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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
706/738

705 あとかたづけ

「いってらっしゃい、アクア」

 タカハシ家二階建て一軒家の二階の窓から、魔王城タカハシへ出かけてゆくアクアと勇者一行をひっそりと見送ったわ。

「にしても、勇者と魔王の因果とは深いものね。写真を見ただけで私の存在に勘付くとは思わなかったもの」

 ただまさか、私がまだこの家でくつろいでいるとは思わなかったようだけれどね。同じ屋根の下にまで近付いていたというのに、滑稽(こっけい)だわ。

 思わず、微笑が漏れてしまう。

 家に残っていたのは単なる気まぐれ。アクアとグラスの最後の団欒(だんらん)を近くで感じたかったのと、ススキが勇者に対してどう動くのかを見守りたかっただけ。

 コーイチだけ先に魔王城タカハシへ行かせて待たせるのも、城内で迷いそうで不安だったわ。大丈夫かしら。グラスと当たる前にバッタリ鉢合わせなんてしないでしょうね。

 好奇心に負けてしまった事を今更ながら軽はずみだったと反省するわ。

「やってしまった事はしょうがなくてね。心配だけれど信じましょう。暫く時間をおいてから私も出発しないと。グラスがアクア達を足止めしている間に、コーイチの元まで回り込まなくてはね」

 自室を出て、静まり返った家の中を歩く。

「この家は、いつの間にこんなに静かになってしまったのかしら。常に騒がしさが絶えなかったのに」

 まだイキイキとしていたコーイチが幼かった子供達に引っ張りだこにされていた。そんな幻影(げんえい)幻聴(げんちょう)が浮かび上がっては透き通ってゆく。

「私、元々は静かな方が好きだったのよね。けどどうしてかしら、今は静寂(せいじゃく)なのが物足りないわ」

 家の中でドタバタと追いかけっこし、ペチャクチャと気遣う事なくお喋りし、気まぐれに近寄ってきてはつまらない遊びに付き合わされて。

「きっとコレが、幸せだった。って事なのでしょうね。あら」

 リビングに入ると、テーブルの上に片付けられていないコップと、出しっぱなしのアルバムが目に飛び込んできたわ。

「あらあら。シッカリしてきたと思ったんだけど、アクアもまだまだ子供ね。後片付けぐらいやっていきなさい。しょうがなくてね」

 コーイチの世界の知識から授かった、眩しすぎる思い出の塊を棚に戻す。きっと今開いてしまったら、私は進めなくなってしまう。

 いつか、悲しむ事なく懐かしむ事ができるのかしら。

 次にコップをキッチンへ持っていき、手洗いをする。水の音だけが虚しく家に広がり消える。

「この家に一人で暮らすには、少々広すぎるかもしれなくてね」

 空間を持て余してしまうし、何より思い出が重すぎるわ。

 水道の蛇口を閉め、コップを乾かしタオルで手を拭く。タオルはそのまま洗濯機に突っ込んで回したわ。

「余計な事を考えるのは終わってからでもよくてね。さぁコーイチ、華々しくフィナーレを飾ってみせなさい。私が、側で見守ってあげてよ」

 私も勇者の後を追う形で、家を出たわ。

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