715 突き重なる力
「溜まったね。撃ちなジャス。ワシが魔王グラスを留めてる内に」
「笑止。俺の筋力を甘くみるな」
魔王グラスは力尽くで羽交い締めを振り解くと、クミンのボディに回し蹴りを浴びせて氷壁の奥へと吹き飛ばした。
「ゴフっ」
「クミン」
氷壁の向こうでエリスが、エリクサーを手にクミンへと駆け寄っていく。回復は間に合いそうだけれど、援護はもう期待できないだろう。
「しかし勇者の因果律とは大したものだ。全力で必殺技の妨害を試みてなお、完成を許してしまうのだからな。だがそうでなくてはおもしろくない。力比べといこうかっ!」
魔王グラスが腰を落とし、迎撃する体勢で待ち受ける。
万全の状態を相手に勝負はしたくないのだけれど、頼れる武器がもう必殺技しかない。
ならば、全身全霊の一撃目を放ちながら即座に第ニ射を溜めるまでだ。
決まってくれ。
「行くぞ。ブレイブ・ブレイド!」
極限まで剣に溜め込まれた勇者の力を、剣撃と化して解き放つ。
「うおぉぉぉぉぉおっ。獣爪拳っ!」
身体を捻り、遠心力を加えて腕を全力の振り回す攻撃特化の殴り掻き。
ぶつかり合った互いの必殺技が周囲に衝撃を撒き散らしながら拮抗を生み出す。
「圧し切れぇ!」
見ているのが焦れったくて咆えてしまう。実戦では、気迫が敵を押し込める事だって充分あり得る。
「ぐっ」
魔王グラスの腕が徐々に押し戻されていく。このまま、このままっ。
「この根比べ、負けてしまってはなんのために日々鍛錬を積み重ねてきたかわからなくなるわ。今ここで、筋肉こそがパワーである事を証明してみせる。おぉぉぉぉぉおっ!」
魔王グラスが負けじと吼え、ブレイブ・ブレイドを押し返してきた。
マズい。ブレイブ・ブレイドが霧散させられる。
中途半端な二発目を足しとして重ねるべきか、我慢して最後の最大チャージに希望を見出すべきか。
ダメだ。どっちも勝てるビジョンが浮かばない。魔王グラスの筋肉に、押し潰されてしまう。
「まだだよ。はぁぁぁぁぁあっ!」
「アクアっ!」
拮抗している魔王グラスへ向かって、真正面から駆け込みトライデントを突き出した。
「この状況からカジキだと。ブレイブ・ブレイドの上から重ねる気かっ。アクアぁぁぁぁあっ!」
ブレイブ・ブレイドの真後ろからトライデントを突き重ね、アクアが獣爪拳へ全力のケンカを売る。
「鱘・勇魷槍!」
「おっ、おぉぉぉぉぉぉおっ!」
カジキに勇者の力を乗算させた一撃が、日々積み重ねて鍛え上げられた逞しい腕を吹き飛ばしたのであった。




