735 決戦を終えて
どこまでも広がる青空に青い海。波間は穏やかで素潜り漁をするには最適な日和だね。
照りつける陽射しを浴びながら、小船から身を乗りだして海面を眺める。ブクブクと湧き上がってくる泡が多くなってくると、緋色の髪をした少年が顔を出した。
「ジュン、お魚いた」
私の問いかけにジュンは笑みを返すと、右手の銛を突き上げて仕留めた魚を見せびらかした。
「たくさんいたぜ。オレの読みも大したもんだろアクア。今日は稼ぎ時だぜ」
ジュンは私へ獲った魚を渡すと、もうひと潜りしていった。
お父さんが勇者に討伐されてから早一年。私は元侵略地のヴァッサー・ベスで居を構えていた。
働かざる者食うべからずだからね。漁師見習いのジュンのサポートをしながら穏やかな日常を過ごしているよ。
ホントは私が直接ポイントを決めて潜った方が確実なんだけど、どうしても獲り過ぎちゃうからね。次期漁師の成長を見守る事に決めたんだ。
ホントに平和で穏やかで、ちょっと物足りない日々が続いていく。
たまにエリスが遊びに来て、私を連れ出してくれるのが楽しいかな。いつか長い休みを取って旅行をしようって約束も交わしてる。
エリスは今、プラサ・プレーヌで気ままな狩人をやってる。狩り仲間からは大人気だって、うっとうしそうに話してた。新入りさんにもイロハを教える立場なんだって。
ジャスはお父さんを討伐してからプラサ・プレーヌの国王になった。政務が忙しいみたい。魔王よりも書類の山の方が遙かに厄介だって。ワイズも側において平和維持のために日々奮闘中らしい。
ちなみに一番悩ませている問題が、世継ぎをどうするかなのが笑えるよね。ジャスってば、若干女性不信になっちゃってるから。普通に接する事はできるけど、娶るとなるとどうしても裏を疑ってしまうんだとか。
ストレスでハゲちゃわないか心配だけど、お偉いさんにはなりたくないな。コレからも壊れない程度にガンバってほしいよ。
あ、クミンはベルクヴェルクへ里帰りした。幼なじみのペトラと仲良く暮らしてるって。
デッドと仲良かったアイポなんだけど、無事にって言ったらいいのかな、あの時シッカリ身籠もってた。デッドの娘を産んでお母さんになってたよ。
一度見に行ったけど、かわいい姪っ子だったな。私七歳で伯母さんになってたよ。きっとデッドに似て生意気に育っちゃうんだろうな。楽しみのひとつだね。
グラスと仲良かったドゥーシュもやっぱり身籠もっていて、無事に男の子を産んだって。こっちはまだ見に行けてないんだよね。当面の目標はプラサ・プレーヌへ甥っ子の顔を見に行く事かな。
ただドゥーシュの方は色々とよからぬ噂が立っちゃってるんだよね。
曰く新たに聖タカハシ教とかいう宗教を発足させて、タカハシ家の偉大さを布教してるんだとか。しかも急激に成長してるみたいだし。
なんでも私達が侵略した各地に、タカハシに魅入られた者が多くいたみたいで、成長に躍進をかけているんだとか。
私達は静かに歴史へ埋もれていくつもりだったのに。大々的に残されたら困りそうな気がする。
日本語を解読して、聖タカハシ語と名を改めて使ってるとも言ってたっけ。私だって日本語そんなに詳しくないんだけどな。
宗教環境が変に整ってるだけに、グラスの甥っ子の性格が歪みそうで怖いよ。
チェル様とはアレから連絡取ってないんだよね。元気にしてるかな。メッセージを使えば一発なんだろうけど、お父さんが討伐されてからチェル様のスキルを使うのはちょっと怖いんだ。
気のゆるみひとつでチェル様が魔王になりかねないから。
ヴェルダネスのみんなもどうなったかな。地下鉄は破壊しちゃったから簡単には行けなくなったんだよね。
あんな物イッコクには早すぎる技術だし、いくら強固に作ってもいずれは劣化して危険になる。整備できない物は破棄するに限るからね。
勿体ない気持ちもあるけど、仕方ない。
会いたいなって、水平線の向こうへ願ったよ。




