へ急速な落下に入る。自由落下では()き足らず、風圧で勢いがついている。

「待ちたまえエア。こんな高さからジ・エンドしては死んでしっ……」

 ズドンっ! と楽園とは正反対の音が響いた気がした。


「……はっ! ()っ」

 目が覚めると色鮮やかな花畑が広がっていた。同時に身体中に鈍い痛みが広がる。

「エアもとんだお転婆さんだな。ちょっと間違っていたら死んでいたよ。にしても、こんなきれいな場所が枯れた森にあったのか」

 手足を動かそうとすると激痛が走るので、首だけまわして見惚れる。

 エアは近くにいないようだな。きっと、とんでもないことをしてしまったと自分を責めているのだろう。後でミーは大丈夫だと慰めに行かねば。

 しかし、いい場所だ。今度シェイを誘ってこの花畑までこよう。さすれば感情を殺しがちな彼女も素直にミーへの愛を解放させることだろう。

 シェイのことを想っていると、後ろから足音が聞こえてきた。

「シャイン見っけぇ。こんなところに落ちるなんてねぇ」

 首を向けるとフォーレが近くまでやってきていた。

 おぉフォーレ。ミーがエアに独り占めされたと勘違いし、慌てて追ってきたんだね。あぁ、ミーの美しさが憎らしい。

「びっくりしたよぉ。急いでここまで来たんだよぉ」

 やはりか。こうしてはいられない。早く立ち上がって、フォーレに甘い言葉を投げかけなば。痛み(テメェ)は邪魔だ、どけ。

 走る痛みを無理やり抑えて立ち上がる。小さな衝撃を受けるたびに痺れた痛みが響くけど泣き言は言っていられない。

「あっ、シャイン。だいじょ……待ってぇ」

 そしてミーはすかさず花を摘もうと手を伸ばした。緑の髪に一輪挿してあげればさぞ似合うことだろう。

 静止の声も聞こえるが、男には強引に行かねばならないときがある。優柔不断は情けない証拠だ。

「ほらフォーレ、君には綺麗な花がよく似あっ……」

「あっ」

「ギャアァァァァ!」

 構わず花を引っこ抜いた瞬間、なんともしがたい叫びが枯れた森に響き渡った。

 そこから先は覚えていない。


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