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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
718/738

717 泡沫の玉座

 ケツが(しず)むほどフワフワな座面に程よい硬さの手すり。目を閉じれば座ったままでも快適に眠れちまう程だ。

 もうすぐ、俺を討伐しに勇者が現れる。

 それ相応の威厳(いげん)を持って迎え撃とうと準備をした、まではよかったんだけどな。

 俺は玉座(ぎょくざ)の後ろに脱ぎ捨てられている、なんちゃって魔王装備一式を思い浮かべて苦笑したぜ。

「せっかく晴れ着をガキ共に作ってもらったてのになぁ、身につけるだけで(かた)っ苦しくて肩が()っちまうとは思わなかったぜ。俺も歳かねぇ」

 しかもなんちゃって魔王装備は使用してこそ真価を発揮する代物なんだけどなぁ。いよいよとなると身体が恐怖で震えちまう。

「まっ、その代わり日本での普段着を身に着けてっからな。異質な雰囲気は出せっだろ」

「ボロい半袖TシャツにGパン姿で強がってんじゃねぇよジジイ。ボクらが作った装備をひとつも身に着けられてねぇってのによぉ」

 謁見(えっけん)の間を支える八つの支柱のひとつ、アラクネが掘られている支柱の側でデッドが悪態をついた。

「いいじゃないですか。父上から使う覚悟を感じられるのですから。かっこいいと思うなら素直に伝えた方がいいですよ」

 シャドーの支柱の側からシェイが宥めると、デッドはケっと視線を逸らして舌打ちをした。

「そうそう。待ちに待った晴れ舞台なんだもん。パーっと自由に暴れちゃおう。誰にも気を遣う必要ないんだから」

 ハーピィの支柱の側から期待に満ちた喜色をして、両腕を広げながらエアが胸を張る。

「オヤジは冴えないダメ男だからね。少しくらい見栄(みえ)張っていいところをみせないと、()れた女が逃げてしまうよ」

 ユニコーンの支柱の側で、オーバーなリアクションで首を振りながらシャインが(なげ)いた。

「キャハハっ。よーやく()っくき勇者が到着するんだねー。ズッタズタのボロボロに泣かせて地獄まで送っちゃおーよーパパー」

 スケルトンの支柱の側からヴァリーが無邪気な笑顔に邪気を(まと)わせて物騒(ぶっそう)提案(ていあん)をしてきたぜ。殺された事を根に持ってんだろうなぁ。

「もうちょっとだねぇ。あともう一踏ん張りだよぉ。おとーなら大丈夫だからぁ、魔王をやり()げよぉ」

 マンドラゴアの支柱の側からのんびりとした声援をフォーレが送ってくれた。きっと最初から見えてたんだろうな、俺が視認(しにん)する前から、俺の目指すゴールが。

「ただいま戻りました、父さん。やっぱり勇者達はアクアを含めて強敵でした。()いだらけの人生だったけれど、楽しかったです」

 グラスがドアも開かずに謁見の間に入ってくると、マンティコアの支柱の側まで歩いてきたぜ。

「ご苦労さん、グラス。みんなも、おつかれ。俺の戦いは終わったらよぉ、盛大にバカ騒ぎといこうぜ」

 俺の提案にみんなが喜びの声を上げる。謁見の間はとても賑やかな雰囲気に包まれて、温かみに溢れていた。

 嬉しさを噛み締めながら目を閉じて、呟く。

「なんてな。もしもみんなの(たましい)がここに集まっていて見聞きできたなら、そんな会話もしていたのかもしんねぇなぁ」

 再び目を開けると、謁見の間は冷たい静寂に満ちていた。俺一人だけがポツンと玉座に座っていて、後は誰一人として存在しない。

 けれどもコレが、俺が望んでしまった道なんだ。何度くじけかけても立ち上がって突き進んだ。閉ざされていた未来を切り開くために。

 この後チェルが別れの挨拶に来て、ちょっとした談笑を交わしたぜ。

 元気に生きろや、チェル。

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