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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
731/738

730 大誤算

 おっと、この出血量(しゅっけつりょう)はそろそろマズいな。もう充分に痛い目をみて、戦いなんてこりごりに思っている(ころ)だろう。

 ボクは最後に残っていたエリクサーを取り出し、(もだ)え苦しんでいるタカハシのおっさんへと近付いた。

「そっ、ソレは」

「見た事あるんじゃないか。フォーレが作ったエリクサーだ。家の方から拝借(はいしゃく)させてもらった」

「おまっ、本物の勇者が俺の家から勇者行為(ゆうしゃこうい)なんてしてんじゃねぇ」

 勇者行為とは何だろうか。アクアの方を見てみると、ハッとした表情を浮かべているし、心当たりがあるのかもしれない。けど今は治療が最優先だ。

「もう魔王ごっこも()りただろう。今治すから、もう暴れたりしないでくれよ」

 右腕の傷口にエリクサーをドボドボとかける。

 グラスとの戦いで効力(こうりょく)は体感済みだし、死の(ふち)にいたクミンでさえ回復が間に合った超一級品。もしかしたら引き千切(ちぎ)れてしまった腕でさえ、再生するかもしれない。

「クっ、ククっ」

 タカハシのおっさんから引き()った笑いが()れる。思惑通りにいかない事に(くや)しさを感じているのか、はたまた助かる事に対して心の奥底に眠っていた生への執着が(よみがえ)ってきたのか。

 エリクサーをかけきって数秒。タカハシのおっさんの腕は、何の変化も起きずに出血し続けている。

「治らないだと。まさか、くっ!」

 急いで勇者の力を()()まし、残っていた一発分の力を注ぎ込む。

 間に合え、間に合え、間に合え。

「キュア・ブレイブ!」

 どんな強力な毒やアレルギーをも吹き飛ばし、致命傷をまとめて回復させる究極の回復術を個人一人に注ぎ込む。

 間に合った。いくらなんでもキュア・ブレイブなら大丈夫だ。完治(かんち)できる。

 しかし。

「ウソだろ。ジャスのキュア・ブレイブで治らないなんて」

 ワイズの呟いた結果が、ボクの目の前で横たわっていた。

 そんな、バカな。

「ククっ、ハハハハっ。ゲホっ、ゲホっ。残念だったな勇者ぁ。俺に回復アイテムや回復魔法の類いは効かねぇんだよ。ようやく一矢(いっし)(むく)いてやったぜ。ハハハっ、ゲホっ」

 むせ込み涙を流しながらヤケになったようにタカハシのおっさんが嘲笑(あざわら)う。

「回復が効かないなんて聞いた事ないよ」

「ちょっとアクアどうすんのよ。このままだと、本当に」

 クミンが驚愕(きょうがく)の声を上げ、エリスが動揺(どうよう)しながらアクアへ(うった)えかける。このまま治せなければ、タカハシのおっさんは死んでしまう。

 ボクじゃ、助けられない。また、アクアから家族を(うば)ってしまう。

「あっ、ああっ」

 罪悪感(ざいあくかん)()られながらアクアの方を振り向く。取り乱した様子もなく、ただまっすぐにボクたちを、いやタカハシのおっさんを見守っていた。

 覚悟なんて、とっくに決まっていた表情(かお)だった。

「俺が弱すぎるせいなのか、はたまたイッコクの人間と身体の作りが(ちげ)ぇのか、回復の(たぐ)いは一切(いっさい)受け入れなかったんだよなぁ。あのフォーレをもってしてもお手上げだったんだぜ。今使ったエリクサーなん、俺の傷ひとつ治せない失敗作呼ばわりだかんな。効能(こうのう)(すげ)ぇんだけどなぁ」

 死に(ぎわ)の傷さえ治してしまうエリクサーが失敗作だなんて。けどフォーレからしてみれば、一番治したい相手を治せない、失敗作。

 息を(あら)げながら(つぶ)くタカハシのおっさんは、遠い天井を(なが)めながら赤の水溜まりを広げつつあったのだった。

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