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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
719/738

718 邂逅

「アクア、その、大丈夫、じゃないわよね」

 エリスがおずおずと、グラスの亡骸(なきがら)の前で微笑むアクアへ問いかけた。

 結局ボクたちは助けられなかった。アクアの兄弟を、一人も。

「大丈夫だよ。グラスは強いから何度か派手にやられちゃったけど、フォーレ(じるし)のエリクサーは効果抜群だったから、今は傷ひとつないよ」

「そうじゃなくて!」

 二の腕をみせながら元気だってポーズで笑うアクアへエリスが(たま)らず叫ぶ。

「大丈夫。まだ大丈夫だから。まだ立ち止まっていられない。魔王城タカハシの最奥で、お父さんが私達の事待ってるもん」

「バカっ」

 まだ、という言葉が重い。アクアは、次で(くず)れると宣言しているようなものじゃないか。

 アクアはかわりに涙目になっているエリスから視線を逸らすと、ボクと目を合わせてきた。

「やったねジャス。ブレイブ・ブレイドを一発温存できたよ。エリクサーだって一本残ってるし、(うれ)いなくお父さんを討伐しに迎えるよ」

 アクアの機転(きてん)で偶然にもブレイブ・ブレイドを温存できた。討伐すべき魔王に浴びせる一撃を。

「そうだねアクア。ボクたちは、魔王を討伐しに行かなければ」

 ワイズとクミンが遠くから不穏の眼差しを送ってくる。けどすぐに普段通りの振る舞いに二人は戻った。

「ンだな。遠路はるばる魔王を討伐しに来たんだ。とびっきりの魔法の一発ぐらい食らわせなきゃわりに合わねぇぜ」

「ワシも一度くらいは大剣を当てないとねえ。グラスとの戦いでは捨て置かなきゃいけない始末だったし、消化不良もいいところだよ」

「あははっ。二人とも気合い入ってるね。お父さん今頃、武者震(むしゃぶる)いが止まらないんじゃないかな」

 どうしよう。(ちぢ)こまって震えている()しか浮かばないのだけれど。

「ほら、エリスも意気込み入れようよ。考えてみればエリスのお父さんが殺された原因でもあるんだよ」

 アクアが弾んだ様子でエリスへ近づくと、パンと平手で頬を打たれた。

「今更その事引き合いに出すんじゃないわよ。次言ったら絶交すんだからね!」

 撃たれた頬を手で抑えるアクアをよそに、エリスは一人で勝手にドスドスと城の奥へと進んでいった。

「エリス。道わかるの」

 アクアの疑問に足をピタリと止める。

「わかるわけないでしょ。さっさと案内しなさいよね!」

 照れ隠しなのか怒りなのかエリスが叫ぶ。ボクたちは少し苦笑し合った後、五人で魔王城タカハシを進んだ。

 どうやら()えないおっさんは謁見(えっけん)の間で待ち受けているようで、アクアの道案内を受けながら見るも見事な通路を進んで行く。油断するとどこぞの王城を歩いているのだと錯覚しそうだ。

 アクアがいなかったら迷っていただろうな。まぁコレに至っては、どの貴族の館でも起こりうる事なんだけれども。

「後はこの通路をまっすぐ進むと豪華な扉があるから、ソコが謁見の間だよ。って、あれ」

 魔物の一匹どころか罠すらない通路を迷う事なく進んでいたアクアだったけど、最後の直線で首を傾げた。

「どうしたのよアクア。って、こんな通路に人影。ちょっと!」

 通路の真ん中に佇む女性を認識した瞬間、()()怖気(おぞけ)で満たされた。

 エリスどころかアクアを(のぞ)いたみんなが青ざめ、汗を噴き出している。

 作られたかのように整った美貌(びぼう)に黒のドレス。艶やかな金のボブカットからはふたつの曲がった黒い角が生えている。

 赤い色をした瞳に切れ長の目尻が支配者の威圧感と余裕を(かも)し出している。

 間違いようがない。コイツが、真の魔王チェル。討伐すべき魔王だ。

「うおぉぉぉぉぉおっ!」

 ボクは雄叫びを上げながら、反射的に剣を抜いて駆け出した。

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