表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
709/738

708 飾り

「ほぉ、エレベーターから来たか。勇者も俺との戦いがよほど待ち遠しかったとみえるな」

 ドアが開いた瞬間、遠くに仁王(におう)()ちして待つ魔王グラスの姿が映った。本当に最短かつ直通だったよ。急に暴力的な威圧感(いあつかん)(さら)されるのは心臓によくない。

「お待たせグラス。みんなから最短のルートを所望(しょもう)されちゃったからね。もう準備万端だよ」

「ウソつかないでくれる。最短のルートは頼んだけど、覚悟したのはたった今なんだからね」

 エリスが文句を言いながら、一歩踏み出し弓を構えた。

「ワシらも焼きが回ったもんだね。チームの最年少に皮切りを任せちまうんだから」

 クミンが大剣を手に持ちながら歩を進め、魔王グラスを睨み付ける。

「そうだね。今更ひよってなんていられない。魔王グラス、ボクたちは今日ここで、タカハシ家の悲しき輪廻(りんね)を断ち切ってみせる!」

 先頭まで進み、剣先を向けて宣言をする。ボクたちは、負けない。

「くっくっ。意気込みやよし。そうでなくてはおもしろくないからな。さぁ、そこの魔法使いもこのフロアへと踏み入ってこい」

 魔王グラスは不適(ふてき)の笑みを浮かべながら、エレベーターに(とど)まっているワイズへ挑発をかました。

「うっせ。そこにいる連中のように強敵相手にすんなり覚悟を決めれるほど、オレは狂人(きょうじん)じゃねぇんだよ。足の震えぐらい許しやがれ」

 ワイズが怯えている。ムリもない。チームの中で一番理知的である故、理解している恐怖をなかなか振り払えないのだろう。覚悟をする時間が足りなさすぎた。

「ねぇワイズ」

「ンだよアクア。臆病(おくびょう)だって笑う気か」

「早く出ないとエレベーターのドア、勝手に閉まるよ」

「はっ?」

 アクアが指摘すると、エレベーターのドアがゆっくりと閉まりだした。

「ちょっ、待て待てコラぁ!」

 慌てて走り降りるワイズ。締まりは悪いけれど、全員が戦場へ足を踏み入れた事になる。

「なるほど。勇者一行はコントも一流のようだな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「受け取んじゃないわよアクア。魔王グラスもボケてんのかガチなのかわからないテンションで(うなず)かない」

 エリスは忙しそうだな。タカハシ家のペースに乗せられていると言えなくもないけれども。

「まぁいい。アレを見ろ」

 グラスは後方上空を振り向いてボクたちの視線を促した。

 素直に追うと、黒く輝く剣と白く濁った剣がクロス状になって飾られていた。一対の双剣なのだろう。双方とも剣そのものに魔力を感じられる。

「おいジャス、アレ」

「あぁワイズ、こんな事が起こるなんて思わなかった」

 まさか戦いに使うであろう強力な武器が、壁に飾られているだなんて。

黒明(こくめい)白暗(はくあん)。これからお前らと相対する双剣の名だ」

「フリーズぅ!」

 魔王グラスが(えつ)(ひた)って武器を自慢しているところへ、ワイズが不意打ちの凍結魔法を放つ。

「何っ!」

「ワイズっ!」

 タカハシ兄弟が驚愕(きょうがく)するなか、ワイズの凍結魔法が壁の双剣を凍らせた。

 卑怯(ひきょう)だろうがなんだろうが構わない。武器破壊をする千載一遇のチャンスが開幕に転がっていたんだ。(のが)せるほどボクたちに余裕はない。

「ヤりな、ワイズ!」

「わかってらぁ。トップインフィルノぉ!」

 続いて放たれる轟熱(ごうねつ)火線(かせん)が、()てつかせた氷ごと双剣を粉微塵(こなみじん)に破壊した。

「なっ!」

 目と口を見開く魔王グラス。当然だろう。戦う前から武器を砕かれたのだから。そしてその隙を逃すほど、ボクたちは甘くない。

 ボクとクミンは同時に走り出した。クミンは迂回をし、ボクはまっすぐ魔王グラスへと跳びかかる。

「ちょ、ダメだよジャス!」

 アクアの制止が聞き流しながら、振り上げた剣を全力で下ろす。

 言いたい事はわかる。最終決戦なんだから正々堂々と戦おうとか、そういった感情が入り交じっているのだろう。弟の戦いへの思いも汲みたいのかものかもしれない。

 けども、実戦に甘い考えなんて通用しないんだ。この先手で一気に決める。

「グラスは素手(すで)の方が強い!」

 えっ?

 振り下ろされる剣の向こうで、魔王グラスが獰猛(どうもう)な笑みを浮かべながら茶色く輝いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ