712 剣を再び
「うおぉぉぉおっ。獣爪拳!」
魔王グラスが迫り来る轟爆の火線へ右の爪を思いっきり振り抜いて掻っ裂いた。切り裂かれた魔法が後方でドゴンと爆音を立てて弾ける。
「ウっソだろクソがぁ!」
ワイズが悪態を叩きながらエリクサーを飲み干す。今ので魔力を一度使い果たしたのだろう。
「悔しがる事はない。いいセンスだった。殺意も強くとっさに必殺技を使わされたほどだ」
誤算だった。ワイズの上級魔法を叩き切る必殺技を、双剣なしでも携えていたなんて。いよいよブレイブ・ブレイドをためらっていられない。
剣を、早く剣をっ。
壁に突き刺さっている剣の柄に手を伸ばし、ガッシリと握った。
よしっ。
力を込めて壁から剣を引き抜き、引き抜っ。
「ぐっ、ぬっ、ぬおぉぉぉぉおっ!」
抜けない。バカなっ。どれだけ固く突き刺さっているんだ。
「なんと嘆かわしい。あまりにも筋肉が足りていないのではないか。言っておくが剣を抜けるまで待ってやれるほど、俺はフェアではない」
くっ、無防備な状態のボクを叩き殺すつもりか。
「がっ、時間をくれてやるのも一興か。制限時間は、お仲間が全滅するまでといこう」
「ざけんなぁ!」
怒りを力に変え、壁を踏みながら抜くのを試みるがビクともしない。
「非力とは罪だな。いざという時に武器を振るうことさえ許されない。殺戮ショーの観戦がイヤなら死ぬ気で力を入れる事だ」
魔王グラスがワイズを標的に定めて睨み付けた。
「おいおい」
「まずはおまえからだ。賢しい魔法使い」
気圧され半歩後退するワイズへ、魔王グラスは容赦なく駆け出した。
「集中豪槍雨!」
「むっ」
横殴りに降る槍の雨が魔王グラスの進行を遮り、後退を選択させる。
「無様に吹き飛ばされておきながら無傷であった、というわけでもなさそうだな。アクア」
「気迫だけでエリクサー一本使わされるなんて思わなかったよグラス。もう、中途半端な接近戦なんてデキないよね」
アクアが覚悟を決めてトライデントを構えると、魔王グラスも応えるように身構えた。
「行くよグラス」
「来い、アクア」
アクアは足に溜めた力を突進力に変え、待ち構えている魔王グラスへと俊足で迫る。
「カジキっ!」
「獣爪拳っ!」
互いの意地をかけた必殺技がぶつかり合い、青のシルエットが赤の彩りをコントラストさせながら宙へと舞った。
「アクアっ!」
「|余所見「よそみ」してんじゃないよジャス。今の内に剣を引っこ抜くよ!」
「クミンっ!」
気がつくとボクの隣には、大剣を持たず身軽になっているクミンがボクの剣を一緒に握っていた。
「あとエリクサー一本寄越しな。ワシのは全部使い切っちまったからね」
魔王グラスの気迫に吹っ飛ばされた時に使ったんだ。渡す約束をしながら息を合わせて力を込める。
「せーのっ!」
アクア決死の時間稼ぎに感謝をしつつ、ボクたちは壁に刺さった剣を力尽くで引っこ抜いたのだった。
もう、手放さない。




