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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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70 母親のたちの気持ち シャドー編

 俺は魔王城の廊下をシェイと一緒に歩いているつもりだ。(はた)から見たら一人に見えるかもしれないけど、ちゃんとシェイはいる。

「なぁ、シェイ。いつものように手を繋いで歩かねぇか。ちょっと味気ねぇんだけど」

「影潜りの練習につきあってくれるといったのは父上ですよ」

 俺の影からシェイの声が聞こえてきた。真下からしゃべられると、ちょっとした恐怖を感じるぜ。

「安定しない影に潜るのはいい訓練になります。このまま母上の部屋まで行けたなら、次の訓練に取りかかれるかもしれません」

 魔王城は光の魔法で(とう)間隔(かんかく)に照らされているからな、影がブレて入りにくいのかも。

「ひょっとして、かなりツラいんじゃないか」

「だからこその訓練ですよ。それに自分は普通に歩くと父上のペースについていけません。ですが影に潜れば父上のペースで歩くことができますよ」

 これって、シェイなりに気を使っているのかも。ったく、情けねぇ父親なもんだ。

 さて、どうすればシェイにムリをさせないですませるかねぇ。普通に言っても聞かねぇ気がするし……よし。

「ありがとなシェイ。さすが自慢の娘だ」

「自分なんかに、もったいないお言葉です」

 謙遜(けんそん)するようでいて抑揚(よくよう)のないセリフだったが、どことなく嬉しさがにじみ出ている。

「だけど、一人で歩くのってちょっと寂しいな。隣で手を繋いで歩いてくれるだけで、ぬくもりがあって安心できるんだけどなぁ」

 わざわざ寂しげに瞼を下げて、大げさにリアクションする。

「寂しい、ですか」

「あぁ、こういっちゃアレだけど、俺も寂しがりやだからな。独っきりは嫌なんだよ」

 俺が呟くと、沈黙が返ってきた。影の平面にシェイの大きな一つ目が映し出される。黙ったまま歩いていると、シェイが影から飛び出てきた。

 フィッシュ! たぶん釣れた。

「どうした、シェイ」

 思惑を顔に出さないように、不思議そうに尋ねる。

「遅くてもいいのなら、自分が一緒に歩きますよ」

 パッチリした瞳を上目遣いに、白くやわらかな手を繋いでくれる。恥ずかしいのか、頬は赤く染まっていた。

「シェイ……ありがとな」

 ギュっと握り返してから、シャドーの部屋へとゆっくり向かっていった。


 シェイと一緒に真っ暗な部屋に入る。奥に進むとドアが勝手に閉じ、光がシャットダウンされた。

「相変らず雰囲気のある部屋だな。気温は変わってねぇはずなのに、寒気を感じちまうぜ」

「父上、大丈夫ですか」

 唯一見ることができるシェイの一つ目が、足元から心配そうに覗いてくる。

「大丈夫。もう何度も来てるんだ。さすがに慣れてるよ」

「そうムリをするなコーイチ。人間は暗闇を怖がる生き物です。痩せ我慢は心に毒ですよ」

「うひゃあ!」

 耳元から弦楽器のような高音で囁かれ、思わずゾクリとしちまった。

「ほら、ちょっとつついただけでボロが出ましたよ」

 平坦ながらも愉快そうな声が響いた。形は見えないがシャドーの仕業だ。

「母上、今のはイタズラがすぎると思います」

「ふふっ。シェイに怒られてしまいましたね」

 昔は感情なんてカケラも感じられないシャドーだったが、シェイを産んでからやさしさを感じられるようになった気がする。母親の愛情ってやつかもな。

「十日ぶりですね、シェイ。精神の落ち着きよう、成長を窺えますよ。進上していますね」

「ありがとうございます。母上、今日もよろしくお願いします」

 シャドーはどうか知らなけど、シェイは頭を下げた。

 にしても言葉に温度がないな。聞いただけじゃ母娘(おやこ)の会話に聞こえないのがある意味すげぇ。

 などと感心していたら、シェイの瞳が部屋の奥へと向かってしまう。

「あっ、ちょい待ち」

 いかんいかん。闇の間がどれくらい深いか知らないけど、目に見える範囲で聞いとかなきゃな。

「父上?」

「どうしましたか? コーイチ」

 シェイが振り向いて見上げる。恐らくシャドーも隣で振り向いているだろう。

「シャドーに聞いときたいことがあってな」

 って言っても、こいつの場合は理由があるか怪しいところなんだけどな。

「俺との子供を作った理由を教えてほしい」

「コーイチのその問い、何か確信のあるものに迫りましたね」

 うわぁ、一発で見抜かれた。さすがはシャドーってところか。(かな)わねぇぜ。

「母上、チェル様の(めい)だからではないのですか」

 俺が感心していると、シェイが疑問を投げかけた。

「勿論、チェル様が望んだからです。自分は、自分たちはそのために生きていますから」

 諭す言葉には誇りが宿っている。間違いなんて何一つないんだと言い切るようだ。

「一応、俺は食堂のことを知ったと言っておく。改めて、本当に命令されたからか?」

「やはり知りましたか。そうですよ。おかげで優秀な子宝に恵まれ、将来は安泰です。命令されるがままでしたが、今は間違いではなかったと自信を持って言えます」

 暗くて表情は見えないけど、自信を持った凛々しい顔を浮かべているんだろうな。

「それに、あの方は魔族から見てもまっすぐで尊敬できます。だから()くせます。シェイ、あなたも尊敬できる人のためになりなさい。失敗してもいいです。忠誠を誓えることが大切なのです」

「はい。母上」

 尊敬、それがシャドーの中核ってやつか。真っ暗なのに眩しい生き方をしてやがる。

 受け答えするシェイの瞳も、まっすぐで眩しかった。

「ではコーイチ。自分はシェイの訓練をしてきますね」

「おう、引き留めて悪かったな」

「構いませんよ。コーイチのためになるのなら。行きますよ、シェイ」

 シャドーは期待を込めた言葉を残して、シェイと闇の奥へと消えた。

 ちっ。俺の迷いに気づいときながら、重たいもんを押しつけやがったな。決断するのが、キツイぜ。


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