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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
715/738

714 全力で頼る忍耐

「うそ、だろ。クミン」

 乾いたワイズの声がこぼれる。

「そんな、クミンが」

 エリスの茶色い瞳が大きく見開かれる。

「さぁ勇者、次はおまえだ。ブレイブ・ブレイドのチャージ、中断させてもらおうか!」

 魔王グラスはクミンに興味を失ったとばかりに視線を外し、ボクへと標的を定め迫ってきた。

 叶う事なら今すぐに、その自信に(まみ)れた顔面を思いっきり殴り飛ばしたい。けども、ここでブレイブ・ブレイドを投げ出したら、クミンの覚悟を(にじ)り潰してしまう事になる。

「ワイズ、エリス。ボクを守ってくれ!」

 ボク一人がみっともなさを(さら)して糸口を掴めるのなら、いくらでもみっともなくなってやる。他人任せだろうとも必ず完成させ、必殺の一撃を浴びせてみせる。

「任せろっ! クリエイトアイスっ!」

「いい加減、留まりなさいよっ!」

 ボクと魔王グラスの間を遮るようワイズが分厚い氷壁(ひょうへき)を作り出し、エリスが矢を連射して動きを阻害(そがい)する。

「今更こんな壁如きで留まる俺ではないわっ。獣爪拳(じゅうそうけん)っ!」

 右の剛爪(ごうそう)が氷壁を()き上げ、巨大な爪痕を刻む。

「むっ、分厚い氷だ」

「ったりめぇだ。俺の魔力をほぼほぼ注ぎ込んだ壁なんだ。そう簡単に砕かれて()まっか」

 ワイズがエリクサーを(あお)りながら啖呵(たんか)を切る。

 魔王グラスが立ち往生(おうじょう)している間も、背後から矢の群れが迫りゆく。このまま封殺(ふうさつ)できるのなら、ソレでも構わない。

「フンっ。貴様らの希望など、鍛え上げられた(はがね)の筋肉で押し潰してくれよう。はっ!」

 両足を踏ん張り全方向に気迫を放つ攻防一体の技が、(えぐ)れた氷壁を更に削り飛ばしながら飛来(ひらい)する無数の矢を弾き返す。

 マズい。もう一撃で壁が開通する。

 そう危機感を感じた時には、遠心力を加えた回し蹴りで氷壁に風穴を開けられていた。

「待たせたな、今行くぞ」

 誰が待ってるものか。まだチャージは終わっていない。魔王グラスを相手に中途半端な一撃なんてムダ弾もいいところ。最低条件が最大チャージなんだ。溜まれ。溜まれっ。

 歯ぎしりしながらの祈りを、嘲笑(あざわら)うが如く距離を埋めてくる肉食獣。

 ワイズとエリスの援護(えんご)は分厚い氷壁に阻まれて機能しなくなっている。

 殺される。けどもボクは、溜まりきるまで待つしかデキないんだ。無力でも、勇者の役目を全うしてやる。

槍雨(そうう)

「何っ!」

 室内に降り出した槍の雨が魔王グラスを襲い、進行から回避へと移行させる。

 アクアがいつの間に、氷壁の内側にいた。傷ひとつないところを見るに、エリクサーを消費している。

「今日の天気は雨のち(やり)ってね。前だけ見てると不意打(ふいう)ち食らっちゃうんだから」

 アクアがしてやったりと微笑んだ。ようやく、機能した攻撃にご満悦(まんえつ)なようだ。

「ひとつ不意打ちが決まったところでいい気になるな。なっ!」

 槍の雨を(かわ)しきりアクアを睨んでいた魔王グラスに、後ろから誰かが羽交(はが)()めを()める。

「忠告されてただろう。前だけ見てると食らうってね」

「おまえは、クミン。生きていたのか」

 振り(ほど)こうとしながら驚愕(きょうがく)の声が上がる。

「あいにくワシは悪運(あくうん)が強くてねえ。叩きつけられた衝撃(しょうげき)で服に仕込んであったエリクサーの容器が砕けたのさ。おかげでギリギリ命を繋ぎ止めたけれど、嫌な回復のしかたをしちまったよ。破片を皮膚から取り出す時の事は考えたくないね」

 ボクの渡したエリクサーがクミンの一命を取り留めていたのか。怨嗟(えんさ)混じりの拘束は強固で、力を溜める充分な時間を生み出してくれたのだった。

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