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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
737/738

736 if

 満月の月明かりを揺れる海面が千切れさせながら反射させる。

 仕事終わりにジュンと一緒に外食して、また明日と別れて、家路につくため海を泳ぐ。

 場所は魔王城アクアリウムの跡地(あとち)。つまり海の上。ポツンと平屋建て一軒家を建てて気ままな一人暮らしをしている。

 一応来客が来てもいいように船が停泊できるこぢんまりとした港は作ってあるよ。滅多に使わないけども。

 エリスが家に来た時は毎回、もっと(たずね)ねやすい場所に暮らしなさいよって、定番の文句が出てくる。

「ただいま」

 暗く静まり返った家に声をかけて、壁のスイッチをパチリと押して明かりを(とも)す。

 一人暮らしにしては大きめのテーブルと四脚の椅子。壁に立てかけられた釣り竿。飾られた思い出の写真。タンスなどなどの調度品。

 趣味以外は必要最低限の道具たち。気温は低くないのに、どことなく寒さを感じちゃう。

 昼間はジュンを始めにいろんな人と賑やかに接しているからいいんだけどね。

「やっぱり、寂しいな」

 二階建て一軒家のタカハシ家実家で、家族で賑やかに暮らしていた頃とどうしても比較してしまう。

 ヤカンに水を入れてお湯を沸かし、青いカップに入れて両手を温めながら水面に視線を落とす。

「もしも」

 この一年間。もう何度目になるかわからない、もしもについて考える。

 分岐点(ぶんきてん)は王都ロンギングを襲撃して、マリーにトドメを刺す時。あそこでトドメを刺したのが別の誰かだったら、私はきっと今、一人で寂しい思いをしていなかった。

 結果論だけど、マリーに手を下したから一番手に選ばれて、なぜか勇者のお目こぼしで生き(ながら)えた。

「じゃあもし、マリーを仕留めたのがシェイだったら」

 もしかしたら私の代わりに、シェイが勇者と一緒に旅をして、タカハシ家のみんなと死別をしていったのかもしれない。

 その時には私も勇者にシッカリとトドメを刺されていたはず。

 そういえばシェイの目を潰して勝ったけれど、あの状態で人間の姿に戻ったらどうなってたんだろ。都合よく片目だけ無事って事になって、眼帯(がんたい)つけながら戦う事になったのかな。

 あっ、エアはシャインとタッグを組んでいたっけ。私だったらフォーレと一緒に勇者に立ち向かっていたのかも。

 シェイは強くて優しいから、きっと勇者達とも仲良くやれてたよね。

 私達が戦う順番もゴロっと変わってそうだし、最後に立ち向かうのは誰になってたんだろう。案外デッドあたりだったりしてね。

 戦いが終わったらやっぱり、自分の侵略地に戻って暮らしていくのかな。

 クールだけど面倒見のいいシェイなら、きっといろんな人に囲まれながら穏やかに過ごしていけたよね。

 私達の事を割り切って、充実して過ごしてくれていたらいいな。

 眠るまでの間、毎日色んなパターンを考えた。

 もしかしたらヴァリーだって勇者達と仲良く生きていた未来があるかもしれない。

 もしかしたらシャインがハーレムを(きず)く事だって。

 もしもが(あぶく)のようにたくさん()いては、次々に(はじ)けて消えてゆく。

「あっ、お湯冷めちゃった。明日も漁に出ないとだし、もう寝ちゃおうかな」

 お父さんとの約束だから生きてこそいるものの、私の存在理由がもうよくわからなくなってきている。命が(うす)れちゃってる感じ。

 お父さんも社畜(しゃちく)してた頃は、こんな喪失感(そうしつかん)を感じていたのかな。

 呆然とカップを片付けようと立ち上がったところに、玄関からノックの音が響いてきたよ。

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