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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
734/738

733 欲張りな願い

「おーいアクア、いるか」

「お父さん。ここにいるよ」

 話が一区切(ひとくぎ)りついたとみるや、タカハシのおっさんはアクアを呼んだ。

(わり)ぃ見えねぇ。もっと近くに来てくれや」

「うん。今行くから」

 返事をして()け寄るアクアに、場所を(ゆず)って見守る。血溜(ちだ)まりの床に両手両膝をつき、身を乗りだして顔を近づけた。

「おいバカ。服が汚れちまうだろぉが。見える位置まで来てくれりゃぁ、立ったままでいいんだよ」

「服の汚れなんてどうだっていいよ。そんな事、言うために呼んだんじゃないんでしょ」

 アクアが小言を言いながら、タカハシのおっさんの兜を脱がした。()けた頬と蒼白(そうはく)の顔色が(あら)わになる。

「ありがとなアクア。俺のちっぽけな意地に付き合わせちまって。戦いは怖かっただろ、死別(しべつ)はもっとツラかっただろ」

 血に汚れて震える左手をアクアへ伸ばしながら感謝(かんしゃ)謝罪(しゃざい)を口にする。アクアは両手で優しく包むように握りながら、首を横に()った。

「うんん。私だってお父さんの役に立ちたかったから、へっちゃらだったよ。頼ってくれて、凄く嬉しかった」

 取り(つくろ)う笑顔がいたたまれないのに、()き付けられる空気感を生み出している。目を()らせないし、逸らしちゃいけない。

「ははっ、そっか。アクアはやっぱりいい子だわ。(すえ)は大臣か深海魚だな」

「もぉ、褒め方ヘタなんだから」

 今の、褒め言葉だったのか。

「ごめんな、かっこ(わり)ぃ父親で。(なさ)けなかったろ、見てて恥ずかしくなかったか」

「そんな事ない。ご立派(りっぱ)ぁ、だった。お父さんはいつだって、最高に優しくてかっこよかったから。血の(つな)がった娘じゃなかったら結婚(けっこん)したいぐらい。きっとチェル様だって押し退()けてたよ」

「よせよ。そんなにも愛されてたら()れるじゃねぇか。しかし結婚か、純白(じゅんぱく)花嫁(はなよめ)姿も見てみたかったぜ」

「お父さんってば勿体ないな。チェル様ならどんなウェディングドレスだってかわいかったのに」

「アクアの姿も、だよ」

「え」

 急に話の中心に持ってこられて、動揺で青い目を見開いた。

「アクアの選んだ気に食わないヤローが前にいて、花嫁の衣装に身を包んで幸せそうなアクアの手を取ってヴァージンロードをエスコートする。死に(ぎわ)だってぇのに、人間はどこまでも欲張(よくばり)りでいけねぇわ」

 タカハシのおっさんから父親としての願いが湧き上がる。

「なぁアクア。最後のワガママを聞いてくれや。俺達の後を追わずに、人生を謳歌(おうか)してくれ」

「お父、さん」

「俺、今更だけどよぉ。子供に生きててほしいんだ!」

 涙を流しながらタカハシのおっさんが愛娘(アクア)へと(うった)えかける。

「アクアだって体験してきてツラい事はわかってる。俺だって、子供が死んじまう事があんなにも苦しいなんて思ってもみなかった。もうイヤなんだ、あんな思い。例え俺が死んじまった後ででも。だからっ」

 アクアに包まれている左手を更に伸ばし、やわらかな(ほほ)を赤に汚しつつも()えながら、タカハシのおっさんは伝える。

「生きてくれ」

 消えかけていた(ねが)いが、アクアの心へ沈んでゆく。

「お父さんのワガママ。全部私に押し付けないでよ。そんな風にお願いされたら私、断れないよ」

 アクアが確かに手放していた生を、父親の願いが(つな)ぎ止める。

「ありがとな。大好きだぜ、アクア」

「私も、大好きだよ。お父さん」

 涙の願いに涙で応える。

 想いが通じ合っているのに、胸が締め付けられるほど悲しかった。

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