713 防御力と根性
「ボクの方はもういいから、クミンも大剣を拾ってくるんだ」
自分の大剣をほっぽってまでボクの剣を優先してくれたんだ。これ以上クミンの手を煩わさせてはいけない。
「言っとくけど、ワシはもうこの戦いで大剣を拾うつもりないよ」
「クミン」
「どうせワシの大剣じゃ魔王グラスを捉えられないからね。わざわざ拾いに行く時間も惜しい。ソレに、撃つ気なんだろ、ブレイブ・ブレイド」
覚悟の決まった瞳で見上げられ反論を失う。据わった目つきが訴えかけてくる。ボクって、わかりやすいのかな。
「クミンも知っているだろうけど、撃つまでに溜めが必要になる。大剣もなしにどう時間を稼ぐつもりだい」
「はんっ。武器なんてなくても、この肉体ひとつでいくらでも魔王グラスを足止めしてやるさ。さっ、雑談してる暇はないよ。溜めなっ!」
ボクの回答も待たずにクミンが魔王グラスへと突っ込んでいった。
制止しようと伸ばしかけた手を引っ込め、奥歯を噛みながら剣へ力を溜めた。否応ないクミンの覚悟、繋がずして何が仲間だ。
「ふっ、心意気やよし。全力で打ち砕く甲斐があるものよ」
「ドワーフの頑丈さを舐めんじゃないよ。ワイズ、固くなるヤツ」
「ディフェンスマジックぅ! 死ぬなよ相棒ぉ!」
クミンが吠えてワイズが応える。防御力を上げるバフを纏い、待ち受ける魔王グラスへと殴り込んだ。
小さな右の拳は、スウェーで簡単に躱されてしまう。
「短く、遅く、単純。そして何より、大剣ほど動きが洗練されていない。素手での特攻は早計だったな!」
開かれた右のボディに、魔王グラスの左の爪がめり込んだ。
「むっ、思ったより固いな」
「腹筋を固めてたからね。ドワーフの頑丈さに加えてバフまでかかってるんだ。油断しきった攻撃の一発くらいならいくらでも堪えられるよ」
クミンが微笑みながら、口の端から血を垂らす。
違う。防御力なんて優に貫通しきっている。今魔王グラスの攻撃を留めているのは、クミンの根性だ。
クミンは逞しい左腕に全身を使って組み付き、動かせないようキツく締め付ける。
「時間稼ぎなんて甘っちょろいんだよ。左腕一本、もらってくよ!」
ギチギチと悲鳴を上げる左腕。力任せにへし折る気だ。
「くくっ。実におもしろい。俺に力でこうまで食い下がってくるとはな。ひとついい事を教えてやろう。徒手空拳にだって使える武器は存在するのだ!」
「なっ!」
魔王グラスは左腕を振り上げると、クミンを床に叩きつけた。鈍い音が鳴り、床が沈み、地面が揺れる。
拘束は緩まり左腕に自由が戻る。クミンを中心に血溜まりが満ちていく。人間に比べて小さな身体が、動かない。
「ク、ミン」
チャージが重い。まだ撃てない一撃が歯がゆい。動けないのが、ツラい。




