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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
733/738

732 弱者の意地

「どうして、そのまま魔王の()をチェルに渡さなかった。全てを失わずに済んだはずなのに」

 どう考えてもタカハシのおっさんに魔王は荷が重いし、失う物だって多かった。

「そりゃチェルは(つえ)ぇよ。アスモのおっさんから魔王の使命(しめい)(たく)され、達成する事だって余裕でデキたはずだ。けど同時に、勇者に討伐されるって死の宣告(せんこく)を受け入れなけりゃぁならねぇ」

 魔王は勇者に討伐される運命(さだめ)、か。けどソレって、順当(じゅんとう)な事じゃないか。

「きっとチェルは(ちい)せぇ頃から親に繰り返し言い伝えられてきたんだ。己の死を。魔王の娘に生まれてしまったばかりに、未来を閉ざされながらチェルは育ってきてたんだ。希望なんて(えが)けないまま、ソレでも望みを捨てきれずに、常に不安を彷徨(さまよ)いながら。不憫(ふびん)で仕方ねぇじゃねぇか」

 あの絶対強者が不安だったって。微塵(みじん)も匂わせない不遜(ふそん)っぷりだったぞ。

「俺だって親ガチャに失敗したって理不尽に文句を言っていたさ。けどチェルは俺の比じゃなかった。ンでもって親子で愛されても愛してもいた。近くで見続けていたらよぉ、助けたくなっちまったんだ。親ガチャをどうこう言う前に、ガチャガチャ本体をブチ壊す気概(きがい)を持たずしてどうするっつぅ話だっ」

 ガチャがなんなのかはわからないけれど、気持ちだけは理解できる気がする。でも。

「助けたいって、逆立ちしても埋められない力の差があったじゃないか。無謀(むぼう)だとは思わなかったのか」

「弱ぇからこそ、強者の視界に止まりてぇのかもな。それに気付いたら惚(()れちまってたんだ。社会に()まれて心をすり減らし、個性(こせい)さえも失っちまった何もできないおっさんがよぉ。女の子のために、意地を張りたくなっちまった」

 惚れたって、たったそれだけを理由に意地になって魔王となったのか。

「ムチャクチャだ。例え上手くいったとしても、チェルが感謝する事なく雲隠(くもがく)れする可能性だってあっただろうに」

「バーカ。色恋(いろこい)沙汰(ざた)見返(みかえ)りを求める事自体が間違ってんだよ。恋愛ってのは泥臭(どろくさ)くて(ぬま)のように(しず)むんだ。だからこそ、想いをぶつけて愛する事に意味があんだよ。役に立てたならそれだけでいいじゃねぇか。人の想いなんて常に一方通行なんだからな」

 タカハシのおっさんが魔王になれなければチェルが討伐され、魔王になれればタカハシのおっさんが討伐される。

 どう転んでも成就(じょうじゅ)しない恋。なのに、自分の想いに身を(ゆだ)ねただって。

「じゃあ自己満足の為だけに、自分はおろか子供達の命まで差し出したっていうのか」

「仕方ねぇだろぉ。全力で差し出さなきゃチェルの運命を()じ曲げれなかったんだ。この戦いを少しでもチェルが介入したら、きっとイッコクはチェルを魔王扱いしていただろう。タカハシ家総出でようやく、ギリギリ魔王の座をすり替えられた」

「身勝手すぎる。おまえソレでも父親なのかよ」

「ははっ。返す言葉もねぇや。けどな、俺だけがチェルを好きなわけじゃねぇ。子供達みんなも、チェルの事が好きなんだ。想いのあり方は間違ってるかもしんねぇけど、()んでやるのもまた親の役目じゃねぇか。想いは一致しちまってたんだ」

 一家総出の想いが、真の魔王チェルから魔王の呪縛(じゅばく)を肩代わりしたのか。

「チェルは生まれが特殊で力は強いけれど、人に手をかけた事はねぇ。だからよぉ、静かに平穏に暮らさせてやってくれや。頼むわぁ」

 ズルいじゃないか。最後にそんなお願いをしてくるなんて。受け入れなかったらボクは、外道にまで成り下がってしまう。

 ボクは、無言のまま頷いたよ。

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