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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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77 エアの一日 その2

「おい、エア。お前っ、なんっつーことやってくれるんだよ」

 デッドが地面を指さしながら、声を震わせる。

「いくらヴァリーちゃんより不死身のシャインでも、これは死んじゃうんじゃないかなー」

 ヴァリーが信じられないというようにオレンジの瞳を大きく開いて動揺している。

「そうかな? シャインならこれくらい平気だと思うけど」

 シャインが不死身なのはいつものことなのに、二人とも大げさだなー。

「いくらシャインでもこれは死ぬって! 見ろよこの地面。ハ○ケーンミキサーが決まったときのように捻じれてるじゃねぇか!」

 シャインは捻じれた大地の中央に、上半身を埋もれさせていた。

 足がピクピクしているからまだ生きていると思う。

「一体どう間違えて落下すればこんな惨事(さんじ)が起こるんだよ」

 デッドはシャインに指差したまま、地面をドスンと踏んで怒鳴り散らす。

 普段はつんけんしているのに、ちょっとしたことでデッドは心配性になっちゃうんだね。こういうところはかわいいのに。

「ヴァリーちゃんもシャインの扱いは酷い方だと思っているけどー、ここまで殺人的にはできないよー」

 常に自信を持って堂々としているヴァリーですら、控えめになっている。

「もっとシャインの不死身さを信じていいと思うよ。まだまだこんなもんじゃないって思ってるし、それに……」

「それに?」

 二人して声を揃えて首を傾げた。

「デッドを驚かそうって言いだしたのはシャインだよ。だからウチが協力して、錐揉(きりも)みしながら勢いをつけて地面に叩きつけたんだから」

 シャインの恨み言が聞こえたような気がしたのは、間違いなく空耳だね。

「落ちたんじゃなくて落としたのか! エアの確信犯だってのか!」

「そうだよ」

 屈託のない笑顔で、堂々と答える。すると背景に、ざわ……って効果音が描かれそうな引きつった表情にデッドとヴァリーはなった。

 何か言いたそうに口を動かしたり、埋まって動かないシャインを見たりする。言いたいことがあればはっきり言えばいいのに。二人らしくないなー。

「シャインの不死身さを鍛える訓練にもなるし、問題ないよ」

 言い切るとなんとも微妙な表情が返ってきた。

 それにしてもハ○ケーンミキサーか。うん、おもしろそう。アニメを研究して必殺技(フェイバリット)を空中から地上に叩きつけられるようになるのもおもしろいかも。

 空気はしらけちゃったけど、楽しみが増えたな。


 朝の運動が終わったら昼ごはんだね。シャインを忘れずに起こして、みんなで食堂に向かう。

 レンガ積みの室内は広々で、飛び回れるくらいに広くて高い。ホントに飛んだら父ちゃんとチェル様に怒られるんだけどね。

 みんなで木製テーブルの席に着く。席順は内から時計回りにシェイ・チェル様・父ちゃん・フォーレ・アクア・ヴァリー・デッド・シャイン・グラスになるんだ。

 ちなみにウチの正面に座るのはアクアだね。

 ガーゴイルがごはんを運んできた。ポトフとパンみたい。よかった、卵はない。

「シャインも珍しくいるし、みんな揃ってるな。んじゃ、いただきます」

 手を合わせる恒例の挨拶をすましてから、お皿を持ち上げようとする。

「熱っ!」

「ははっ、スープものだからな、やけどしないようにゆっくりよく噛んで食べろよ」

 手を振って熱を冷ましていたら父ちゃんに笑われちゃった。

 からかうみたいだけど、やさしさがこもっているから好きなんだ。

 みんなポトフやパンをおいしそうに食べている。アクアは素直に表情にでるから、見ていて飽きないよ。

 フォーレは黙々と食べているけど、野菜を口にするペースが速い。野菜好きだもんね。

「う~む」

 微笑ましく眺めていたら、右から苦い唸り声があがった。

「どうしたのグラス。やっぱり野菜は苦手」

「何をバカな。男児(だんじ)たるもの野菜などには決して屈さない」

 グラスは不屈の精神で野菜だけになっているポトフを睨みつけた。好き嫌いが激しいからね。苦手な物は苦手なんだから、弱音をはけばいいのに。

 激しいと言えばもう一人。

「グラス、逆に考えるんです。食べなくてもいいやと」

 食わず嫌いをこじらせた黒の一つ目が名言を放った。とても清々し微笑みが横顔に浮かんでいる。

 もう悟りの境地(きょうち)に入っちゃっているよ。普段は頼りになるだけに、ちょっと残念かも。

「それってさ、シェイ。ウチやグラスが真似しても大丈夫?」

「完全にアウトでしょうね」

「おいシェイ、バカなことやってないでちゃんと食べろ」

 シェイがお決まりのわがままを言って、父ちゃんが叱る。ごはんのたびに起こる名物になっちゃったな。

「まったく。コーイチたちと一緒だと、静かに食事もできないわ」

「もう諦めろよ、チェル」

 チェル様は現実を見ないように目をつむりながら、パンを上品に食べていた。

 でも父ちゃんに小言をいっているときのチェル様って、楽しそうだよね。

 ちなみにシャインはいつの間にかいなくなっていた。姉妹にちょっかいかけた挙句、誰かにノックアウトされたんだと思う。

 シャインはごはんを食べながらも、不死身さを磨いてるんだね。感心しちゃうよ。

 いつも通りの、賑やかな昼ごはんだった。


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