710 目には目を
「レーザ○トライデント!」
アクアの投げ槍がワイズと魔王グラスの間へ割り込むように放たれる。
「おっと。ソイツは受けれんな」
危機感を覚えた魔王グラスは攻撃から逃げへ転じ、床を蹴ってワイズの頭上を飛び越える事で回避をした。
「助かったぜアクア。死ぬとこだった」
「集中して。気を抜いたら一瞬でやられちゃうから」
一命を取り留めたところで一息ついたワイズへ、アクアが一喝を入れる。
ボクでさえ通常攻撃一発で致命傷を負ったんだ。ワイズやエリスなんてエリクサーを使う猶予もなく即死してしまう可能性が考えられる。
アクアの言っていた事が頷ける。タカハシ家で最強は、紛れもなく魔王グラスだ。
「人間とは脆いものだな。が、手を抜くつもりは毛頭ない。せめて脆いなりに抗ってみせろ」
グラスは床へ着地するとまっすぐ走り、壁へと跳ぶ。宙返りしながら両足で壁を捉えると、勢いよく蹴ってエリスへと矢のように迫った。
「壁からここまでどんだけ距離あると思ってんのよ!」
人が勢いを保てる距離など優に超えた遠さを一蹴りで埋める魔王グラス。迎撃の矢を放つ時間すら与えられない。
「エリス危ない!」
「アクアっ!」
アクアがエリスを庇うように抱きかかえながら床へ跳び込む事で、攻撃を躱そうとする。
「悪くはないが、遅いっ!」
「ぐぅ!」
魔王グラスの伸ばした爪が、アクアの背中を掻っ裂いた。
「アクア」
「これくらい大丈夫だから、うろたえないでさっさと立つ」
アクアは即座に立ち上がり、水からトライデントを精製しながら周囲の確認をする。
魔王グラスは両手を床について跳び、半回転して着地を試みていた。
「好き勝手するのも、大概にしなっ!」
クミンが着地地点へ回り込んでいる。大剣による振り下ろしが魔王グラスへと迫る。
「フンっ!」
太い右足から繰り出される蹴りが、大剣の振り下ろしを相殺する。
「いい重さだ。相対するに申し分ない」
「素足で大剣受け止めんじゃないよ。どんだけバケモンなんだい」
「こんな事もできるぞ」
魔王グラスは身を屈め両手で大剣を持つと、ソコを起点に宙返りしながらクミンの背後へと背中合わせに着地。そして振り返りざまにクミンの背へと肘打ちを炸裂させた。
「がっ!」
「クミン。このヤロぉ!」
大剣を床に落とし前へ吹き飛ばされる。ワイズが怒りざまに火炎魔法を放つと、魔王グラスは後ろへ跳びながら回避をした。
ぐっ、急いで剣を拾ってボクも戦いへ復帰しないと。
「ジャス、受け取って!」
アクアが落ちている剣の下から水を噴き出させる事によってボクの方へと打ち上げた。ナイスだ。コレでボクがクミンを回復するまでの時間を稼げる。
「ハっ!」
魔王グラスが右腕をムチのようにしならせ打つと、先端から衝撃波が飛んで剣をあらぬ方向へと弾いてしまう。
「何っ!」
「戦いが始まる前から俺の武器を封じたのだ。やり返されても文句は言えまい」
してやったりという笑み。絶対強者の卑屈な戦術に、卑怯だと声を上げる事も封じられる始末だった。




