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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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78 エアの一日 その3

 昼ごはんを食べ終わったらお昼寝するの。

 目が覚めたら空を飛ぶ練習を続けるんだ。いつもならシャインに手伝ってもらうんだけど、十日に一度母ちゃんの日がある。

 母ちゃんと一緒に飛ぶ練習をするんだ。

 父ちゃんと一緒にハーピィの巣がある東の塔まで行く。

「あ~、またここか。また登らないけないのか」

 塔に入って父ちゃんが見上げると、とても嫌そうに眉を(ひそ)めてボヤいた。

 ウチも一緒に見上げる。レンガ積みの円柱形をしていて、階段は壁に沿って螺旋(らせん)状になっている。

 これはハーピィの監視塔だけじゃなくて、他三つもおんなじ作りなんだって。

「父ちゃんファイト。ウチもあとちょっとで安全に飛べるようになると思うから、それまでの辛抱だよ」

 握りこぶしを勢いよく上げて励ますと、力のない笑顔が返ってきた。

「ははっ、毎回のことながらグダグダ言ってても仕方ないか。よっしゃ、上るぞ。上ったるぞ」

 父ちゃんは自分に言い聞かせるようにして、ゴールを見上げた。活を入れるってやつだね。

 気合を入れて登り始めるんだけど、半分をちょっとすぎたあたりで足を止めた。一気に登りきれた例が(ためし )ないし、とてもツラそうだから早くなんとかしてあげないとね。


 屋上に着いたらいい風が吹きつけてきた。手を広げて全身で感じる。

「ほんと、よく風が吹いてるよな。もうちょっと弱くなったりしないのか」

「父ちゃん、風情(ふぜい)がないよ。塔の上はこうじゃなくっちゃ」

 ボサついた黒髪やよれよれの服がバタバタとなびく。ウチの黄色い髪だって風と遊んでる。

「飛ばされそうで怖いんだよ。さて、ハーピィはまた空かねぇ」

 一緒に見上げると、茶色いハーピィたちが気持ちよさそうに飛んでいた。

 ウチも早く飛びたいな。母ちゃんどこだろ。

「あっ、母ちゃん発見。おーい」

 茶色い群れのなかから黄色い母ちゃんを発見する。両手を振って飛び跳ねると、母ちゃんは気づいて雨が降るように降りてきた。

「ハーピィのやつ、またやりやがったな」

「父ちゃんは怖がりだね。ウチがいるんだからドーンと構えててよ」

 不安そうにアタフタしている父ちゃんの壁になるように前に出る。

 ビョオォって風切り音と一緒に急降下する母ちゃん。暴力的な風に対抗する手段なんだど……実はウチ、持ってないんだ。

 相殺できるほどの強い風はまだ出せない。だけど逸らすことならできるんだ。スキル風纏(かぜまとい)で。

 風を纏うように操れるから便利なんだよね。弱点は近くの風しか使えないこと。でも父ちゃんを守るぐらいなら充分だよ。

 母ちゃんの着地による暴風を難なくやりすごした。

「やっほーコーイチ、エア。もうすっかり強襲(きょうしゅう)にも慣れたね。成長を感じるよ」

「えへへっ、凄いでしょ」

 褒められて嬉しかったから、ピースマークを突き出して笑った。

「おい、ハーピィ。今までの危ない着地、ひょっとしてわざとだったのか」

「そうだよ、危機感があった方が真剣になれると思ったの」

 顔が青くなっている父ちゃんの疑問に、ケロっと答える。

 母ちゃんが言うような危ないところってあったかな? まぁいいや。

「それより母ちゃん。早速飛ぼう。すぐ飛ぼう」

 空がそこで待っているんだもん。待ちきれないよ。

「エアはせっかちだね。ちょっとぐらいコーイチとしゃべらせてくれてもいいのに」

「父ちゃんとおしゃべりしたいの?」

「いつもしゃべりたいと思ってるよ。でも今日は急だったからもう飛ぼっか。その代り、次はちょっと時間ちょうだいね」

「うん。わかった。約束する」

「ありがと」

 母ちゃんも父ちゃんが大好きだもんね。おしゃべりぐらいさせてあげなくっちゃ。

「じゃあ、父ちゃん。行ってきまーす」

「おう、気をつけて飛べよ。ケガなんかすんなよ」

 父ちゃんが軽く手を振って微笑むのを見ながら、ウチは風を切って空へと羽ばたいた。

 空気の壁が顔にあたる。風に乗るまでの強引な駆け引きが好きだ。競り勝った先に心地のいい風と、最上級の景色が待っているんだもん。

「エアってば気が早いんだから。母ちゃん、すぐに追いついちゃうぞ」

 後ろで声が聞こえたと思ったら、母ちゃんがすぐに回り込んできた。

「わわっ、やっぱり母ちゃんは速いな。ウチの全力を追い抜いちゃうんだもん」

「そりゃ、エアより長く飛んでるからね。空に慣れることが一番大切だよ」

 やっぱり長く飛んで慣れるのが一番の近道なんだね。スピードに自信がある敵と戦ったときに、追い抜いてごきげんようって言いたいから練習しなくっちゃ。

「ところでエア、コーイチのことは好き?」

 ウチが気合を入れていると、母ちゃんは変なことを聞いてきた。

「好きだよ」

 当たり前なのに、なんでこんなこと聞くんだろ。

「じゃあ、チェル様は?」

「好きだよ。兄弟のみんなも勿論好き」

「そっか。だったらうんと強くならないとね。コーイチは凄い男になるから、ぐずぐずしてたら置いてかれちゃうぞ」

「わわっ、それは大変だ。置いてかれちゃったら寂しいもんね」

 父ちゃんとチェル様は最初から凄いけど、アクアやグラスやフォーレやシャインやデッドやシェイやヴァリーだってみんな凄くなってるもん。

 ウチだけが、うかうかしていられないね。

「よーし、じゃあ母ちゃんと競争しよっか。東の塔から南、西、北を回って戻ってくるコースだよ」

「わかった。ウチ負けないよ」

「言ったな。母ちゃんだって遅くないんだから。よーい、ドン!」

 母ちゃんの合図でウチは、全力で飛び出した。

 きっと速さの向こうに見知らぬ景色があるから。


 母ちゃんと飛び終わった後は、おやつを食べてチェル様のお話を聞くの。

 お勉強? 何それおいしいの?

 次にアニメの時間になって、終わったら晩ごはん。お風呂に入ったら明日の朝を待つだけだね。

「ほら、見てみなよエア。星空がきれいだよ。まるで君の笑顔みたいだ」

「そんなことよりシャイン。この夜空を一緒に飛んでみたいと思わない」

 シャインのよくわからない決まり文句を無視して夜空の風を想像する。

 昼間とは違う空気があると思ったら、飛び出したい気持ちでいっぱいになってきた。

「落ち着きなよエア。夜は暗くて危険だと思うよ。もうお風呂にも入っちゃったし」

「そっか。お風呂に入っちゃったらしょうがないね。じゃあ明日、夜の空を飛ぼう」

「いや、だから夜は暗くて……」

「星が輝いて月が出てるんだよ。平気だよ……きっと」

「最後に不吉な言葉がついたよ。やはり危な……」

「飛ぶと決まったら今日はもう休まないと。おやすみシャイン」

 ウチはベッドに潜って目を閉じた。シャインが何か言っているけど、すぐに聞こえな……グー。


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