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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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6 悪夢の連鎖

 もうイヤ。お嫁にいけない。

 水浸しでうつ伏せに倒れ、ゼェゼェと息を上げながら切実に思った。

「お疲れ様。少し休憩が必要かしら?」

 チェルが若干だけ気づかわしげに声をかけるけど、応える気力はなかった。だって、水の中でヌメヌメが全身に、全身隅々にぃ~!

 思い出すだけで怖気が蘇ってくる。せめてもうちょっと萌え養分があったなら楽しむこともできたのに。魔物魔物しい外見はありえないよ。

「まぁ、休んでいなさいな。クラーケンはどうだったかしら?」

「えーやだ。そんなこと聞かないでよー。それは、その、気持ちよかったけどぉ」

 恥らいながら初体験の少女のように語るの止めてくれ。特に本人がいる前では。生々しくて聞いていられないから。

「まぁ! 楽しめたのなら何よりね。その調子でぜひ、人間との子供を孕んでほしいわ」

「きっとチェル様の期待に応えて見せます。自信、ないですけどやって見せます」

 グッと一本の足をサムズアップした。乗り気なのは買うけど、俺をこれ以上巻き込まないでね。お願いだから。

 ずっと寝そべっていたので、荒い息も落ち着いてきた。

「さて、息も整ったようだし。次に行くわよコーイチ」

 チェル様はしっかりと俺を見ていらしたよ。

「まっ、まだなんかあるんですか?」

 俺はもう虫の息ですよ。精神ライフはとっくにゼロですよ。勘弁してくださいよ。

 弱々しく視線で訴えるも、チェルは俺の内心を透かしたような怖気を感じる笑みで見下ろした。

 答えなんて、聞かなくてもわかってしまうのが嫌だ。俺の予感が間違っていてほしいと切に願う。

「勿論あるわよ。実験は、まだ始まったばかりだから」

 妖艶にゆったりとした口調で言わないでください。なじっているんですか? なじっているんですね。

 俺は乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。


「あの、この獰猛(どうもう)そうな魔物……いえ、魔人はなんなんですか? ひょっとして次はこの方なんですか?」

 俺は失礼とわかりつつも、震える指を相手にさしてチェルに聞いた。

「えぇ。実験がやりやすいように広々とした室内を用意したのよ。ありがたく思いなさい」

 確かに広いですね。魔王様がいた最終決戦場と比べれば華美もなくて狭いけど、それでも団体戦のスポーツを悠々とできるほど広く平坦なお部屋ですよ。中ボスの間みたいな。

 問題は立ち向かう人間が脆弱(ぜいじゃく)な俺ってところ。さらに相手は俺と同程度の背をした魔物ときていますわぁ。

 サソリのしっぽにコウモリの翼、そしてライオンの身体をした四足獣。凛と黄金色のたてがみは雄々しい。鋭い牙が肉食ですよ、人間平気で食べますよと宣言している。

 RPGでも後半あたりに出てくるであろうマンティコアだ。

「あの、チェルさん。俺、思いっきり睨まれてるんですけど。絶対これからのことを不服に思っていますよ」

「不服で当然だ。いくらチェル嬢の頼みとはいえ、卑猥(ひわい)な人間相手に性交をせねばならんのだからな」

 グルルと吠えんばかりに下から睨んでくるよ。

「と、仰っているので諦めましょう。そもそもメスなんですか? 思いっきりたてがみがあるんですが」

「マンティコアに至っては、どこが意志を持っているかによるわね。サソリのしっぽか、あるいはコウモリの羽が主軸なのでしょう。だから、ライオン部分がオスでも、彼女は間違いなくメスよ」

 その理論で本当に身体はメスなのか? 俺、掘るのも掘られるのも勘弁よ。さっき水浸しになったことを別にして、とても寒気を感じるわ。

「マンティコア。あなたにもコーイチを殺さずに受け入れてほしいわ。クラーケンも協力していくれたし、お願いするわ」

「チェル嬢の言うことには逆らえんさ。だが、結果が伴わなかったとしても文句は受けつけんぞ。私を責めるのは筋違いだからな」

 マンティコアは俺に一瞥(いちべつ)を向けると、盛大な舌打ちをした。それなのに断らないとは、俺もいろんな意味で覚悟を決めなければならない。ならないのかぁ。

「構わないわ。さっ、始めてちょうだい。私はここで見ているから」

 やっぱり俺には拒否権がないのですね。うわっ、マンティコアさんは俺を殺さんと睨んでるし。俺、生き残れるかな?

 この後、生傷を追いながらもどうにか行為を終わらせることができた。ただでさえツラいのに、見学されながらの露出プレイだなんて酷すぎる。


 その後も。

「いやー、死ぬっ。死ぬっ! スリルがおかしいからっ、ねっ」

「ははっ。元気のいい人間だねコーイチは。なかなか楽しいし、悪くないよ」

 次のお相手はハーピィさん。茶色い羽をした空飛ぶ魔族だ。何も遮る壁のない、遥か上空でマンティコアのとき以上の露出プレイに励んでいた。勿論、俺に乗り気はない。


「吸われるっ、吸われるぅ! 締めつけられるぅ!」

「ん~、精気は微妙だけど、コーイチはなかなかにぃ、い~感じ。あっ、あんまり暴れると私が外に出ちゃうから暴れないでねぇ」

「出ないで。おとなしくするから。あなたが外に出ると、俺が絶対に死んじゃうから!」

 次のお相手はマンドラゴア。引き抜くと致死級の叫び声をあげる魔族だ。土に埋まっていて黄色い菊のような花しか見えない。俺は土に埋められて拘束プレイをさせられている。

 時間が経つにつれ、マンドラゴアが盛り上がってくるのが怖い。拘束プレイ&死の恐怖が目前にある吊り橋効果で、身体だけは恐ろしい反応を示した。


「怖いから暴れないで。落ちちゃうから。それとあんまり激しく揺らさないで」

「黙れコーイチ。何が悲しくて人間の男となど、男となどぉ! 事故に見せかけて殺さんと気がすまん」

「ひぃぃ!」

 次の相手はユニコーンさん。白い毛並みの一角獣だ。処女……いや、乙女を好む魔族で気高い。そんな特性のユニコーンさんが俺に気を許すはずもなく、騎乗位(文字通りの意味)で落馬死させんと激しい攻防を繰り広げることになった。

 命がいくらあっても足りないって。これ。


「あの、頭に血が上るし、動けないし、とっても食われそうな感じなんですが」

「食われそうな感じじゃなくて、食うんだよ。あたいが、コーイチを。さぁて、どんな声で鳴いてくれるのかねぇ。きひひっ」

「お手柔らかに、そして毒だけはなしでお願いします」

「そぉ言われたら毒使うしかないねぇ。チェルの実験で作った媚薬、試してやんよ」

 お次はアラクネ。黒いクモの魔族だ。部屋中にクモの巣が張り巡らされていて、俺はグルグル巻きの宙ぶらりんで頭を下に向けていた。

 そして俺の身体にクモの針がブスリといった。薬でもやったようにハイテンションになって、後はホントに覚えていなかった。


「あのぉ、真っ暗で何も見えないのですけど」

「当然だ。自分もその方が攻めやす……やりやすい」

「ちょっと、言い直す意味あった? ほとんど言い切っちゃてたし、口調も感情を感じないし」

「言い直す意味は気にするな。口調はまぁ、ホントに事務的だからな。チェル様に頼まれたからコーイチとやる。それ以上も以下もない。がっ、できる限り丁重に攻めさせてもらおう」

「ひぃぃ。体中をまさぐられるぅ」

 お次はシャドーって魔族。影のようなお方で、闇に紛れることで真価を発揮するようだ。シャドーは一人しかいないはずなのに、俺の身体は無数の手で愛されゲフンゲフン襲われている。

 正直、今までで一番やさしくて安心した。感情に温度が感じられない割には、やさしい魔族さんのようだ。


「あのぉ、ホントに彼女とはできるんですか? なんか、見た目的に不可能な気がするんだけど」

「えー、何? あたしじゃできないっていうの? チェル様にやれって言われてるのに? 信じらんなーい!」

「でも、どうすりゃ最後までできるんだよ? だって、その身体」

「コーイチってば生意気。いいもん。乗り気じゃなかったけどやってやるもん。あたしのテクでひーひー言わせてやるんだから」

 いえ、もうこれまで充分にひーひー言っております。今度のお相手てはスケルトンさん。チェルが言うには最後のお相手だこと。でも、骨を相手にどうやって。スケルトンも俺の疑問を挑発だと思ったのか乗り気になっちゃうし。

 皮も肉もないのにどうやってって思ったら、さすがはヒト型。普通にやってくれました。骨がゴツゴツでデリケートな部分が大変な目にあいましたけどね。結果的に一番相手したくないのがスケルトンだった。


「はい、お疲れ様。あとは経過を見るだけだから、当分は休んでいていいわよ」

 チェル様、労いの一言。本当にひどい一日だった。


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