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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
721/738

720 払ってきた代償

 真の魔王チェルと同等の威圧感と、溢れて止まらない殺意がアクアから放たれている。魔王城アクアリウムで戦った時には感じられなかった恐怖だ。

「アクア、どうして。今ここでチェルを()てば、アクアのお父さんを見殺しにする必要はなくなるんだぞ。正気に戻るんだ」

「正気って何。もしかして私が(だま)されたり洗脳(せんのう)されてりしてると思ってるの」

 深海の奥底のように色を深くさせた瞳で疑問を口にし、続ける。

「人って生まれた時から環境に影響を受けながら育っていくんだと思うんだ。確かに騙されたり洗脳されたりして育ってきたのかもしれないけど、ソレってあんまり重要じゃないと思う。大事なのは、私が何を大切に想って道を選んだのかだから」

 影響を与えられた環境全てをひっくるめて信念(しんねん)形成(けいせい)する。(じく)になっているが故、()るがない。

「本当にいいの、アクア。だってこのまま突き進むと、アクアのお父さんが死んじゃうんでしょ」

 恐怖で身体を震わしながらエリスが問う。

 エリスだって目の前で父親のエフィーを失っている。肉親を失う悲しみと喪失感(そうしつかん)を体験したからこそ、アクアにこれ以上傷ついてほしくないのだろう。

「確かにここで心変わりすればお父さんは一命を取り留めると思う。でもその代わりね、今まで私達タカハシ家が命を賭けてやってきた事全てがムダになっちゃうの。私は、みんなをムダ死にさせるつもりないの。だから貫き通す。やりきった先にある人生のために」

 覚悟が、違う。アクアはもう(すで)に家族の命を払ってきたんだ。中途半端な説得じゃ、揺るぎようがないじゃないか。

「いい子ね、アクア。それじゃ、私はお(いとま)させてもらうわ。ごきげんよう、勇者様」

 真の魔王チェルが、身動きできないボクらをスレスレで()けながら悠々(ゆうゆう)と歩き去ってゆく。何もできないまま、みすみすと逃がしてしまう。

「そうそうアクア。お願いがあるんだけど聞いてくれるかしら」

 不意に立ち止まり、振り返ってアクアを見る。

「何、チェル様。お水でも出す」

「フォーレじゃないんだからその必要はなくてよ。いつか遊びに会いに行くから、その時コーイチの雄姿(ゆうし)を伝えてちょうだいな。血の繋がった子供であるアクアが、その目でこの戦いの結末を見届けなさい」

 話を脱線させながら穏やかな会話がな()される。まるで、本当の母子のように。

「お父さん。弱いクセに意地っ張りだもんね。きっとチェル様にかっこ悪い姿を見られたくないと思う。わかった、私が見届けてあげる」

「ありがとう、アクア。またね、大好きよ」

「私も大好き。またね、チェル様」

 アクアはトライデントの刃先をボクの首筋にピタリと()えつけたまま、真の魔王チェルと穏やかな挨拶を交わした。

 (きびす)を返すと、今度こそ止まる事なく歩き去ってゆく。

 アクアは、姿が見えなくなってたっぷり逃げ切れる時間をおいてからトライデントを水に戻したのだった。

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